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 ルティが行方不明になって、3年が過ぎた。

 ラウザは、ルティが見つからない事を心残りに思いながらも、トルム村を離れて今日騎士団に入団した。

 入団式が終わり、ぐるりと同期を見回してみる。

 女性の入団者もわずかにいるが、目当ての人物は見当たらなかった。

(『ルティが実は王都にいます』……なんて都合の良い事、あるわけないか)

 ましてや騎士団なんて。

 ラウザは内心自嘲し、施設の案内をする先輩のあとを同期と一緒について行った。

 翌日は、実力をはかる為の模擬戦が行われた。

 ラウザ達新団員が訓練所に向かうと、エマ、トーガ、他十名程の先輩達が待っていた。

 整列すると、エマが一歩前に出る。

「お前達の実力をはかる為、これから、私達と一対一の模擬戦を行ってもらう。本気でかかってきて構わない。我々から一本取るつもりでこい。ではまず、アレックス・フェンリー!」

「はいっ!」

 エマに名前を呼ばれ、アレックスは緊張した面持ちでエマの前に出る。

「ベナ・カルマは俺とだ!」

「はいっ!」

 長身で筋肉質のトーガに指名され、女性のベナはすでに怯えている。

(女だからといって、副団長とやるとは限らないのか……)

 次々と名前を呼ばれ、いともたやすく打ちのめされていく同期達を見て、ラウザは早くも心が折れそうになっていた。

(俺も……道場じゃ強い方だったんだけどな……ルティの次にだけど)

 ラウザが内心沈んでいる間にも──早ければ一撃で──同期達はのされていく。

 その時、右端の方で「おぉっ!」という歓声が上がった。

 ラウザがそちらに目を遣ると、先輩がしりもちをついて呆然としている。

 後ろ姿しか見えないが、対戦相手は小柄で細身、短い茶髪の男だった。

 ──本当に男?

「すげぇよっお前!」

 思わず抱きつこうとした同期に、男は腕を立ててガードする。

「うるさ……」

 先輩も立ち上がって男の方に歩み寄り、「すごいな」と声をかけた。

「誰かから、手解きを受けたのか?」

「実家が、剣術道場をやってまして。あと、知り合いからも少し」

「そうか。強かったよ」

「ありがとうございました」

 男はきっちりと頭を下げ、先輩に背を向ける。

 はっきりと顔が見えた。

「っルティ──」

「ラウザ・ダミル!いないのか!」

「っはい!います!」

 エマに怒鳴られ、ラウザは急いでエマの前に出る。

「……今回だけだぞ。やる気がないなら、出ていってもらって構わない」

 エマに冷徹な目で言われ、ラウザは血の気が引くのを感じながら「すみませんでした……」と謝った。




「トーガ、どうだ?今年の新人は」

 エマとトーガは、オレンジ色に染まる屯所の廊下を歩きながら今日の模擬戦について感想を話して合っていた。

「優秀ですね!特に、ウルクリンに勝った『ルティ・ログベルト』っていう奴。実家が剣術道場らしくて、ずいぶん戦い慣れてますよ」

 俺には負けましたけどね!と、トーガは嬉しそうに言う。

 一通り模擬戦を終えたあと、トーガは個人的にルティと手合わせをした。

 トーガの怪力に終始押されっぱなしだったが、動きが俊敏で、どうにかトーガの剣を受け流していた。

「あれは磨けば光りますよ!楽しみですねぇ」

「そうか、お前が見込むほどの実力者か」

 エマは期待を込めた笑みを浮かべる。

(『ルティ・ログベルト』か……将来有望だな──)

 エマは、ふと足を止める。

「副団長、どうしましたか?」

「いや……」

(この名前、どこかで……?)



 寮に戻ったラウザは、ベッドで頭を抱えていた。

 3年前に行方不明になったルティが、騎士団にいる。

 見つかった喜び。

 連絡が一切なかった怒り。

 生きていた嬉しさ。

 今までさせた心配──。

 ラウザは、喜んだら良いのか怒ったら良いのか分からなかった。

(確かに『都合よく王都にいないか』なんて思ったけど……)

 まさか本当にいるとは思わなかった。

 しかも『騎士団の同期として』だ。

(ロイア先生に手紙を……いや、まずは3年もどこにいたのか……)

 まずは話をしてみないと、『同姓同名の人違い』という事も考えられるのだ。

(『実家が剣術道場』って先輩に話していたから、記憶喪失なんて事はないよな……?)

 部屋に戻ってきたアレックスが、ラウザを見てぎょっとする。

「……すごく難しい顔してるな。大丈夫か?」

 アレックスが、心配そうにラウザの顔を覗きこんできた。

「……あ、悪い。大丈夫だ」

 村を出る時、友人のトムに「お前は目つき悪いんだから、『喧嘩売ってる』って勘違いされないように気をつけろよ」と笑われたのを思い出した。

「『目つき悪いから、気をつけろ』って、村の友人にも注意されたのに」

 ラウザは脱力し、後ろに両手をついて笑う。

「君が悪い人じゃない事は、なんとなく分かるよ」

 昨日は怖かったけどね、とアレックスもくすりと笑う。

 アレックスは、勉強机の椅子を引いてラウザの方を向いて座る。

「昼間の、模擬戦の事?」

「ん?」

 『難しい顔』の意味を、アレックスは『模擬戦で打ちのめされた事』だと思ったようだ。

「違う違う、全然関係ねぇ事。つーか、あれはどう頑張ったって勝てねぇだろ」

 最初は、『入団者180名を本当に12人で相手するのか』と疑ってしまったが、そのほとんどが歯が立たなかった。

 辛うじて切り合いが続いたのが数名。

 勝ったのは、たった一人だ。

 その『一人』も、豪腕のトーガ・カルロスに負けてしまったが。

 ラウザは、ウルクリンを打ち負かしたルティの後ろ姿を思い出す。

「副団長なんて、全員を一撃だったもんね」

 遠い目をするアレックスの言葉で、ラウザの記憶が瞬時に模擬戦に切り替わる。

「……そうだな……」

 合図と共に踏み込んで突いたのを、薙ぎ払われて脇腹に一閃。

 入団者の模擬戦だから軽く当てる程度だったのだろうが、真剣だったら間違いなく切り裂かれていた。

 『鬼神』とは本当にいるのだと、あの時ほど実感した事はなかった。

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