8 冒険者になる
翌日。私達はキャバクランニングでアンミ先輩に定時連絡を行っていた。
「というわけで、昨日は防具屋のおじさんを客引きに成功しました!」
「なるほど、よくやったわあなた達。それじゃあ臨時収入をあげないとね」
「わーい!」
現金、ゲットだぜ!
「あ、それとアンミ先輩」
「何かしら、ウタハ」
「防具屋のおじさんには冒険者と間違われましたけど、この格好、そういう風には見えませんよね?」
今日も私達は、セーラーン服、踊り子服、ブルマー姿だ。そして今日もこれから客引きに行くんだけど。
「いいえ、残念だけどそれはれっきとした冒険者装備よ。マイナーだから素人目ではわからないけどね。だから、今のあなた達はどちらかというと、冒険者パーティーに見えてしまうわ」
「そうなんですかあ」
「でも、それなら逆手にとればいいだけのこと」
「え?」
「丁度いいから、あなた達。今から冒険者になっちゃいなさい」
「えー!」
「冒険者をやりながらキャバクランニングを宣伝すれば、冒険者としても稼げるし、より多くの人に声をかけられる。これは、チャンスよ」
「それは、指示ですか?」
マイミが直球に訊いた。
「いいえ、これはあくまでも助言。でも、過去にも客引き、宣伝をしながら冒険者をやっていたキャバ嬢はいるわ。冒険者家業の方が実入りが良いって言って、そのまま転職した子もね。だから、あなた達もよく考えて決めてちょうだい」
「はい」
「それじゃあ今日もお仕事、頑張ってね!」
「はい!」
よし。とにかく今日も、がんばろー!
「ねえ、私達で冒険者やらない?」
早速マイミがそう言った。
「利点は?」
マトバの言葉は短いが、大事なことである。
「アンミ先輩が言った通り。あと、私達折角武器と防具をそろえたじゃん。じゃあ冒険者もやってみようよ!」
なるほど。うーん、でもなあ。
「私は、冒険者はちょっとなあ。兼業って、なんか違う気がする」
「うむ。ウタハの言うこともわかる。だが、私はマイミに賛成だ。今までの客引きでは、常に戦いがあった。今後もその展開は続くだろう。であるならば、今は客引きテクニックより、戦闘力を上げるべきではないか?」
「なるほど。じゃあ、いいか。やろう。私達で、冒険者!」
「おー!」
こうして、私達は冒険者になろうとするのであった。
冒険者ギルドにやって来ました。
中に入ると、バーっぽいところで強面の男たちが昼間から酒盛りをしていた。もう、こんな時間から飲むなんて。それより、キャバクランニングで飲んでほしいなあ。
「ようこそ、ご要件はなんでしょうか?」
受付嬢はうちでも通用するレベルの美人さん。女の私達が相手でもにっこりスマイルを提供してくれる。
「あなたの名前を教えてください」
マトバ、そのセリフなんか違う気がする。
「アーミットです」
「ねえアーミット。なかなか良い体してるねえ。キャバクランニングのキャバ嬢にならない?」
「ギルドに用がないなら、お帰りください」
ああっ、アーミットに笑顔で返された!
「駄目だよマイミ。すみません。私達、冒険者になりたくて来たんですけど」
「ああ、そうでしたか。では、お名前や戦闘職を教えて下さい。こちらの書類に記入をどうぞ」
そう言って、アーミットが私達に紙とペンを貸してくれる。私達はサラサラ書いた。
「戦闘職って何がいいかな?」
「鞭使いで良いんじゃない?」
「そうだな。それが無難そうだ」
よし、記入完了!
「アーミット、できました!」
「はい。それと、パーティを組むならこちらのパーティ結成書にもご記入をお願いします」
「はい」
パーティか。じゃあ確かに書かないといけないよね!
