72 秘密結社ウィワシャク
召喚士への尋問は即座におこなわれた。
先輩、鞭使った。
ビシーンバシーン。傷口に鞭打つような真似、私にはできない。
「ぎゃー!」
「まずは、皆を危険な目にあわせた報い、受けてもらうわ!」
ビシーンバシーン。
「ぐわーっ、目覚めるー!」
「早く気持ちよくなった方が身のためよ!」
「うわあ。すげえ」
「これは迂闊に近づけねえな」
「ちょっとドSすぎるな」
私達はひいて、ひとまず地下への階段を警備する。そういう指示だった。まだ襲撃は終わらないかもしれないとのこと。ふう。一息つきたいのにつけない。これが24時間護衛か。やっぱり精神的にくる。
けど召喚士の尋問はすぐに終わり、そしてローレットさんが外の戦闘について教えに来てくれた。
召喚士と外組の二通りから情報を手に入れると、今回の襲撃は以下の通りであることが伺えた。
まず召喚士は、屋敷の周囲の警備に穴を開けるためにモンスターを召喚した。
ここで出たのは大型モンスター、カウハラン。牛の頭、額に角、コウモリの翼を持った人型モンスター。討伐難易度は☆6とのこと。
警官がカウハランに釘付けになっている間に、新しいモンスターを呼んで空から侵入。2体目のモンスターはヒュッケンリグリュ。大きな翼を持ち、人2人くらい背に乗せられる中型モンスター。それに乗ってまっすぐ先輩の部屋の窓から侵入しようとしたところ、庭でスタンバってた小進軍が気づき、遠距離スキルで攻撃。ヒュッケンリグリュは落ちはしなかったものの主である召喚士を落とし、単体で窓に突撃した。
窓ガラスが割られる音と、呼笛が吹かれたタイミングがこの時。どうやらあの時私達も呼笛に呼ばれて向かった方が早く戦えたらしい。まあ、結果的にはセーフだったけど。
落ちた召喚士は、地上で待ち構えていた小進軍2人をたおすべく、二体目のカウハランを召喚。更に悪魔を護衛として召喚し、その場をカウハランに任せて移動。
呼笛に呼ばれて集まった怒涛の角の助けもあり、カウハランは見事撃破。ただしその時にはもう、召喚士をこちらが倒していた。負傷者を出しながらも、皆なんとか生存。屋敷の外にいる最初のカウハランは、それからしばらく後に警官と兵団が倒したそうだ。
屋敷の正面入口を見張っていた怒涛の角のメンバーが、一番の重症。悪魔に一撃で瞬殺されたらしい。ただし致命傷ではなかったので、様子を見に行ったマーミさんが回復魔法を使い、なんとか助かる。その他の皆は血を流しながらも元気に動けたらしい。
ただし、カウハランとヒュッケンリグリュが暴れたおかげで、庭と2階の部屋は無惨な有様だそうだ。応接室も似たようなものだけど、こっちはまだマシらしい。2階の部屋なんて、扉が外れかけているそうだ。
以上が、今回の襲撃内容と、被害状況。
今回の襲撃者は召喚士1人だって、召喚士自身が自白した。
まあ、仲間をかばっている場合もあるかもだけど、少なくとも今はもう、新たな襲撃はない。
新緑の刃は倒したヒュッケンリグリュを解体して、追加報酬にするそうだ。
庭で戦っていた怒涛の角と、小進軍が倒したカウハランの素材は2組が山分け。先輩はそれを全て認めた。朝になったらギルドの解体屋を派遣してもらい、バラしてもらうそうだ。
美女だった悪魔は、マーミさんが入念に滅した。なんか神聖な魔法でピカーっと処理した。それでも残ったミイラは教会に持っていくんだって。慎重に処理するらしい。
そしてカエルはというと。
「ゲロっ」
「カエルさん。あなたはもう人を襲っちゃダメだよ。ていうか人殺しはダメ。絶対」
「この鉈は没収するかんね」
「これからは善カエルとして生きるのだぞ」
「ゲコッ」
目覚めたので私達が一言注意すると、うなずいて去っていった。
これからは誰かの役にたてるカエルになってほしい。
そして全てが終わると、警官と兵団が屋敷にやって来た。
「奥様。奥様の屋敷周辺でモンスターが現れたようですが、こちらはご無事、ですか?」
「はい。こちらも丁度片付いたところです」
先輩は召喚士を警官に引き渡し、引き続き周囲の警備を頼んだ。警官はそれを承諾して去り、兵団の人も一言何か言って帰っていった。
先輩曰く、もう召喚士から聞き出すことはないとのこと。そして先輩は断言した。
「相手の正体がわかったわ。暗殺者っぽい人や召喚士をさしむけたのは、悪の組織ウィワシャク。この町のアジトの場所も判明したわ。ここからは守りではなく攻めに徹するわよ」
「それは私達がやるよ」
