10
ラウザとルティは、寮への廊下を黙って歩く。
「……久しぶり」
「久しぶり」
「……生きてたんだな。皆、心配したんだぞ」
「……ごめん」
ラウザは、隣を歩くルティの横顔を見る。
物静かになったが血色も良く、どうやら元気そうだ。
今までどこにいたのか?
どんな生活をしていたのか?
生きていたなら、手紙くらい寄越してくれても良かったのではないか?
聞きたい事が多すぎて、どれから尋ねたら良いのか分からない。
「……綺麗になったな」
「え?」
「えっ」
ラウザは自分のこぼした言葉が信じられず、驚きと共にみるみる赤くなっていく。
「あ……ありがとう……?」
容姿を誉められた気恥ずかしさと、急に誉められた理由が分からず、ルティは照れながらも語尾に疑問符がつく。
結局、2人とも気恥ずかしさから寮の前につくまで会話がなかった。
「じゃ、また明日」
「あぁ、またな──おい、女子寮ってそっちじゃないだろ?」
ルティは、女子寮とは逆の門の方へ向かおうとしている。
「知り合いの娘さんの所に間借りさせてもらってるんだ。ちょっと癖が強いけど、良い人だよ」
「そっか……気をつけてな……」
『娘』という単語にラウザは胸を撫で下ろして、ルティを見送った。
(『娘』か、良かった……『良かった』って、何がだ!?)
ラウザは頭を大きく振り『あいつはただの友達!』と自分に強く言い聞かせた。
広場のところに人が集まっている。
どうやら縛り首になった罪人3人が晒されているらしく、巡回中のラウザは声をひそめて引率であるトーガとウルクリンに尋ねた。
「何ですか?あれ」
「聖女の名を騙った罪だってさ。聖女が出てこない時期に、たまにいるらしいよ」
ウルクリンも神妙な面持ちで答える。
「分かるんですか?聖女が本物かどうかなんて」
「分かるんだろ?でなきゃ出てきてもいねぇ聖女を処刑するはずねぇだろ」
トーガは罪人達を横目で見て、『阿保らしい』と言いたげに盛大にため息をつく。
「つーか、『聖女が出ない時期』なんて基本ねぇだろ。お前、よくそんな事知ってるな」
「歴史を題材にした本に書いてあってね。『元ネタ』ってあるだろう?」
「お前、ハマると元ネタまで調べ出すからな……」
トーガにはその探求心が理解できないのか、呆れたようにウルクリンを見た。
ルティは、じっと処刑された一家を見ている。
処刑されたのは地方貴族の者達だった。
自分が名乗り出れば、死ぬ事はなかったはずだ。
(ごめんなさい……)
ルティはそっと目を逸らす。
『騎士になりたいのなら、なりなさい』
そう言ってくれた老人の声を思い出す。
(私は『騎士』になりたい……)
「さ、巡回続けるぞー」
トーガは飽きたのか、一人で歩き出してしまう。
ラウザとルティも歩き出したが、ウルクリンは立ち止まって広場を見つめたままだ。
ウルクリンの後ろにいたルティはぶつかりそうになり、訝しげにウルクリンを見る。
「愚かしいな」
ウルクリンはつまらなそうに呟いた。
その言い方が、普段の穏和さからは想像出来ないくらい冷徹で、ルティは恐る恐る声をかける。
「……ウルクリンさん?トーガさん達、行っちゃいましたよ……?」
「えっ?」
ウルクリンはいつもの表情でルティを見る。
そして焦ったようにトーガ達を探すと、30mは離れてしまっていた。
「少しは『待つ』って事出来ないのかよ!俺が悪かったけどさ!」
走ってトーガ達の元へ向かうウルクリンの後をついていきながら、ルティは先ほどウルクリンの闇の断片を見た気がした。
一方、城の執務室では。
「今回もはずれか……」
アルカドルは執務室の椅子に座り、深いため息をついた。
偽物は名乗り出るのに、本物の新しい聖女は未だに姿を現さない。
(エルミナも、あとどれくらい生きていられるか……。もし、エルミナが亡くなって新しい聖女も見つからなければ……)
考えただけでゾッとした。
ミシェルト王国は、聖女が国の中心にある礼拝堂で祈りを捧げる事で、薄いベールで国を包むように守護する。
聖女がいなくなれば、加護が無くなった事に気づいた隣国が攻め込んでくる可能性もあるのだ。
「一体どこにいるんだ……新しい聖女は……」




