第19話『傍観者から演出者へ』
ルキウス・マルキウス・ピリップスと セクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)三月初旬、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス
ついに本格的なクリスプス商会内部の膿を吐き出す調査に着手為ることになった。
デモステネスとソフィアを通じて商会の帳簿を在庫を含め、物の流れを精査し、裏帳簿の存在を確信する。引き続き証拠を探す中でアウレリウス・クリスプス、という若手の奉公人の存在が明らかになる。
彼の境遇を知るにつれ、商人一家の複雑な人間関係と、それぞれの立場から見た正義の在り方について深く考えさせられることになった。
アウレリウスの出自は、我が家の歴史と深く結びついている。彼は孤児だった。アスクルムの街角で物乞いをしているところを祖父ガイウスに拾われた過去を持つ。
しかし、この救済劇には多面的な意味があった。祖父ガイウスにとって、アウレリウスは単なる慈善の対象ではなく、跡継ぎである父マルクスへの期待と不安の投影だったのかもしれない。血のつながりのない子を育てることで、真の商人とは何かを自らに問い続けていたのだろう。
祖父は彼に商人としての基礎教育を施した後、一つの大胆な決断を下した。アウレリウスを父マルクスの下、ローマへ送ったのである。この決定の背景には、祖父なりの深い計算があった。
アウレリウスに都の商慣習を学ばせることで、彼を真の商人に育て上げると同時に、息子マルクスに対しても人を育てる責任感を持たせようとしたのだろう。
ローマでの数年間、アウレリウスは父マルクスの下で帝都の商業を学んだようだ。この期間は彼にとっていろいろ複雑な生活環境だったと思われるが、ローマの洗練された商取引や人脈作りの技術を身につけることができたはずだ。巨大な市場での駆け引き、多様な商品の価値判断、そして何より、権力者たちとの微妙な関係構築術を学べただろう。
だが同時に、彼は自分の立場の曖昧さに常に悩まされていた。父マルクスにとってアウレリウスは息子でもなく、単なる部下でもない、扱いづらい存在だったのかもしれない。父ちゃんも大変だなぁ。祖父さんも大した人物だからな。
父が数年前にアウレリウスをアスクルム支店に戻したのには、複数の理由があったと推測される。表向きは、地方支店の運営経験を積ませるためとされていた。
しかし、実際には、ローマでの彼の成長ぶりが、かえって父にとって負担となっていた可能性もある。アウレリウスの商才が開花し始めたことで、父子関係の複雑さが露呈したのかもしれない。あるいは、祖父ガイウスの影響を強く受けたアウレリウスの価値観が、ローマでの商慣習と衝突を起こしていたのかもしれない。
しかしアスクルムに戻ったアウレリウスは、カピトの下で冷遇されることになる。ここで興味深いのは、同じ状況に対する異なる解釈の可能性だ。カピトにとって、アウレリウスはローマ帰りの鼻につく若造だったのかもしれない。祖父の寵愛を受け、父の下で特別扱いされてきた彼への嫉妬もあったのだろう。
一方で、アウレリウスにとっては、自分の価値を正当に評価されない屈辱と、祖父への恩義を裏切られるような苦痛を味わう日々だった。
ローマでの経験は、アウレリウスの性格形成に深い影響を与えたようだ。表面的には内気で気弱に見えるが、これは彼なりの処世術でもあった。帝都で学んだ人間観察力が、彼に『弱者として振る舞うことの安全性』を教えたのかもしれない。
しかし、その奥底には、祖父から受け継いだ不正を決して許さない強い正義感が息づいていた。この矛盾こそが、ローマと地方、都市的合理主義と伝統的道徳観の間で揺れ動く、アウレリウスという人間の複雑さを物語っている。ローマでの彼の生活のことは、正直なところ俺にもよく分からん部分が多いが。
俺がアウレリウスを初めて気にかけたのは、偶然の出会いだった。
彼が店で商品を整える様子を見たとき、その細やかで丁寧な仕事ぶりに感心した。しかし、そこにはローマで培われた効率性と、祖父から学んだ誠実さが絶妙に融合していた。それ以上に俺の注意を引いたのは、彼のひどく痩せこけた腕に浮かぶ青痣だった。その瞬間、俺は彼が受けている扱いを察し、同時に一族内の権力構造について考えさせられた。
「アウレリウス、少し話をしよう」
声をかけたとき、彼は明らかに怯えていた。これまでの経験から、上位者からの呼び出しは良いことを意味しないと学んでいたのだろう。
しかし、時間をかけて話すうちに、彼はゆっくりと自分の過去を語り始めた。その語りには、ローマで身につけた表現力と、アスクルムの素朴さが混在していた。
話の中で、人間の忠誠心の複雑さを改めて思い知らされることになった。アウレリウスにとって、祖父は単なる恩人ではなく、自分の存在意義そのものだった。ローマでの洗練された生活も、結局は祖父への恩返しの手段に過ぎなかった。父との関係についても、彼は複雑な感情を抱いていた。感謝と同時に、どこか距離を感じていたのだろう。
「……私は弱いです。ローマで多くを学びましたが、結局は強い者の言うがまま、ただ盲目的に従ってきました。でも、ガイウス様が私を拾い、マルクス様が育ててくださった恩義を汚す者だけは許せません」
この言葉から彼の内面の葛藤が手に取るように理解できた。彼にとって、弱さを認めることは屈辱ではなく、現実を受け入れる勇気だった。
しかし、その奥に秘められた芯の強さは、ローマでの経験によってさらに鍛えられていたのだ。
「アウレリウス、君の助けが必要だ。これは君が真の商人として成長するチャンスでもある」
俺がそう言ったとき、彼の表情は複雑だった。
ローマでの経験が、彼に慎重さと同時に野心も与えていた。長い沈黙の後、彼は静かな決意を込めて頷いた。その瞬間、彼の中に祖父ガイウスの影と、父マルクスの意思、そして彼自身の新たな可能性を同時に垣間見ることができた。
アウレリウスは、血統と才能、伝統と革新、忠誠と野心の交差点に立つ人物だった。彼の物語は、これから始まろうとしていた。
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春が最盛期を迎える頃、デモステネスのイリリウムでの行動の結果を踏まえ俺たちはついに裏帳簿を掴んだ。カピトがマギウスやクローススらと繋がり、クリスプス商会を隠れ蓑に私腹を肥やしている明白な証拠だ。そこで父マルクスへ密かに報告を送ることにした。
直ぐにローマから父マルクスの指令が届く。と同時にカピトを呼び出すことにした。
「これが何だかわかるな?」
裏帳簿をカピトの前に、ワザと雑に投げ出してやる。
彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにふてぶてしい笑みを浮かべた。
「若旦那様、これは何かの冗談でしょう。帳簿だけで私をどうしようと?」
表情を変えることなく、第二の証拠を机の上に広げてみせた。イリュリクム属州支店との密書だった。カピトの表情が微かに揺れた。
「さあ、それで何を証明できます? 私は属州支店との正式な取引をしていただけです」
その瞬間、第三の手を打つことにする。
合図の鈴を鳴らしてしばらくすると隣部屋の扉が開き、そこに立っていたのはアウレリウス。そして街の有力者であるピナリウスだった。
本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。
なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。
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(不穏な輩が跋扈している状態だと、若手がどんどん腐っていきます。魚は頭から腐ると申します。やる気のある若手を活かす意味でも、ロートルには御退場いただくのが組織を活性化させる最善策というものでしょう。どの時代も一緒ですね)
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