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『オリーブと梟』第一部 アスクルムの戦い  作者: 岡田 平真 / オカダ ヒラマサ
〜 アスクルムの戦い
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第74話『舞台裏の演出家』

ルキウス・ユリウス・カエサルとプブリウス・ルティリウス・ルプスが執政官の年(紀元前90年)九月、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス




 「それでは、採決を行う」アルケウスが宣言する。


 「無血開城による降伏案に賛成の方は挙手を」


 次々と手が上がる。最終的には十四対二で可決された。反対票を投じたのは反ローマ派の二家だけだった。


 「賛成多数により降伏は可決された。アスクルムは、ストラボ軍に対して開城による降伏を提案する」


 アルケウスが自身に言い聞かせるように、目を伏せながら宣言した。議場から安堵のため息が漏れる。同時に複雑な感情も混じっていた。これで戦争は避けられるが、同時にアスクルムの独立も完全に失われることになる。


 「さて決はでましたか、一体誰がストラボ将軍との交渉に当たるのですか?」ユニウス・ブルータスが当たり前の質問してくる。

 

 その問いに対し、アルケウスが重々しく口を開いた。

 「長老団が交渉を担当する。これは十七名家全体の決断であり、代表者も十七名家から選出されるべきだ」

 

 「具体的には?」カエシウス・セウェルスが確認するとアルケウスが決然と答えた。

 

 「私が代表を務める。それに加えて、ピナリウス家、マギウス家、セルウィリウス家、ユニウス家から一名ずつを選出し、計五名の使節団を編成する」

 

 

 「アルケウス殿、私も同行いたします。この降伏案を起草したのは私ですし、細部の説明が必要になるかもしれません」

 

 俺は立ち上がって同行を申し出たが、アルケウスは首を振った。

 

 「ティトゥス殿、若きクリスプス。君の貢献は高く評価している。だが、この交渉は十七名家の正式な決議に基づく公的な任務だ。君はクリスプス家の代理人として重要な役割を果たしてくれたが、交渉そのものは我々アスクルムの長老らが責任を持つべきなのだ」

 

 「しかし、ストラボ将軍との交渉は非常に微妙な——」

 

 「だからこそ、経験豊富な我々が当たるべきなのだ」

 

 アルケウスの言葉に、他の長老たちも頷いている。確かに彼の言う通りだった。正式な交渉はやはり正当な権威を持つ者が行うべきなのだろう。

 

 「分かりました。では、私は後方支援に徹します」

 

 「そうしてくれ。君の策略と準備があったからこそ我々は、自信を持って交渉に臨める」

 

 アルケウスが交渉の詳細を説明し始めた。

 「使節団の構成は以下の通りだ。私が首席交渉官、ピナリウスが経済問題担当、マギウスが軍事問題担当、セルウィリウスが法務担当、ユニウスが記録担当」

 

 「いつ交渉を行うのですか?」別の議員が質問する。

 

 「まだ分からない。まずはローマ、そしてストラボ将軍の動向をより深く把握せねば。それまでに、全ての準備を整えておきます。ティトゥス殿、君には交渉資料の最終確認をお願いしたい」

 

 「承知いたしました」

 

 議会が終了すると、俺は一人議事堂に残った。

 窓の外では、夕日がアスクルムの街を赤く染めている。美しい光景だったが、同時にこれが最後になるかもしれないという思いもあった。

 

 場外で会議の様子を伺っていたデモステネスが近づいてきた。

 「若様、交渉は長老団にお任せするのですね」

 

 「そうだ。これは政治的な決断だ。俺のような若輩者が表に出るべきではない」

 

 実際のところ複雑な気持ちだったんだがね。自分が立案した降伏案だけに交渉にも参加したかった。

 だが、アルケウスの判断は正しい。十七名家の威信をかけた交渉に若輩者が首席として臨むわけにはいかない。それに表舞台に自ら飛び込むことは、やはり躊躇してしまう。

 目立ちたくない気持ちには変わりないからな。

 

 「ただし、デモステネス」

 

 「はい」

 

 「万が一の場合に備えて、俺たちも準備を怠ってはならない。交渉がうまくいかなかった場合の次の手を考えておく必要がある」

 

 「承知しました」

 

 「それとは別に、ラビエヌスの動向を注視していてくれ。彼はこの決定を素直に受け入れないかもしれない」


 

 その時、議事堂の扉が開き、そのラビエヌスが入ってきた。彼の表情は相変わらず暗く、今日の議会での決定が重くのしかかっているようだった。

 

 「ティトゥス、話がある」

 

 「何だ?」

 

 「十二名の件……本当にこれでよかったのか?」

 

 彼の声には深い苦悩が込められていた。

 

 「ラビエヌス、君は最善を尽くした。それだけで十分だ」

 

 「だが、あの人たちは……」

 

 「彼らの安全は保証される。それが俺たちにできる最大限のことだ」

 

 ラビエヌスは長い間沈黙していたが、やがて、重々しく口を開いた。

 

 「ティトゥス、もしストラボとの交渉が失敗したら……俺は、俺なりの方法で街を守る」

 

 「どういう意味だ?」その言葉に一抹の不安を感じた。

 

 「……まだ分からない。だが、俺には俺の責任がある」

 

 ラビエヌスはそう言い残すと、足早に議事堂を出て行った。

 彼の背中に、深い決意が刻まれているように見えたのが印象的だった。

 

