表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オリーブと梟』第一部 アスクルムの戦い  作者: 岡田 平真 / オカダ ヒラマサ
〜 クリスプス商会の闇
20/96

第18話『行動原理は人其れ其れ』

ルキウス・マルキウス・ピリップスと セクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)三月、ピケヌム地方 アスクルム市内、ティトゥス




(アスクルムに来て一ヶ月経った頃、前92年の9月にマルクス・カピトという男と初めて対面した場面の続きです)



 「詳しく聞かせてもらおう」


 そう問うと、カピトは汗を拭った。


 「若旦那様、取引の詳細につきましては、後ほど帳簿をご確認いただければと存じます。今は、まずお疲れをお癒しください」


 カピトは話を逸らそうとしたが、追及の手を緩めなかった。

 

 「おいおいカピト、俺がアスクルムに到着したのはもう一月も前の話だぞ。今じゃすっかりアスクルムでの生活にも馴染んだところだ。疲れちゃいないからすぐ帳簿を見せてくれ」


 「申し訳ございません。帳簿は現在、月末の整理作業中でございまして……」

 

 これで俺の疑念は確信に変わった。カピトは明らかに何かを隠している。


 ソフィアが口を開いた。


 「カピト様、私どもは若様のお勉強のお手伝いをするため参りました。帳簿の確認も、その一環でございます」


 「お勉強……でございますか」


 カピトは困惑した表情を浮かべた。


 「ああ、そうだ。俺は父から、実際の商取引を学ぶよう言われている。だからこそ、アスクルムに来た」


 カピトの反応を観察しながら告げる。


 「若旦那様がそのようなご意向でしたら、もちろん協力いたします。ただ、アスクルムの商取引は……」


 「何だ?」


 「ローマやフィルムムの商慣習とは異なる部分もございます。地元の有力者との関係も複雑で、若旦那様には馴染みにくい面もあるかと……」


 カピトは俺を見くびっている。

 この男は俺を未熟な若造として扱い、自分の都合で行動を制限しようとしている。


「心配無用だ、カピト。俺は学習能力には自信がある」


 立ち上がり、カピトに近づいた。


「それに、父からお前について聞いている。『カピトは商才に長けているが、時として独断専行の傾向がある』と」


 するとみるみるカピトの顔が青ざめてくる。わかりやすいな、コイツ。

 

 「若旦那様、私は常に商会の利益を……」


 「もちろんそうだろう。だからこそ、お前の手腕を直接学ばせてもらいたい」


 微笑みを浮かべながら、その笑顔の奥に冷たい警戒心を隠しながら呟いた。


 「明日から、俺も支店の業務に参加する。帳簿の確認、取引先との交渉、全てに立ち会わせてもらう」

 カピトは言葉を失っていた。彼の計算が狂ったのは明らかだった。


 デモステネスは俺の後ろで、わずかに頷いた。彼も同じ印象を抱いていることが分かった。


 「カピト、最後に一つ」


 俺は扉に手をかけながら振り返った。


 「商会の名前は重い。祖父ガイウスが築き上げた信用と名声を、俺たちは背負っている。その重みを忘れるな」


 カピトは複雑な表情で俺を見つめていた。怒りと困惑、そして何かしらの恐れが入り混じったような表情だった。

 

 支店を出た後、デモステネスは俺に耳打ちした。

 「若様、あの男は危険です。表面上は従順ですが、内心では反発している。しかも、何かを隠しています」


 「俺も同感だ。明日から、カピトの行動を注意深く観察する」


 ソフィアも心配そうに言った。

 「ティトゥス様、あの方の目には底知れぬ野心が宿っています。用心なさってください」



 カピトとの初対面は、これから始まる戦いの序章に過ぎない。彼の真の姿を暴き、商会を守るため、俺は覚悟を決めた。

 

 その夜、いつもの書斎で一人、瞑想していた。

 日本のサラリーマン時代は、いわゆるビジネス上の敵を排除することなど日常茶飯事だった。しかし、古代ローマの世界では、それが人の生死が直結する。どこまで手を出してよいのか、その境界線が見えない。


 だが、デモステネスとソフィアの存在が、今の俺には不足している勇気と判断基準を与えてくれる。

 二人は父マルクスと方針を完全に共有しており、俺の教育を任されている。彼らの知恵と経験を借りながら、俺は成長していかなければならない。


 カピトとの対決は避けられないだろう。しかし、今の俺には、それに立ち向かう準備ができていなかった。



 △▼△▼△▼△▼△


 ラビエヌスとの剣術稽古が日常となっている。ラビエヌスは毎朝、トルエントス川の河川敷でサビヌス師範と訓練をしている。俺もそこに時折混ぜてもらうことが多くなった。もちろんラビエヌスと同じメニューはこなせないけど、よい運動になる。


