77 新必殺技ヘブンストーム
朝、先輩んちに行ってリューラと稽古。
昼間。先輩とリューラをつれて遊ぶ。ついでに客引きと宣伝。
夕方、日が暮れる前にリューラをまた鞭でしばく。
そんな日常が、少しの間続いた。
するとだんだん、私達の鞭が鋭さを増していった。
今朝は最初からリューラが鞭で打たれる。
ビシーン。バシーン。
「あああんっ、お姉様方、いきなりとっても良いですわああー!」
「ちょっとリューラ、まずはそっちも仕掛けるんでしょ。いつも通りやってよ!」
「そう言われても、ああんっ、あはああっ。最近は最初から鋭く重い鞭がくるから、ついつい当たってしまうのですわあ!」
マイミが文句をとばしたら、とんでもない返答がかえってきた。
「やっぱり当たりにいってんじゃん!」
「まて。ということは、私達の通常攻撃が、ウェルカムトゥヘブンの威力に達しているということか?」
私とマトバが言う。はっ。そうだ。リューラが満足しているということは、つまりはそういうことなのだろう。
「その通り、ですわっ。お姉様方の鞭は、もう普段からとっても強く、苛烈に、ううん、なってるんですわー!」
おお、やった!
「やった、毎日鞭を振り回してたかいがあった!」
「よっしゃあ、稽古のかいがあった!」
「気づくのが相手を鞭で叩いてからというのが、少し間違っている気がするがな」
たしかに。マトバの言う通りである。
でもちょっと、リューラが気持ち悪いな。
「2人共、鞭を一旦止めよう」
「たしかにそうだ」
「これでは稽古にならないからな」
私達は鞭を止める。
「ああん。もうやめちゃうのお?」
「リューラ、まだ稽古を終わらせるには早すぎるよ。今日も攻撃、お願いします!」
「もちろん、いつも通りギリギリでかわせるやつね!」
「頼む、リューラ」
「あはううん。お姉様方に頼まれたら仕方ありませんわ。ですがすぐにまた、鞭をお願いしますね?」
「はいよ!」
「もう鞭打ちは慣れた!」
「今日も手加減しないからな」
「それでこそお姉様方ですわ。では、いきますわよ!」
リューラが拳を構えて、軽いステップを踏んでからこちらに接近をしかける。
私達はそれを囲むようにして迎え撃つ。相手が一体の時は、基本このフォーメーションだ。
「それっ、は、やあ!」
「なんの!」
「これしき!」
「ギリギリ見える!」
私達は全神経を研ぎ澄ませ、なんとかリューラの拳をかわす。
リューラに手加減されているというのもあるけど、私達、回避技術も結構上がってきた!
それから少しの間、私達はリューラの攻撃を回避しつつ、鞭で迎撃した。
リューラの攻撃ターンは、私達が疲れてきたら終わりにしてもらう。
「もういい、リューラ!」
「流石にもう限界!」
「止まってくれ」
「わかりましたわ、お姉様」
リューラは息を全く乱すことなく立ち止まる。ふう。こっちは肩で息してるのに。やっぱりドラゴンは強い。
「さあ、それではお姉様方。どうぞ私を鞭打ってください!」
「オッケー。もう通常攻撃でもいいんだかんね。楽勝!」
「待った、マイミ。折角だから、ここで新しい必殺技を開発してみないか?」
「確かに。ウェルカムトゥヘブンが通常攻撃になったのなら、私達には新必殺技が必要かも」
マトバの提案に、一も二もなく賛成する。
「新必殺技。いいね、賛成!」
「では、どんなのがいいか」
「というか、どうすれば新必殺技ができるのか」
「うーん」
私達は腕を組んで悩んだ。
「あ、あの、お姉様方。早く、叩いてくださいませんか?」
「ああ、ごめんごめん、リューラ」
「いや、全然ごめんじゃないけど、確かに悩んでちゃ新必殺技は完成しないよね」
「ひとまず、やってみるか」
「おー!」
「じゃあ私からやるね!」
私はリューラを全力でしばいた!
ビシーンバシーンピシャーン!
「あはあーん!」
リューラは喜んでるけど、うーん。
「うーん。必殺技という程じゃないか」
「なら次は私。いくよ、それ!」
ビシーンバシーンピシャーン!
「きゃあああん!」
「うーん。ただ叩いてるって感じかな?」
「それでは私はこうだ。てい!」
ビシーンバシーンピシャーン!
「あへえええっ!」
リューラはよだれをたらして喜んでいるけど、マトバは首をかしげている。
「ううん、これも違う感じがする」
「やっぱり必殺技という程じゃないね」
「ではどうするか」
「悩むな。そうだ。リューラにも聞いてみよう。リューラ、あとどうすれば必殺技っぽくなりそうだ?」
マトバがそう訊くと、リューラは顔をとろけさせながら答えた。
「そうですわね。今の衝撃がいっぺんにくれば、さらなる高みへフライすることができるのではないでしょうか?」
「さっきのをいっぺんに」
「それだ!」
「私達の全力攻撃を、一度に凝縮させる。たしかにこれができれば、新必殺技かもしれん」
三人同時にうなずくと、なんかやる気出た!
「それじゃあリューラ、必殺技練習、もう一回いくよ!」
「はいい、何度でもきてくださいませえ!」
「それじゃあ、えーい!」
「てやー!」
「せい!」
「あはあああん!」
私達は、しばらくリューラを鞭で打ち続けた。
それからしばらくして。
「できた!」
「遂に完成した、新必殺技が!」
「これをヘブンストームと名付けよう」
私達はうなずいて、拳を突き合わせた。
「新必殺技、完成!」
「ああ、気持ち良いい、気持ち良すぎるううう」
リューラが鞭に打たれすぎてヘブンしている今、急に空から何かが降ってきた。
あれはドラゴンだ。大きな黒竜は屋敷のすぐ上で人の姿になり、華麗に着地する。間違いない。彼はガリューだ。
「ガリューおかえりー!」
「ウィワシャク退治は終わったのー?」
「ああ。王都のアジトは壊滅させてきた。残党狩りは手間取ったがな。各地のアジトの壊滅もキャバ嬢から連絡を受けた。もう安心だ」
「あー良かった」
「さすが先輩たちだ。あ、ガリューもね」
「これで完全に安心できるな」
「ああ。ということで、もう妻の面倒は俺も見れる。流石に毎日すると嫌がられるだろうから、3日に1,2回はリューラが護衛になるだろうが、リューラもある程度自由に遊んでいいぞ」
「え?」
私達は思わず、リューラを見た。
すると、リューラはまだ顔を赤くして目をうるませながらも、言った。
「そうですか。わかりましたわ。では、私は今日からお姉様方のお仕事をお手伝いしたいと思います。それが私のやりたいことですから。それでよろしいですよね、お姉様方?」
「えっ」
「私達はいいけど」
「リューラは、それでいいのか?」
「はい! いかなることも、なんなりと申してくださいませ。焼きそばパンから敵の首まで、なんでも持ってきてさしあげますわ!」
「リューラ、それはやりすぎだよ」
「ていうか、言い過ぎだよ」
「とにかく、それではよろしく頼む」
「はい。必ずご期待にこたえてみせますわ!」
なんか唐突に、リューラが仲間に加わった。
まあ、いいか。まあいいよね?




