76 買い物ついでに客引き
久しぶりにぐっすり眠れた。
けど朝起きてすぐリューラを鞭打ちに行くのはちょっと抵抗がある。
でも鞭打ちはしなければならない運命だった。現実ってままならない。
というわけで、先輩んちなう。
「さあ、お姉様方。今日も存分に鞭で打ってくださいませ!」
「リューラ、今は目を輝かせる時間じゃないよ」
「ひとまず打っとこう。うりゃー!」
ビシーン!
マイミがリューラを躊躇なく鞭打つ。
どうやらマイミはもうこの状況に慣れてしまったらしい。
「ああん、もう、違いますわマイミお姉様。もっと強くてすごいヤツ、いつもの鞭をお願いしますわー!」
「やはりウェルカムトゥヘブンじゃないといけないようだな」
マトバがそう断言する。
「うへえ。あれ連続でやると疲れるんだよねえ」
マイミがへこむ。私もちょっと同感である。
「どうしたんですの、お姉様方。さあ、早く!」
「それなんだが、リューラ。リューラは鞭で打たれるとアヘって満足するだろう。その前に本当に実践稽古を頼む」
「マトバ、言葉に遠慮がないよ」
「だがリューラは手加減をしても十分私達以上に強い。だからもっと手加減をしてくれ」
「仕方ありませんわねえ。では、お姉様のためにほんの少し、千分の一くらいの力を出してあげますわ」
そしてすぐに、リューラとの接戦が始まった。
流石に千分の一のパワーではぬるかったため、五百分の一くらいの実力を出してもらう。
それでもリューラの接近戦は速く、鋭かったけど。
「お姉様方、これくらいでどうですか!」
「十分に、強い!」
「うおお、拳圧がやばい、怖い!」
「ギリギリ避けられるが、余裕は全くないな!」
こちらも反撃の鞭をくりだすが、リューラは難なく回避する。
「ふん、そのようなぬるい鞭、当たる価値もありませんわ!」
「当たることに価値を見出したら終わりだー!」
「同感だが、やはりドラゴン、強すぎる!」
「でもこれなら、私達もっと強くなれるかもー!」
全力で実践稽古をしたら、汗だくで疲れた後、リューラに良い笑顔を向けられる。
「さあ、それではそろそろ、私を鞭で叩いてください。本気で!」
「はあ、はあ。もう全身重いくらい疲れてるけど」
「先輩のためだし、仕方ない」
「もうひと頑張り、するぞ、ウタハ、マイミ!」
「おうよ!」
「いくよ!」
「ウェルカムトゥヘブン!」
「あはああーん!」
短時間とはいえ、これが毎日2回続くのか。ハードだ。
稽古の後は先輩の屋敷で休ませてもらった。
メイドさんからジュースをもらい、ソファに座りながら飲む。
「はー、生き返るー」
「先輩、ありがとうございまーす」
「皆頑張ったからね。好きなだけゆっくりしていってちょうだい」
「かたじけない」
「それにしても、これからどうする? アンミ先輩からは、客引きできるって言われたけど」
「んー、でもあてはないよねー」
「久しぶりに、町の人に客引きをやってみるか?」
そのマトバの意見は、とても現実的に感じる。
「でも今更人狙いってなんか気乗りしない」
「私達、今まで冒険者業メインだったしねえ」
「だがたまには人を客引きするのも良いんじゃないか。むしろ、それがノーマルアプローチだろう」
マトバ、言われてみれば正論である。
「んー、じゃあ、久しぶりにまちなかで客引きしますか。もしかしたら私達の魅力に惹かれちゃう人だっているかもしれないし」
「かもじゃなくて、絶対いるけどね」
「じゃあ、どこへ行く。道の真ん中で客引きするのは辛い過去があるから、あまりしたくないが」
「じゃあどっか行こうよ。武器屋防具屋さんの時みたいに、訪問客引きとか」
「良いね。それなら遊ぶついでにもなるし!」
「それじゃあ適当にあたってみるか」
「頑張ってね。あなた達」
「はーい!」
先輩に声をかけられて、閃いた。
「あ、そうだ先輩。折角だから先輩も一緒に行きませんか?」
