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75 ドラゴンとの稽古

 ひとまずは皆で、アンミ先輩に連絡を入れた。

「アンミせんぱーい。先輩の護衛終わりましたー」

「はい、ご苦労様。ウィワシャクの件は、こっちでなんとかしたから、これ以上気にしなくていいわよ。先輩ももう絶対安心だから」

「そうなんですかあ、良かったー」

「夜中に襲撃とかマジ迷惑だかんねー」

「もう先輩が襲われないなら良かったです」

「じゃあ明日からまた客引きよろしくねー。といっても、今年度の売上はガリューがぶっちぎりでお金使ってくれたから、もう前年度より余裕で多いんだけどね」

「あ、それならすみませんが、しばらくの間客引きはお休みしてもいいですか?」

「いいけど、何かあるの?」

「ガリューの娘さんのリューラに、毎日朝晩接待しろって言われちゃって、抜けられないんですー」

「あいつ鞭で打たれないなら先輩の護衛しないとか言い出したんですよ。もうまじ最悪でしたー」

「やはりあんなことがあったばかりなので、ドラゴンに護衛をしてもらった方が先輩も安心するんじゃないかと思いまして。なので、日帰りはおろか、朝と晩までに帰れない冒険者の仕事は今封じられてるんです」

「なるほどねえ。事情はわかったわ。でも冒険者の依頼ができなくても、客引きはできると思うの。だからまだ客引きはあなた達に任せるわ」

「はーい」

「でもじゃあ、先輩の周辺のことは、しばらく落ち着くまで、まだよろしくね」

「わかりましたー」

「それでは失礼しまーす」


「アンミ先輩への報告は終わったけど、二人共後はどうする?」

「んー。私は一回家に帰るかな。先輩の屋敷に持っていきたいものもあるし」

「私はカエルからもらった鉈を売りたい。お金は三人で山分けでいいだろう」

「おー賛成!」

「じゃあ、皆で武器屋いこっか。その場で山分けということで」

「ああ」

「よっしゃいこー!」

 というわけで、マトバの提案で武器屋に寄ることにした。


 武器屋に到着。

「おじさん。すいませーん」

「俺はおじさんじゃなくてお兄さんだ。いらっしゃい」

「この鉈売れますかー?」

 マイミが武器屋のおじさんに鉈を渡す。

「ん、鉈とは珍しいが、なんだか力を感じるな。ただの鉈じゃねえぞ」

「お、わかりますかおっちゃん」

「それ、実はモンスターが持ってた武器なんです」

「確か、エビルバーサークフロッグと言ったかな」

 マイミ、私、マトバが言うと、武器屋のおじさんは目を見張った。

「エビルバーサークフロッグの鉈だと。それはまたすげえ物を持ってきたな」

「知ってるんですかおじさん!」

「おじさんじゃなくてお兄さんだ。エビルバーサークフロッグの鉈は、鉈自体が強化スキルを持っている優れた武器なんだが、一度インゴットにしてから新しい武器にすると、同じ強化スキルがそのまま引き継がれることで有名でな。高額なアイテムだ」