その声と共に、私達の前にシェイドさんが現れた。相変わらず闇の中から現れる。かっこいい。
「あ、シェイドさんお疲れ様です!」
「夜遅くなのにありがとうございます!」
「私達の贈り物、役に立ってますか?」
「あ、うん。とにかく、キャバ嬢を狙った敵は私達の敵だから。これから早急に討ち入りするよ。だからそっちはゆっくり休んで。人手は足りてるから」
「あら、そう。じゃあ、こっちで手に入った情報はいる?」
「一応もらっておこうかな。こっちの情報に無いものもあるかもしれないし。どこかゆっくりできる場所で話そう」
そして、応接室もズタボロになってしまったので、適当な個室で少し話をしてから、シェイドさんは今宵も闇に消えた。
それから数日経ち、その間襲撃等の異変は何もなかった。
「なんと。我らがウィワシャクの大幹部、闇の召喚士アバスタが捕らえられただと!」
「バカな。折角王都から呼んだ精鋭だったというのに、こうもあっさりやられるとは」
「だからこちらの暗殺部隊と協力しておれば良かったのだ!」
「だが、待っている間にガリューが戻ってきてしまっては元も子もないではないか。あの時はああするのが最善だったのだ!」
「今となってはもう手遅れよ。アバスタが口を割れば、すぐにこの場所もばれる。ここは迅速に撤収、逃げるしかあるまい」
「逃げるといってもどこに。近くのアジトに行くのに一週間以上かかるぞ!」
「それでも逃げるしかないだろう。まとまって動いてはまずい。ここは3つの部隊に分かれて逃げるぞ」
「くそ、くそ、くそっ! ハーフドラゴンが手に入れば、我らの力は飛躍的に上昇するというのに!」
「もっと入念に準備をすれば良かったのだ。とはいっても、ガリューがいなくなるという今のチャンスに間に合うような準備の仕方は、なかったがな」
「く、やむをえん。この場にある我々の痕跡は全て処分するぞ。急げ、時間がない!」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「なにやつ!」
「私は人と話すのが苦手でね。大したことは言えないんだ。でもこれだけは言える。お前ら全員、地獄行きだ」
「こいつ、キャバ嬢だ!」
「まさかキャバクランニングの影、もう嗅ぎつけたか!」
バターン! ぞろぞろぞろ。
「そこまでよ! キャバ嬢参上!」
「悪いやつらは、皆まとめておしおきよ!」
「ひいー、逃げろー!」
「何を言う、お前ら、戦えー!」
「私はこの秘密の脱出口から逃げるぞー!」
「こいつらには何もさせない。ゼットちゃん。やれ」
「イエス、シェイド先輩。炊事洗濯なんでもござれ万能メイドロボ、ゼットちゃんにお任せメカ! ピピ、ジェノサイドモード起動。ターゲットロックオン。全員、逃シマセン」
「ひー!」
「う、うろたえるな、あんなのただのはったりだ、倒せー!」
「必殺、ジェノサイドプリティースパーク!」
「ぎゃー!」
数分後。
「ジェノサイドモード、終了。きゅうー」
ぐらっ。ぎゅっ。
「お疲れ様、ゼットちゃん」
「あ、エネルギー切れでお疲れ中な私を抱きとめてくれるなんて。シェイド先輩、まさかこれは、ゆり的なセクシールート?」
「いや、私はノーマルだから。エネルギー切れなの、どら焼き食べる?」
「あ、ありがとうございます。私中に栗入ってるのが好きですメカ」
「さすが万能メイドロボね。必殺技のおかげで真っ先に逃げ出そうとしたやつらもひとり残らず痺れさせて、無事こらしめられた。助かったわ」
「これがメイドロボの力メカ。ではもっとゼットちゃんの株価を上げてください」
「気持ち的には上げるけど、お給料は変わらないからね」
「がっくり」
「でも、この資料によると、王都に本拠地、他6箇所に各拠点かあ。これはちょっと大仕事かなあ」
「なに、各地のキャバ嬢を頼ればこのくらいお茶の子さいさいよ。というわけで、連絡役、お願いね。シェイド」
「はいはい。結局は私が肝心か。でも今回は、可愛い後輩も危険な目にあってるし、頑張らないとね。それじゃあもう各地に連絡してくるよ」
「ええ、お願いね」
「いってらっしゃいメカー」
こうして、後にキャバ嬢闇の歴史として語られる「ウィワシャク殲滅戦」が幕を開けた。
だがウタハ達はそんなことを知るよしもなく、陽が昇るとすぐに建築業者に壊れた屋敷の修繕を頼んで、工事の様子を眺めたり、飽きて皆でサーカスを見に行ったりするのだった。
めでたしめでたし。