「え?」
「リューラもこの町初めてだろうし、ちょっと回ってみない?」
「そうね。二番目のお母様がよければだけど」
どうやらリューラも乗り気になってくれたようだ。
「そうねえ。それじゃあ気晴らしにいきましょうか」
「やったー!」
「それじゃあ行きましょう、先輩」
「よーし、それじゃあいっぱい楽しみましょう!」
私達は早速皆でおでかけすることにした。
ちなみに、先輩の移動は馬車である。豪華だ。
まずは町で一番大きい服屋さんに行く。
「折角だから買い物もしていこー!」
「私達、ガリューからいっぱいお金もらってあるからね!」
「久しぶりに町娘スタイルになるのも良いかもしれないな」
私達いつも、犬、猫、うさぎ耳な格好だもんねえ。
「そうですか。では私からお姉様方に、この店の一番高い服をプレゼントいたしますわ!」
「そんなのいいよ。リューラ。大体こういうのは、いろんな服を見て回るのが楽しいの!」
「そういうものですか」
「そう。あ、リューラも服選んであげるよ!」
「私は上等な服しか着ないのですが。でも、マイミお姉様が私のために選んでくれるのでしたら、例えボロでもボンテージファッションでも喜んで!」
「マイミはそんな酷い思考はしないぞ」
私達は時間をかけて服を見た。
「お買い上げ、ありがとうございます!」
「はい。あと、折角なので、キャバクランニングに遊びにきてね?」
「あの、私女なので」
服屋での客引きは失敗に終わった。
だがそのかわりに私達は、断りきれなかったリューラコーデでフル装備していた。
「お姉様方、普段の格好も素敵ですけど、これもなかなか。じゅるり」
「リューラ、よだれよだれ」
「さあそれじゃあ気を取り直して、次いこー!」
「次はお昼ごはんも食べにレストランいこー!」
「場所は先輩にお任せします」
「それじゃあ、あの一番良いお店にしましょうか」
先輩の提案で私達は、以前サラダしか食べれなかったレストランにリベンジした。
そして、先輩のマネーでコース料理をごちそうしてもらった。
「本当にありがとうございます、先輩!」
「折角だからね」
「んおー、このよくわからないの美味しい!」
「このきのこのソテーも絶品だな」
「ふむ。まあまあの味ね」
リューラは結構いつも通りだったけど、きっとたぶん満足してくれたと思う。
「またのご来店をお待ちしております」
「あ、じゃあこちらも、キャバクランニングに、遊びにきてね?」
「はい、ではご検討をいたします」
反応は、どうだろう。空振りではないと思いたい。
お昼を食べた後は、おもちゃ屋に行った。
「私丁度買いたかったんだー!」
「こらマイミ、無駄遣いはひかえろ」
「これは無駄遣いではない。勝つための努力だ!」
「マイミまだハマってるねー」
「先輩の家でリューラとまたやって、負け越したのー。もう次は勝ちたい!」
「ではマイミお姉様。それは私が買ってさしあげますわ」
「え、いいよ。悪いし。それにリューラが買ったらリューラも強くなるじゃん」
「大丈夫ですわ。私のものはお姉様のものですから。というわけで、人間。ここにあるバリアブレイクタクティクスのカードを全部よこしなさい」
「まいど!」
「えー!」
そんなことがあり、私達はドラゴンの大人買いを見た。
ガリューもそうだったけど、ドラゴンって金遣い荒いなあ。
あ、ここでの客引きは、上々だった。店員さん鼻の下を伸ばしてたよ。
そして、他にもいろんなところ行ってえ。
客引き、宣伝は上手くできたかわかんないけど、楽しかった。
それからは、夕方に帰ってきて、すぐリューラと稽古。
「それではお姉様方。よろしくお願いします!」
「リューラも、鞭打つ前に実践稽古、よろしくね!」
今日はほぼ遊んだ一日だったけど、それなりに充実していた気がする。皆とゆっくりできて良かった。




