73 リューラ現る
ガリューがどこかへ行って8日目の午前中。ガリューが帰ってきた。右腕をケガして。
あと、毛先が銀色になっている黒髪の美少女をつれてきた。
「我が愛すべき妻よ、無事だったか!」
「あら、ガリュー、おかえりなさい。ええ、あなたが雇ってくれた護衛のおかげで無事だったわ」
「本当に良かった!」
ガリューが先輩を左手だけでだきしめる。美少女はそれを冷ややかな目で見つめて言った。
「不倫お父様。そちらが二人目のお母様ですか」
不倫お父様って。ん、お父様?
「ああ、リューラ。そうだった。紹介するぞ。この美女が俺の新しい妻だ。妻、この子が俺の娘、リューラだ」
「初めまして。リューラですわ。これでも一応百歳です。実力はそれなりですわ」
「えー、ガリューって本当にもう結婚してたんだあ」
「なんだろう。心がモヤモヤする」
「百年以上添い遂げていた妻を裏切ったのか」
マイミ、私、マトバが言う。やっぱり不倫って良くないよね。そのおかげで私達も先輩も死にかけたんだし。
「ど、ドラゴンが2人」
「凄いな、やはり」
しかし新緑の刃は息を呑んでいる。いや、他の人たちも緊張している。どうやら人様の情事のあれこれより、純粋にドラゴンを意識しているようだ。
「というわけで、これからはこのリューラが妻を守る。お前たちの護衛はこれで無事終了だ。だが、俺がいない間に何があった。詳しく聞かせてくれ」
「ええ、いいわ。応接室はもう元通りになったから、そこで話しましょう」
先輩とガリューが応接室へ行こうとする。
私達も移動しようとすると、目の前にリューラが立ちはだかった。
「ちょっと、あなた達に用があるのだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「キャバクランニングエンジェルスは誰かしら?」
「あ、私達です」
「なんでしょう、リューラ」
「話は大体お父様から聞いたわ。あなた達がお父様をたぶらかした不祥事の原因ね」
「いいえ、絶対そんなことないと思いますよ」
「私達は無実です!」
「ガリューは最初からそういうやつでした」
私達は必死に弁解する。だって、美少女とはいえドラゴンに八つ当たりされたら嫌だし。ていうかたぶん死ねるし。
「そんなに警戒しないでちょうだい。私は、あなた達の力を試したいの。お父様が興味を持つ程の実力、ぜひ見てみたいわ」
「実力見るだけですか。だったら良いです!」
マイミがすぐ元気よく返事する。でも、嫌われてないんだったらまあいいか。
「じゃあ、早速私と戦ってちょうだい。大丈夫、手加減はしてあげるわよ」
「はーい!」
「お手柔らかにお願いしまーす」
「だがこちらは手は抜かないぞ」
「ええ、本気できてちょうだい」
もうガリューがいるし、先輩の護衛は本当にこれで終わりだろう。リューラも護衛役みたいだし。
「待て。ドラゴンと安全に戦えるなら、私達も戦ってみたいです」
「頼めるだろうか?」
と、あるき出す前に新緑の刃達がそう言った。
「ドラゴンと戦えるなんて夢みたいです。私達も良いですか?」
「んまあ、確かに良いイベントだな」
マーミさんとジュアリーさんもそう言う。
「ええ、いいわ。ちょっとくらいなら遊んであげる。全員まとめてかかってきなさい」
リューラは不敵に笑って、そう言った。
そして皆でぞろぞろ、庭に行く。
まずは小進軍が戦った。
結果は、惨敗。
小進軍は完璧と言っていい程の四人連携を見せたが、彼女の美肌に自慢の攻撃を全て弾かれた後、皆リューラの腹パンを一発ずつ受けて倒れた。
「し、死ぬ」
「安心しなさい。手加減してあるわ」
次は、怒涛の角が戦った。
結果は、またしても惨敗。5人で5方向から槍で突くも、リューラは華麗にふわふわ空を飛び、反応できないレベルの飛び蹴りで全員ふきとばした。
「し、死ぬ」
「安心しなさい。手加減してあるわ」
次は、新緑の刃が戦った。
結果は、やはり惨敗。初手から木魔法で攻め立てるも、リューラには傷1つつかなかった。
「なかなか良い攻撃だけど、レベルが足りないわね。下級ドラゴンになら足止め程度にはなるんじゃない?」
そう言って、近づいて、無言の腹パン。三人は接近戦になると、近距離、中距離、遠距離からの連携を見せたが、無意味だった。
「く、魔法がなければ危ない。この威力」
「あら、あなた達珍しい魔法を使うのね。人間の割には、なかなかやるじゃない」
そして、残ったのは私達。
けど、無言の腹パン怖い。
「さて、それではお待ちかね。ようやくキャバクランニングエンジェルスとの戦いよ」
リューラが笑顔で私達を見る。
私達は勇気を出して前に出た。
「それじゃあリューラ、いくよ」
「でも戦いじゃ絶対勝てないから、接客バトルでいくよ!」
「接客バトル?」
「まあまずは受けてみろ。それではいくぞ!」
「えい、誘惑攻撃!」
「おしゃべり攻撃!」
「ドリンク攻撃!」
「な、なにこれ、いきなり接待?」
「そうよ!」
「これが私達の実力だー!」
「どうか、良い気になれ!」
戸惑うリューラを、私達は一気にたたみかける!