「じゃあ、それ売ります!」

「だからお金ください!」

「はいよ。こりゃあ良いものが手に入ったな。だが、エビルバーサークフロッグを倒すとは。嬢ちゃん達、信じられねえスピードで強くなったな」

「え?」

「いやまあ、それほどでも」

「私達はまだ、未熟者ですが」

 接客バトルで勝ったとは、言いづらいなあ。

「エビルバーサークフロッグに勝ったということは、もう一流の実力者ってわけだ。その装備で倒したってのもすげえ。次の活躍、待ってるぜ」

「あ、ありがとうございますう」

 私達はよそよそしくも、鉈の代金を受け取った。

「どうする、エビルバーサークフロッグを倒したら一流だってよ」

「いいじゃん。実際倒したわけだし。つまり私達はもう、一流なんだよ!」

「しかし接客バトルで、しかもお酒の力を借りて勝ったからなあ。お酒のサービスは有限だぞ。油断はできない」

 私、マイミ、マトバが言う。

「じゃあどうする。皆事前にお酒持っとく?」

「それでも安心はできないだろう。お酒に弱いモンスターばかりというわけではない」

「じゃあつまり、私達はもっと強くならないといけないってわけだね」

 マトバがお酒戦法を否定したので、私はそう結論づけた。

 するとマイミが遠い目をした。

「強くならないと、かあ。でもこれ以上修行とかするのはごめんだなあ」

「まあ、レンダ先輩には頼らないでおこう」

「うん、そうだね」

 私は強く同意する。

「じゃあどうやって強くなるの? 冒険者の依頼も、今は引き受けられないような状況だよ?」

「そうだな、誰かレンダ先輩よりもやさしい、それでいて頼りになる者がいればいいのだが」

「あ、ちょうどよくリューラがいるじゃん!」

 私は天啓を得たとばかりに思い出した。

「そうだ、丁度リューラと実践の稽古をするんだった!」

「それだな。リューラが手伝ってくれる内に、どうにかして三人で強くなろう」

「それが良い。それじゃあやるぞお!」

「おー!」

 私達は気合いを入れた。ドラゴンが相手をしてくれるんだから、きっと私達、もっと強くなれるよね!


 私達は一度家に帰って、夕方また先輩の屋敷で集まった。

 約束通り、リューラと稽古をするためだ。

 私達は暗くなる前に、庭でリューラと相対する。

「さあ、お姉様方。早く私をまた鞭で打ってくださいませ。バシーンと!」

 そう言って顔を輝かせるリューラは間違ってる。けどそれよりも。

「それよりリューラ。私達もっと強くなりたいから、本当に実戦形式でお願い!」

「もちろん手かげんはしてよね!」

「この前のような戦闘をまた生き残るためにも、どうしてもレベルアップが必要なのだ」

「なるほど。わかりましたわ。お姉様方の期待にこたえるためにも、それでは少し私も力を出します。お覚悟を決めてくださいね?」

「うん!」

「というわけで、勝負!」

「こい、リューラ!」

「では、手始めに。えい!」

 リューラはそう言うと、一瞬で間合いを詰めて、一瞬で私を殴った。

 む、無言の腹パンがあー!

「ごふっ」

「がふっ」

「ううっ」

 私達は吹き飛ばされ、転がる。

「た、立てニャイ」

「く、苦し、死ぬ」

「これで、手加減、か」

「お姉様方。ほら、早くスタンダップしませんと。戦場でそのまま寝ていたら死にますわよ?」

「む、無理っす」

「立つとかどうとか以前に、楽になりたい」

「体が、動かない」

「もう仕方有りませんわねえ。はい、回復魔法」

 私達はリューラの魔法のおかげでようやく立てるようになった。

「死ぬかと思った」

「たぶん天国見えてたよ、さっき」

「うちの道場より厳しい稽古だな」

「さあ、お姉様方。先程は私が攻めました。ですから今度はお姉様方の番。また気持ち良い攻撃を頼みますわよ?」

「こうなったらやってやるー!」

「ワンパンで終わるなら、やられる前にやるしかないー!」

「せめて攻撃力は上げたいところだ!」

「ウェルカムトゥヘブン!」

 ビシーンバシーンピシャーン!

「いひいいいっ。これ、これですわあああ!」

 リューラは相変わらず美少女だけど気持ち悪い。

 けどこれで、私達の稽古になるか?

「はあ、はあ。さあ、お姉様方。あともう百回お願いしますわ!」

「ええっ、あと百回も!」

「どんだけMなんだよ!」

「ちょっと多すぎるな」

「いえいえ、そのくらいが丁度いいのです。さあ、早く私を打って。ハリーハリー!」

「ええい、仕方ない!」

「こうなったらやってやるー!」

「きっとこれも修行だ!」

「ウェルカムトゥヘブン!」

 ビシーンバシーンピシャーン!

 ビシーンバシーンピシャーン!

 ビシーンバシーンピシャーン!

「ウェルカムトゥヘブンー!」

「良い、良いですわー!」

 私達はただひたすら、必殺技を使いまくった。

 これが全部Mドラゴンのご褒美になってしまうのだから、世の中どこか間違っている。


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