「パーティを組んでると何か良いことあるんですか?」
「パーティ用の依頼を受けることができます。一人用の依頼は数が少ないので。仲間を集めるのもたまに苦労したりしますよ」
「なるほど」
「あ、パーティ名だって。ふたりとも、何か名案ある?」
「キャバクラッシュの名前も売りたいから、そこを入れておきたいわね」
「じゃあ、キャバクランニングエンジェルスなんてどう?」
「いいね。野球の球団みたい!」
「じゃあ、それにしましょう」
こうして私達のパーティ名は、キャバクランニングエンジェルスに決まった。
「あ、リーダーも決めないといけないみたい。どうする?」
「いいんじゃないか、ウタハで」
「なんで私?」
「頼もしいからに決まってるじゃーん。はい多数決ー」
納得いかない内に、私がリーダーになってしまった。なんだかなあ。
「はい。承りました。ではこれらを元に冒険者カードとパーティカードを作りますので、明日またおこしください」
「はーい」
「それとそれらのカードは、初回時のみ無料で作れますが、次回からは料金がかかります。ご了承ください」
「はーい」
「それと、もし今日から働きたかったら、依頼ボードに貼ってある依頼の引受をこちらで認めますよ。皆さんは最初の1ランクなので、1ランクのみの依頼を引き受けられます。その後実力が認められれば、更に上のランク依頼も受けつけますので」
「はーい」
「説明は以上です。他に何か聞きたいことがあればまた声をおかけください」
「ありがとうございましたー」
私達はそう言って、受付から離れた。
「よっし。それじゃあ早速依頼をこなすぞー!」
「どんな依頼があるかなあ?」
「ひとまず、できそうなものからやろう」
マイミ、私、マトバがそう言って歩いていると、目の前に酔っ払いが一人現れた。
「おいー、嬢ちゃん。こんなところで迷子か? 俺が良くしてやるよ。だからこっちきて一緒に飲もうぜ」
「いえ、私達、急いでいるので」
マトバがそう言って通り過ぎようとしたけど、酔っぱらいに阻まれる。
「まさか俺の誘いを断るわけねえよな? ひっく。こんなに良い女共、みすみす逃すわけねえだろうが」
「ひいっ」
酔っ払いが私を見て、ゲヘヘと笑った。ひいっ、なんだか怖い、夜のお客みたい!
「ふたりとも、こいつは敵よ!」
マイミがそう断言した。ちょっとためらいはあるけど、同感である。
「敵なら倒すしかないわね」
マトバが鞭を構える。
「お、なんだ、やるか?」
「待って、ふたりとも。ここはギルド内。あんまり騒ぐのは駄目だよ。ここはキャバ嬢らしく、接客バトルでかたをつけよう!」
「お、ウタハ。やる気ね!」
「たしかに、久しぶりに接客バトルをやるのもいいかもね」
「というわけで、いざ、まいる!」
「キャバクランニングエンジェルスの初戦闘よ!」
というわけで、ここで戦いになった。
まずは、私の攻撃!
「ええい、おしゃべり攻撃ー!」
「ぐわー!」
酔っぱらいに大ダメージ!
「ドリンク攻撃。すいませーん、ビール一つくださーい、このおじさんもちでー!」
マイミは他人のお金を頼りに、ギルドのバーからビールを注文した!
「ぐううっ」
マイミナイス、酔っぱらいに効いている!
「私は誘惑攻撃!」
「ふぐううっ」
マトバの攻撃も、効いてるよ!
「そうだお前ら、もっと俺を接待しろー! 特にセーラーン服の子ー!」
そう言って酔っ払いが私に抱きつこうとしてきた!
「いやー!」
私は必死に抵抗した。なんとか無事だ!
「ウタハ。どうやら相手はウタハにほの字らしいよ!」
「えっ」
「そうみたいね。ウタハ、ここは一発やってしまって!」
マイミとマトバがそう言ってくる。て言われても、どうすれば?
「ほら、とっておき、使って!」
「え、でもとっておきには、気合いが必要だから、そんなすぐには使えないよ」
「だったら私が気合いを送ってあげるわ。それー、気合い注入ー!」
「私も。ウタハに、気合い注入ー!」
「わあ、私に、皆の力が。みんなの力が私に!」
これならいけそう。ふたりとも、ありがとう!
「それ、とっておき。ニューチャームスマイル!」
私はとっておきをくりだした!
すると。
「うーわー!」
やった、酔っぱらいが倒れた!
「よし、勝った!」
「第三部完!」
「よし、それじゃあ最後に決めポーズ。せーのっ」
「皆、キャバクランニングに遊びに来てね!」
こうして酔っ払いを倒した私達は、他の冒険者達から拍手をもらった。
よし。この調子で、どんどん仕事を進めていこう!