「誘惑攻撃!」
「おしゃべり攻撃!」
「ドリンク攻撃!」
「な、なに、この気持ち。ちょっとうれしい」
いける。これは効いてるぞ!
「誘惑攻撃!」
「おしゃべり攻撃!」
「ドリンク攻撃!」
「く、このままじゃいけないわ。気が引けるけど、攻撃しないと!」
「ま、待って!」
「やっぱり無言の腹パンは受けたくない!」
「頼む、あと一回分待ってくれ!」
「わ、わかったわ。それじゃああと一回しぼりたてミルク飲んだら、腹パンするわね」
こ、ここで決めなければ!
「マイミ、マトバ。ここは一気に気合いをためよう!」
「オーケー、とっておきね!」
「それしかないか!」
「うおー!」
「てりゃー!」
「はあー!」
私達は気合いをためた!
「それじゃあ気合い溜め分一回待ったということで」
「本当にあともうちょっと待って!」
「今からやるから、全力見せるから!」
「く、らえー!」
「ニューチャームスマイル!」
「ファインフォルテッシモ!」
「清楚トレビアンヌ!」
私達はとっておきを披露した!
「キュ、キューン!」
やった、リューラに少なからずダメージ!
「な、なにこの気持ち。こんなの初めて。ちょっとキュンてきた!」
「ありがとう、リューラ!」
「これが私達の実力よ!」
「わかったら、無言の腹パンだけはやめてくれ!」
「ええ、考えてあげてもいいわ。でもそれじゃあ今度は、戦士として私に確かな一撃を与えることができたら、実力を認めてあげる」
「せ、戦士として?」
「要するに鞭使えってこと?」
「やはりまだ攻撃が足りなかったか」
「さあ、三人とも、かかってきなさい。このリューラに対して!」
ドーンとリューラがのけぞる。それじゃあ、仕方ないか!
「マイミ、マトバ。お客様が鞭をお望みだから、一気に決めるよ!」
「オッケー。やってやんよお!」
「見た目美少女を鞭打つなんて気が進まないが、仕方ない」
私達は鞭を構えて、一気にいく!
「必殺、ウェルカムトゥヘブン!」
ビシーンバシーンピシャーン!
「んっ、きゃあー!」
するとリューラは、なんか艶っぽい悲鳴をあげた。
「どうだ!」
「これで満足してください!」
「期待には答えられたはずだ!」
私、マイミ、マトバがそう言うと、リューラは顔を上気させながら言った。
「い、今の良い。凄い。ハートがキュンキュンきた!」
「えっ?」
私達は固まる。
するとリューラは手をこっちに向けて近づいてきた。
「今のお願い、あと1回やって。いや、十回やって。そうしたら満足するから。もっとイケるから!」
「な、なんかやばいこの子」
「ど、どうする?」
「不気味だが、やるしかないだろう」
私達は相談すると、皆でうなずき、覚悟を決めた。
「えい、ウェルカムトゥヘブン!」
「あーん!」
「ウェルカムトゥヘブン!」
「きゃあーん!」
「ウェルカムトゥヘブン!」
「ぎっもぢいいーっ!」
望み通り鞭でしばいたところ、リューラはとろけた顔をして立ち尽くした。
「はあ。はあ。これが、天国」
「いいえ、たぶん違うと思います」




