66 曲者現る
新緑の刃は既にご飯を食べ終えていた。なので私達と先輩だけ夕ご飯を食べに行く。
そのかわり、新緑の刃は先にお風呂に入ることになった。私達と交代でお風呂に入るということらしい。確かに、護衛が増えるとそういう利点がある。まあ、四六時中べったり護衛してなくてもいいとも、思うけどね。
ご飯を食べ終えた私達は、先輩の部屋で新緑の刃と合流。そこで交流をかねてカードゲームを再開した。
「ねえ、折角だからバリアブレイクタクティクスやりませんか!」
「ほう、聞いたことのないゲームだな。どれ、やってみるか」
リーゼルンさんはマイミに捕まった。マトバのデッキを借りつつ、説明書を読んでいる。
シュミリーさんとライハさんは、残った私達と普通のカードゲームをする。まずは6並べだ。
1から50までと、100のカードを使って、最初に6のカードを並べる。あとは7並べのルールと一緒だ。100がジョーカー扱いで、10から11等にはつながらない。
「何か賭けるか?」
「私は賭けなくてもいいと思うけど。どうせ長い間護衛してもらうんだし。些細なことで喧嘩されたくはないわ」
「そうですね。ここはノーリスクでいきましょう」
「賛成です!」
私は先輩とライハさんに賛同する。賭けなんてしたら、負けた人がとんでもない目に遭う。そういう事態はいかんのだ。いかんのですよ。
今日私、調子悪いし。
と思っていたら、本当に6並べでもビリになってしまった。おかしい、確率的にこんなに負けるのはおかしい。
「私、ひょっとしてカードゲーム弱い?」
「まあ、そういう時もあるだろう。次はババ抜きでもするか?」
マトバの意見を採用して、ババ抜きをする。1から40までと100のカードを使って、100がジョーカー。後は1桁が同じ数字のカードを2枚ずつ捨てていく。シンプルなゲームだ。
それに、私は、また負けた。
「なん、だと?」
「あー。これは賭けはできないわね。弱すぎて」
「いいカモにしかならない」
シュミリーさんとライハさんにそう言われた!
「き、きっと次は大丈夫だよ、勝てるよ!」
「ウタハ、次も負けそうだぞ。一度休むか?」
「う、うん。じゃあ、ちょっと休憩する」
「まあ、それがいいと思う。ところで、マトバ達。今、ランクはいくつ?」
「3です」
「3か。それでよくあそこまで強いね」
「えへへ、ありがとうございます?」
ライハさんに褒められてしまった。ここは素直にうれしがろう。
「じゃあ、もう山には行った?」
「山って、北西のですか?」
「そう」
「まだです。結構距離遠いですし」
「なら、一度は、ううん、何度かは行った方が良いよ。あそこなら実力がわかるし、冒険者を続けるかも考えさせられるし」
「山って、何かあるんですか?」
「豊富な素材に大量のモンスター。鉱山の入り口もある。たしかにちょっと遠いけど、安定した稼ぎ場所だよ。まあ、そこでやっていくだけの力があればの話だけどね」
「なるほどお。私はできれば、日帰りで家に帰れる仕事がいいんですけど」
「そういうのは冒険者向きじゃないね。メイドにでもなれば?」
「あははー。一応キャバ嬢なんですけどね」
「ああ、そういえばそうだったね。結構強かったから、忘れてたよ。でも、まあうん。君達くらい素質があれば、5ランクには上がれるかな?」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「このまま強くなれればね。4ランクからは、モンスターが格段に強くなるからね。油断は禁物よ」
「はい。わかりました」
「リザードエースを召喚!」
「な、なんだそれは。うわあ、私のクリーチャーがやられていくう!」
新緑の刃の三人と楽しく遊んで、大分仲良く慣れたような気がした。
しばらくして私達もお風呂に入り、寝た。
ただ、念のため護衛ということで、夜の見張りをしておく。
ここは屋敷の中だから、大丈夫だと思うけどね。
私は二番目の見張りだ。マイミとマトバは寝起きが悪いからね。起きっぱなしのマイミに起こしてもらい、最後に私が寝相の悪いマトバを起こす。これが一番楽な交代順である。マイミとマトバが一回しか起きなくて済むからこれこそベスト。
新緑の刃も1人だけ交代で起きているらしい。彼女たちもいれば心強い。
「ウタハー、起きてー。交代ー」
「んー。もうそんな時間ー?」
マイミに起こされ、部屋を出る。先輩が寝てる部屋は隣だ。更にその隣に、新緑の刃が泊まっている。先輩は私達に部屋を挟まれて安心というわけだ。
私は先輩の部屋の前に立つ。するとリーゼルンさんが来た。
「あ、この時間帯はリーゼルンさんが護衛なんですね」
「ああ。そうだ。だが、2人で部屋の前に突っ立ってても仕方ないだろう。私は外を見張る。ここは任せたぞ」
「はい」
そうか。別にここに2人でいないといけないわけじゃないもんね。むしろ、警戒するのは外か。
リーゼルンさんがすぐに去ってしまう。私は1人、静かな夜の廊下の真ん中で立ち尽くした。
暇だ。
ピー!
遠くでそんな音が聞こえた。
「っ」
私はすぐにそれが、離れている仲間に合図する呼笛の音だと判断する。
「先輩!」
私はすぐにドアを開けて、先輩の無事を確かめた。
「すうー。すうー」
良かった。先輩は無事だ。
「先輩、大変です。危険かもしれません。起きてください」
「んー? ウタハ、おはよう」
「はい。まだ夜ですけど。一応念のため、新緑の刃の部屋へ行きましょう。いえやっぱり、彼女達をここに呼びますか?」
ちょっとくらいなら、彼女たちを呼びに行ってもいいかもしれない。
「奥方は無事ですか!」
と、ここで、シュミリーさんとライハさんが来てくれた。
「シュミリーさん、ライハさん、良かった。2人共笛の音を聞いたんですね!」
「うん。ウタハも聞いたのね」
「はい。それでは、私はちょっと2人を起こしてきます。マイミもマトバも、寝起き悪いので!」
というか、たぶんまだ寝っぱなしだろうから!
「そう。それなら、そっちは三人でリーゼルンの様子を見てきてちょうだい。私達はこのまま奥方を守るから」
「わかりました!」
私は急いで部屋に戻り、2人を起こした。
「マイミ、マトバ、起きて。緊急事態!」
「うーん、あと五分ー」
「冗談はよしこさん!」
「んああ、まだ朝じゃないぞ」
「先輩が危なくなってもいいの!」
「よくない!」
よし、2人共後輩魂で目覚めた!
「え、ウタハ、先輩危険なの?」
マイミの言葉に、私は顔を横に振って答える。
「ううん。まだわからない。でも、リーゼルンさんがまず危険かもしれない。シュミリーさんとライハさんが、様子を見てきてって、私達に任せてくれた」
「うーん。無事じゃなかったら大変だ。よし、行こう!」
「まさか、護衛一日目でこんなことが起こるとはな」
私達は一斉に部屋を出て、階段をかけおりようとした。
しかしその時ウタハが私達の肩を叩いて、すぐに鞭を手にした。
それを見て私達も鞭を手にして、警戒する。
すると。
階段のところに来た瞬間、突然何者かが私とマトバを狙って刃物を振り抜いた。
バシーン!
私の目の前できらめいたそれを、マトバが鞭で弾く。
そしてマトバは、華麗に攻撃を回避していて、謎の敵2人を見た。
「かすかに血の臭いがした。お前たち、既に人を斬ったな」




