表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

15

 翌朝、9時50分にエマがホテルを出ると、馬車がホテルの前に止まっていた。

「おはようございます。本日もよろしくお願いします」

 エマは、御者にきっちりと一礼をする。

「おはようございます……こちらこそ、よろしく……」

 あまりにきっちりと一礼をするため、御者は少したじろぐ。

 御者は仕切り直すように咳払いをすると、「今日はどちらへ?」とエマに問いかけた。

「もう一度、トルム村へお願いします」

「戻るんですか?」

「ええ。確認したい事がありまして」

「……分かりました」

 御者はもう少し栄えた町を通って王都に戻れると思っていたようで、少し辟易した表情だ。

 エマが馬車に乗ると、馬の歩き出す音と共に馬車が動き出した。

 山道を再び通り、トルム村へ到着する。

 トルム村へ戻ったエマは、再びロイアの家を訪ねた。

 しかし、ノックをしても返事はない。

「ログベルトさんなら、道場にいますよ」

 左側から歩いてきた主婦にそう教えられ、エマは「道場ですか?」と聞き返す。

「道場は、どちらにあるのでしょうか?」

「この道をまっすぐ行って、分かれ道を右に曲がって、2区画目を左に曲がって道なりに進むと道場がありますよ」

 指を指して教えてくれる主婦に「分かりました、ありがとうございます」と礼を言うと、主婦は訝しげな目をエマに向けた。

「……ログベルトさん、何かしたんですか……?」

「いえ、行方不明になっている娘のルティさんの事についてです。3年前に川に流されて、テルートで死亡が確認されたらしいのですが、死亡届がまだ出されていないので」

 『ルティ』の名前を聞いて、主婦の表情は「あぁ……」と悲しそうなものに変わる。

「ルティちゃんの事……可哀想にね、親子喧嘩に巻き込まれて川に落ちちゃうなんて……」

「親子喧嘩?」

「ターナーさんと娘のナターシャちゃんが、あんな大雨の中、橋の上で喧嘩したんですって。そんな事、家でやればいいのに」

「そうなんですか……何故、ルティさんは親子喧嘩に巻き込まれたのでしょうか?」

「傘を持っていったらしいわよ、ナターシャちゃんに。私も見たけど……ナターシャちゃん、ケイン君を妊娠していたのに、傘もささずにずぶ濡れになって外をふらついててね……2人でいる時にターナーさんが来たらしいわ。気の短い人だから、きっといつもみたいに力づくで連れ帰ろうとして、ひどく抵抗されたんでしょうね。どっちがかは分からないけど、ルティちゃんにぶつかったらしいわよ」

「それで、そのまま川に落ちたと……」

「あの二人、気が短いからすぐに喧嘩して、ナターシャちゃんが家を飛び出すなんて時々ある事なのよ。それで、ターナーさんが力づくで連れ帰ろうとしてナターシャちゃんがひどく抵抗するの。でも……」

「でも?」

「ルティちゃんの事があってから、二人とも激しく喧嘩しなくなってね。多分、ルティちゃんを巻き込んだ罪悪感があるんでしょうね。あれ以来、ログベルトさんもやつれていっちゃって。奥さんも5年前に亡くなったのに、可哀想に……」

 話が段々と別の方向に逸れていき、エマは言葉が途切れた瞬間に「そうですね……ところで」と疑問をねじこむ。

「3年前、何か不思議に思う事はありませんでしたか?どんな些細な事でも構いません」

「不思議……?」

「不思議というより、『奇跡』に近いですかね」

「あっ!あったわよ!3年前の夏、私の父が危篤だったんだけど奇跡的な回復をしてね!結局夏の終わりに亡くなっちゃったんだけど、お医者さんも驚いてたわ」

「そうだったんです──」

「ぎりぎり誕生日をお祝い出来たの!亡くなったのは、その3日後くらいで──」

「……良かったですね。他には?」

 エマは、『やってはいけない』と思っているが、言葉に少しだけ圧をかける。

 本気でやれば、トーガすら黙らせる圧だ。

「……そうねぇ、何かしら……?」

 主婦は『喋りすぎた』と思ったのか、いきなり静かになる。

「……ごめんなさい、思い当たらないわ」

「いえ、こちらこそすみません。ありがとうございました」

 エマは今まで通りの雰囲気に戻り、きっちり一礼をして立ち去る。

 その後、村の住人に3年前の事を聞いて回ったが、やはり覚えている人はほとんどいない。

『すみません……3年も前だと覚えていませんね……』

『3年前ですか?何もなかったと思いますよ』

(……当然だ。『3年前に奇跡だと感じた事』など、よほどの事がなければ覚えていないだろう)

 エマ自身も、そんな質問をされても正直困る。

 歩きながら静かに息を吐いたエマは、2・3歳くらいの男の子と遊んでいる女性に声をかけてみた。

「すみません。今、お時間よろしいでしょうか?」

「はい、何でしょうか──」

 女性は男の子を抱き寄せエマを見ると、驚いた表情でエマを凝視した。

「何か?」

「もしかして、フィレセ騎士団の副団長ですか……?」

「ええ、そうですが」

「お久しぶりです。3年前にルティの捜索をお願いしたナターシャです」

 エマは記憶を巡らせ、ベッドに横たわっていた女性を思い出す。

「……もしかして、あの時の妊婦さんですか?」

「はい。あの、ロイアさん──ルティのお父さんから聞いたんですが、ルティは本当に……」

「……『亡くなった』とお聞きしています。どうやらテルートのコナー地区まで流されたらしく、川の畔に住む男性がルティさんを発見したのですが、既に亡くなっていたそうです」

「そうですか……」

「……失礼ですが、遺体はトルム村へ持ち帰っていないのですか?」

「え?ええ、多分……村では葬儀をしていませんし、お墓もありませんから……」

 ロイアもシルヴィも『死亡した』とは言っているが、死亡届も出していない、遺体も持ち帰っていない、葬儀もしていない、墓も作っていない。

(『亡くなった』とは、どうも信じ難いな)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