 「デモステネス」

 

 「はい」

 

 「ラビエヌスを見張っていてくれ。彼が何か無謀なことをしそうになったら、すぐに報告してくれ」

 

 「承知しました」

 

 ストラボとの交渉次第でアスクルムの運命が決まる。

 そして、俺たちの運命も——。



 △▼△▼△▼△▼△


 夜が更けても、アスクルム市内の緊張は収まらなかった。ストラボ軍の接近により、市民たちは不安と恐怖の中で夜を過ごしている。商会の屋上から街を見下ろすと、普段なら明かりが消えているはずの時間に、多くの家々で灯火が燃え続けていた。

 そんな時間にデモステネスが最新の情報を持ってきた。


 「ストラボ軍の動向ですが、攻城兵器の設置が始まっています。明日の夜明けまでには、完全な包囲網が完成する模様です」

 

 「完全な包囲……か」

 

 「はい。アスクルムを完全に取り囲む環状の堡塁を構築しています。これが完成すれば、我々は完全に孤立することになります」

 

 環状堡塁。

 これはローマ軍の典型的な攻城戦術だった。都市を完全に包囲し、補給路を断つことで降伏に追い込む。カエサルがアレシアで使用した戦術と同じだ。

 

 「規模はどの程度になる?」

 

 「約十一ミリア(約16km)に及ぶと推定されます」

 

 十六キロメートル。想像以上の大規模な工事だった。これほどの規模の包囲網を構築するということは、ストラボが長期戦も辞さない覚悟であることを示している。

 

 「さらに重要な情報があります。包囲線が四つの区域に分割され、それぞれに司令官が配置される予定です。特に注目すべきは、第二区の司令官に息子である若きポンペイウスが任命されることです」


 ――ポンペイウス・マグヌス。

 ストラボの息子で、将来のローマを背負うことになる人物だ。まだ二十歳そこそこのはずだが、既に軍事的な才能を発揮し始めている。

 

 「つまり、これは単なる攻城戦ではなく、若きポンペイウスの実戦教育でもあるということか」

 

 「その通りです。ストラボ将軍は息子に実戦経験を積ませることで、将来の指導者としての資質を育てようとしているのでしょう」


 なるほど。そう考えると、今回の包囲戦は単純な軍事作戦を超えた意味を持っている。ストラボにとっては、息子の成長を促す貴重な機会でもあるのだ。

 

 「他に特記事項は?」

 

 「はい。副官のプブリウス・スルピキウス・ルフスという人物が、ストラボ将軍の命で包囲線の視察を行っているようです」

 

 スルピキウス。確か、将来護民官となり、マリウスを支援する人物だったはずだ。なぜ彼がここにいるのか?

 

 「スルピキウスの役割は?」

 

 「詳細は不明ですが、兵士の士気向上に関わっているようです。給与の遅配を自費で補填したという話も聞こえてきます」


 興味深い情報だった。スルピキウスの行動は将来の政治活動の布石かもしれない。兵士たちの支持を得ることで、後に護民官選挙で有利に立とうとしているのだろう。

 

 「分かった。今後の交渉で活用できるよう、アルケウス老にこれらの情報を伝えよう」


 デモステネスが去った後、俺は一人で明日の戦略を練った。

 長老団による交渉では、ストラボの立場と動機を正確に理解することが重要だ。

 

 ストラボの目的は何か?

 

 単純にアスクルムを制圧することだけではないはずだ。

 彼にとっては、政治的な名声の獲得、財貨の確保、そして将来の執政官選挙への準備など複数の目的が絡んでいる。息子の教育もそのひとつかもしれない。

 そうした複雑な動機を理解した上で、アルケウス殿には互いにとって有利な条件を提示するよう助言する必要がある。単なる降伏ではなく、ストラボにとってもメリットのある取引として交渉を進めるのだ。


 

 深夜になって、ソフィアがお湯で薄めた葡萄酒を持ってきてくれた。

 

 「ティトゥス様、交渉の成功を祈っています」

 

 「ありがとう。アルケウス長老なら、きっとうまくやってくれるだろう」

 

 「ティトゥス様のお陰で、十七名家が結束できました。それだけでも大きな成果ですね。彼らのバラバラさ加減と来たら最初はもう……」

 

 「最初は酷かったもんな」


 結束することは、外の敵へと向うときに非常に大事なファクターとなる。

 誰かが後ろから弓を引くかもしれないと言う不安があれば、市を代表した話し合いもへったくれもないだろう。

 誰か一人のちょっとした行動がすべてを台無しにする可能性もある。アスクルムの運命を決する交渉を前に、新たな危機が発生するかもしれない。そうならないよう、まだまだ気を緩めずに兜の緒を引き締める必要がありそうだ。

 

 夜が明けるまであと数時間。アスクルムの運命を決める交渉まで、残された時間はごく僅かだ。

 遠くに見えるストラボ軍の野営地では、松明の光が規則正しく並んでいる。その光の向こうで、明日の歴史を作る男が待っている。

 

 

 そして今、その歴史に新たな一ページが加わろうとしていた。


 

 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


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(いよいよ、舞台が整います)



もし物語の余韻が心に残りましたら、評価やブックマークという形で、想いを返していただければ幸いです。


第一部の登場人物一覧はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/1/


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