 ラビエヌスはその時にちらほらと俺にアスクルム市内の情報を教えてくれるようになった。彼の家は地元の有力な騎士階級の家系であり、彼自身も街の裏事情をある程度把握している。


 街を牛耳る有力者、例えば政治では執政官ピリップスに近しいマギウス・ルフス、市場の流通を握るクイントゥス・ピナリウス。この二人は名家の当主だな。 そして裏社会で買春宿や闇取引を取り仕切るアルビウス・クローススなど、具体的な名前が出てきた。


 「お前のとこの支店長、カピトもなかなかの食わせ物だぜ。古い家の出で、アルビウスとも深く繋がってる」


 ラビエヌスの言葉に俺の胸騒ぎが強くなった。


 彼の忠告をデモステネスとソフィアに伝えると、二人はカピトの行動をさらに深く、慎重に調べ始めていた。


 その結果、カピトはイリュリクム属州の支店と頻繁に密書を交わしていることがわかった。イリュリクム支店との取引は表向き小規模だったが、裏では高価な奴隷や希少な香料が密かに流通しているらしい。

 カピトは属州との不透明な商取引を独占することで私腹を肥やし、さらには地元有力者との関係を強化するために商会の名前を利用していた。


 

 カピトの行動ポリシーは明確だった。自らの地位を絶対的に安泰にすることだ。

 彼はアスクルムで代々続く名門カピト家の生まれであり、若い頃から商才に長けていたが、野心的な計画を祖父ガイウスに却下された過去がある。


 ……これは父マルクスから聞いた話だ。


 「カピトは昔、イリリウムへの大規模進出を提案してきたことがある」

 父は苦い表情を浮かべながら語った。


 「祖父ガイウスの時代、カピトはまだ若く血気盛んだった。イリリウム属州全域に支店網を張り巡らせる壮大な計画を持ち込んできたが、祖父は時期尚早だと退けた」


 「それで恨みを買ったのか?」


 「そうだ。その後、ユリウス商会がイリリウムで成功を収めた。カピトは『あの時動いていれば』と今でも言っている。祖父への不満が、いつしか我々への反感に変わったのだろう」


 父の話を聞いて、俺はカピトの複雑な心境を理解した。有能でありながら認められず、先見の明があったにも関わらず機会を逃した……そんな男の屈折した感情が、今の彼の行動を支配しているのだろう。

 デモステネスからも興味深い情報が入ってきた。


 「若様、カピトには息子がおります。マルクス・カピトという父親と同じ名を持つ青年ですが、父親とは正反対の人物のようです」


 「どういう意味だ?」


 「商才がなく、放蕩を好むと街で噂になっております。賭博や女に溺れ、父親を困らせているとか」


 ソフィアも市場での会話から得た情報を教えてくれた。

 「カピト様のご子息、この間も借金取りに追われていたそうですわ。お父様が肩代わりなさったとか」


 「なるほど、それでカピトは必死なのか」


 これらの情報を総合すると、カピトの動機が見えてくる。祖父ガイウスへの恨みは、そのまま息子である俺の父マルクスへの反感へと変わり、カピトは商会を自分の手で支配したいという欲望に囚われていた。


 さらに彼を駆り立てているのは、息子への父親としての責任感だろう。商才のない放蕩息子の将来を案じ、自らの地位と富を盤石にすることで息子の生活基盤を築こうとしている。そのためには手段を選ばない ——そんな男の切実さが、カピトの危険性を増幅させているのだ。


 「親というのは、子のためなら何でもするものだな」


 父マルクスの顔を思い浮かべながら呟く。カピトの行動は許されるものではないが、その根底にある父親としての愛情は理解できる。だからこそ厄介なのだ。単純な悪人なら対処は簡単だが、複雑な事情を抱えた人間との対立は、予想以上に困難を極めるだろう。


 ソフィアは街の市場で市民や商人ら交わって更に情報を収集してきた。彼女の明るい笑顔と人懐っこい性格はすぐに人々の警戒心を解きほぐし、街の噂話や政治情勢、経済の動きを巧みに引き出してきた。彼女がもたらす情報はいつも鮮やかで、街の空気感まで感じられるようだった。


 「ティトゥス様、やはりこの街は少しずつ熱を帯びているようですね。カピト様の名も、ちらほらと不穏な会話の中に登場しています」


 こうした背景を知るにつれ、俺のやるべきことが明確になった。



 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


--------------------------------------------------


(カピトには彼なりの理由と正義があります。一般的な価値観の正義ではなく、あくまでも彼なりの正義ですが。人は皆、自分なりの正義を持っているものです)



もし物語の余韻が心に残りましたら、評価やブックマークという形で、想いを返していただければ幸いです。


第一部の登場人物一覧はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/1/


第一部の関連地図はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/2/


 △▼△▼△▼△


申し訳ありません。

後半部分が手違いで欠けておりました。

改めて活動報告でも連絡させていただきます。

大変失礼しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