70 屋内戦
「2階にも行ってきます!」
「今新緑の刃が向かったからそっちは良い。それより、外の様子を教えて」
あ、本当だ。新緑の刃が全員いない。
私は応接室に入り、なるべく手短に話す。
「外には、モンスターが現れたらしいです。ここより少し遠くで、それに警官が対処してます。ローレットさんが今吹いた呼笛の方へ向かいました」
「外に、モンスター?」
「場所を移動した方が良いでしょうか?」
ジュアリーさんとマーミさんが言う。
「いや、敵の数が不明だ。ここも危険かもしれないが、私達だけでは護衛が少ない。新緑の刃が戻ってくればいいが、その次はどこなら安全か検討しなきゃならん。どうする?」
ジュアリーさんが首を振ってから先輩を見ると、先輩は神妙な顔をして言った。
「このまま家にいては危険という可能性は、十分ありえる。でも、避難先が思いつかないわ。ここは皆に任せて、襲撃を防ぐしかないかしら」
「あ、キャバクランニングに行ったらどうですか。皆いますし!」
私がそう提案するが、先輩は首を横に振った。
「キャバクランニングにはお客様もいるでしょ。迷惑をかけては悪いわ」
「あ、そっか」
「ですが、今は少しでも味方が欲しい時です。先輩方なら力を貸してくれるのでは?」
マトバもそう言うけど、先輩は良い顔をしない。
「じゃあ、兵団に行けば?」
その時、起きていたマイミがそう言った。
「そこなら守ってくれるよきっと。ゲイラー団長とかもいたら心強いし」
「そうね!」
「兵団なら安心できる」
私達がそう言って先輩を見つめると、先輩もうなずいてくれた。
「そうね。では兵団の所に逃げましょう。新緑の刃が戻ってきたら、すぐに移動します」
「オーケー、賛成だ」
「移動する際、可能な限り外のメンバーにも声をかけましょう。っ、皆さん、敵が来ますよ!」
マーミさんがそう言った瞬間、私達はそれぞれ武器を構える。
するとすぐに、応接室に一匹の犬がとびこんできた。
だが、ただの犬ではない。黒い体毛と、ところどころ硬質化した皮膚を持つ、大型犬サイズのモンスター。
名前は知らないけど、すごく強そう!
「はあ!」
「せやあ!」
私達は驚く前に、その犬に鞭を当てた。
「ガウッ」
犬モンスターはマトバの鞭こそかわしたものの、私の鞭をかわしきれず、まともに受けて一瞬ひるむ。
「ウインドホールド」
そしてジュアリーさんが杖を向けると、犬モンスターの体がふわりと浮いて、身動きが取れなくなった。
「はっ!」
そこにマーミさんの杖の一撃が頭に直撃する。
「ギャン!」
犬モンスターは痛がるが、宙に浮いているのでもがくことしかできない。
「ウェルカムトゥヘブン!」
「ウェルカムトゥヘブン!」
私達も致命傷を与えるべく、必殺技を放つ。そこにマーミさんがさらなる一撃を加えて、そこで犬モンスターは動かなくなった。
「はあ、はあ、本当にモンスターが」
「他にはいるのか?」
私とマトバは、いつの間にかあがっていた息を整える。
「おや、ゴルドッグを秒殺か。やはり手強いやつらが残っているな」
そこに、フードをかぶった男と、翼と角があるセクシー美女がやって来た。
「皆さん、気をつけてください。あの女、悪魔です!」
マーミさんに言われて、気を引き締める。
悪魔。人を堕落させる存在。
見た目以上の強さと狡猾さを持っているという。まさかそんなやつが現れるなんて!
「あら、ご挨拶ね。それで、どうするのマスター。まさかこいつらも倒せというつもり?」
「当然だろナモーロ。こいつらは敵だ。契約通り、敵は排除してもらう」
「まったく。悪魔使いが荒いマスターね。そこの僧侶はなかなか厄介そうだけど、倒し切るのには時間がかかるわよ?」
「では、増援を呼ぶ。我が頼もしき手下、召喚」
フードの男がそう言って何か石のようなものを投げると、それが砕けて中からモンスターが現れた。モンスターは大きな鉈を持った人型のカエルだったが、小柄ながらも砕けた石よりは遥かに大きい。
「召喚魔法に、エビルバーサークフロッグ」
マーミさんが呟く。
「エビルバーサークフロッグよ、命令を与える。ひとまず目の前の三人を殺せ」
フードの男がそう言った瞬間、カエルがもの凄い速さで私に向かってきた。
私がとっさに動けたのはたぶん奇跡だ。もしくは、今まで数々の戦闘を乗り越えてきた経験によるものか。
後ろに退きながら鞭を振るう。牽制に振るった一撃は、カエルの片手で簡単につかまれた。
カエルの突進は勢いが止まらず、鉈が私に近づいてくる。けどそこに、横からマトバの鞭が飛んできて、カエルをふきとばした。
カエルは軽やかに身を翻して、壁を蹴ってから着地。
「大丈夫か、ウタハっ」
マトバはそこまで言って、再び激しく鞭を振った。カエルが次に、マトバを狙ってきたからだ。
カエルはどういうわけか空中で鞭を回避しつつ、急接近してくる。私も鞭を振ったけど、カエルの鉈に弾かれてしまった。
マトバは後ずさるが、カエルの方が速い。危険な光を放つ鉈がマトバの前で振りかぶられる!
「それ!」
その時マトバの体が不自然に倒れた。マイミが足首に鞭をひっかけて、仲間を転ばせたのだ。
そのおかげでカエルの鉈がマトバの頭上で空振る。そしてそのまま着地する。
私はそのチャンスを見逃さなかった。
「ウェルカムトゥヘブン!」
私はなんとか必殺技を放つ。着地を狙ったうえに、カエルは後ろを向いている。ここでくらえ!
けれどカエルは私の鞭もかわした。
カエルは何か長い物を伸ばして、それを壁にくっつけて、更に縮めて移動した。
あれはベロだ。長い舌が移動手段に使われたのだ。
「ゲロっ」
カエルが改めてこちらを見る。ここでマイミが近づいて、マトバも立ち上がった。
「皆、こいつ危険だから、一気に決めよう!」
「そうね!」
「今だ、いくぞ!」
「ウェルカムトゥヘブン!」
私達は即座に息を合わせる。このカエル一匹を相手にしていられる時間なんてそんなにない。ここで決めてやる!
「ゲロっ」
それをカエルは、真上にベロを伸ばして天井にくっつけて、上へ逃れて回避した。
そしてそのまま天井を蹴って、私に向かって急降下してくる!
く、ウェルカムトゥヘブンを使った反動で、ろくに動けない!
カエルの持つ鉈が、私に向かってまっすぐ振り下ろされる。
そのカエルが、横からとんできた鞭に打たれ、ふきとんだ。
先輩がいつの間にか鞭を持って、こちらに来ていた。
「先輩、ありがとうございます!」
「安心するのはまだ早い、くるわよ!」
そうだ。このモンスターから少しでも目を離したら、死ぬ。
私は慌ててカエルの姿を再び捉えた。




