65 新緑の刃
先輩とカードゲームを買って、楽しんだ。
「じゃあ次は高い数字ね。セット」
「セット」
「オーケー。それじゃあオープン。86よ」
「あーっ、私78。先輩まだそんな数字持ってたんですねー!」
「ふふふ。また私のポイントね」
「はいー」
私と先輩がやってるのは、ハイプラスロー。お互い手札の1枚を選んで、そのどっちが高い、もしくは低い数字か競うゲームだ。
数字が高い方が勝ち。低い方が勝ち。と、交互にやって、5回くらいやったらポイントを比べるという簡単なゲーム。
でも手札の制限があって、一度弱いカードを出して相手の強いカードにあてるという戦略もあったりする、何気に駆け引きが熱いカードゲームだ。
1から100まで数字があるカードはどこにでも売ってて、よく酒場や賭場で使用されていたりもする。でも先輩は賭けなくていいって言ってくれたので、今はなんにも賭けてない。
最初に配られた手札はそんなに悪くはなかったんだけど、先輩強いなあ。
「私のターン。ラビット執事を召喚!」
「うわー、また出たー!」
そして隣でマイミとマトバが、トレーディングカードゲームで遊んでいた。
マイミが何気なく見つけてしまったカード、バリアブレイクタクティクス。わかりやすく言うと、絶対効果が発動するバリアカードを全てブレイクして、最後にクリーチャーでダイレクトアタックしたら勝てるゲームだ。
説明書も別売りで買うからちょっと高かったけど、特にマイミが熱中していた。それにマトバがつきあっているという感じだ。
「リザードアーチャーで右端のバリアをブレイク!」
「バリアエフェクト発動。樹海の歓迎。手札の5コスト以下の木属性クリーチャーを一枚場に出して、そのコスト以下のコストを持つ相手クリーチャーを一枚タップ」
「うわー、マトバのクリーチャーまた増えたー!」
「それだけではないぞ。トラップラビットを効果で召喚。召喚時効果で自分のマナを一枚手札に戻して、そのカードのコスト以下のマナを持つクリーチャーをマナ送りにする。この効果でマイミのクリーチャーを更に無力化だ」
「うわー、鬼ー!」
「鬼ではない。今は、デュエリストだ」
マイミ、ハマってるけどマトバにはやられてるみたい。やっぱり上達するのは難しいんだろうなあ。私もそうだし。
「次は低い数字ね。セット」
「セット」
「オーケー。それじゃあオープン。3よ」
「えーまだそんな数字持ってたんですかーっ、こっちは12です。勝てない!」
「ここまできたら、もうウタハに逆転の芽はなさそうね。私の勝ちよ」
「ううー。2連敗ですよー。私博打弱いのかなあ?」
「まあ、やめておいた方が良さそうね」
流石に負けっぱなしだとつまんなくなる。後はマイミとマトバのゲームでも見てようかなあ。
「ウタハ、次はブラックジャックでもやる?」
「あー、はい。やります」
「じゃあ、150に近い方が勝ちね」
「はーい」
どうやら先輩はまだ勝ち足らないみたい。仕方ない。もう少しやられるとしますか。
ちなみに、先輩はもうキャバクランニングを辞めたようだ。
もう夫がいるから、仕方ないよね。でも今でも先輩は先輩だ。そこのところは変わらない。
今更態度変えるのもなんか違うしね。
「奥様。ご夕飯の用意が整いました」
カードで遊び続けてたら、メイドさんがそう言いに来てくれた。
「あら、ありがとう。もうそんな時間なのね」
「はい。護衛の皆様のご夕飯も用意してあります」
「ありがとうございます」
「ございまーす!」
「こら、マイミ。かたじけない」
「それでは、失礼いたします」
メイドさんが部屋を出る。ごはんもお泊りもこみこみな仕事って、結構最高。ガリューに捕まって良かったな。
「うーん。このままではマトバに勝てない。ここはブースターパックを買ってデッキの強化を図るか」
「マイミ。これは遊びだ。お金のかけすぎには注意だぞ」
「でもこのまま負けていたくはない。勝ちたい!」
「だが、遊びの時間なんて今のうちだけだ。それに本命は先輩の護衛。警戒をおろそかにしてはいけない」
「うう、わかったよー。でも、くうう。なんかはがゆいい」
「マイミ、勝てないものは勝てないんだよ。程よく諦めよう。そして悟ろう?」
「私はそこまで達観してないよウタハ!」
「ウタハは悟りすぎかもしれないな」
「うふふ。先輩に負け続けたら悟りもするよ」
「ガリューが雇ったメイド達のご飯、とっても美味しいから。皆、楽しみにしててね?」
「はーい」
私達はカードを片付けて、食堂に向かった。
その時。
「奥様。お客様がお見えになりました」
またメイドさんがきて、そう言った。
「あら、誰かしら?」
「なんでも、護衛の依頼を受けてきたと。パーティ名は、新緑の刃だそうです」
「あら。ウタハ達以外にも護衛が来たのね。なら、帰ってもらうのも悪いから、一度お話して、人が良さそうだったらお願いしようかしら。ウタハ達も顔見せするわよね?」
「いいんですか。じゃあお願いします」
「私達以外の冒険者って、誰なんだろうね?」
「上手くやっていければいいが」
「では、客間に行きます。お客様を、そちらに通してちょうだい」
「はい。かしこまりました」
応接室にて。
現れたのは、私達と同じ三人組の、しかも全員女性の冒険者だった。
「私達が新緑の刃です。私はリーダーのシュミリー」
「私はリーゼルンだ」
「私はライハです」
三人がそう言って握手を求める。
「私が雇い主の、妻です。まあ、妻の1人みたいなんだけど」
「はあ」
「いえ、なんでもないわ。こっちの話。それで、新緑の刃は私と一緒にいられる? 一応夫の話では、日中だけじゃなく夜中の間も護衛してもらうって話なのだけど」
「おまかせください。それくらいできて当たり前です。護衛の腕も、5ランク相応にあります」
へえー。皆さん5ランクなんだあ。私達より2つも上だ。
「では、あと。この子達も護衛なんだけど、上手くやれる?」
「どうも。私ウタハです!」
「私はマイミ!」
「私はマトバだ」
「連携ということですか。では、一度腕試しをして力量をみれば、おそらく協力することは可能でしょう」
シュミリーさんがそう言った。
「腕試しというと、模擬戦ってこと?」
「えー、今からやるのー?」
「こら、マイミ。向こうの方が実力者だぞ」
「依頼内容は夜の護衛も含まれています。日が落ちるからといって気を抜くわけにはいきませんよ」
シュミリーさんがそう言って、挑発的に笑った!
これは、受けてたたねば女が廃る!
「わかりました。模擬戦やりましょう。今から!」
「むう。ウタハが言うなら、しょうがない。夕飯前の運動だ!」
「新緑の刃、よろしくお願いする」
「ええ。こちらこそ、よろしくね」
こうして、私達は一度模擬戦をするため、庭に出た。
先輩も外に出てくれた。
「皆の実力を知っておいた方がいいもの」
だそうだ。
「わかりました。では、精一杯頑張ります!」
「よおし、2人共、やるぞ!」
「ああ。気をつけて挑もう」
私達はやる気十分!
そして、新緑の刃も各々武器を構えた。
シュミリーさんが剣と盾、リーゼルンさんが槍、ライハさんが弓矢だ。
「ライハさんは誰が挑む?」
「じゃあ私、と言いたいところだけど、でも矢を向けられるって、怖くない?」
「まあ剣や槍も怖いけど、たしかにそれらとは別種の怖さがあえうよね」
「では私が引き受けよう。2人共、それぞれ抑えててくれ」
「ありがとう、マトバ。私達も頑張るよ!」
「じゃあ私シュミリーさん相手ねー。槍もリーチ長くて怖いし!」
「オーケーマイミ!」
「どちらも準備はいいわね。それでは模擬戦、スタート!」
先輩がそう言うと、私達は動いた。
「木魔法」
「木魔法」
「木魔法」
でも相手の方がもっと早い!
「まさか、魔法!」
「ぐへー!」
「く!」
私とマイミは、良いのを一発もらってしまった。
けどマトバだけは鞭でしのいで、近づく!
「1人だけ突出していいのか、リーゼルン!」
「ああ!」
ああ、マトバが二人がかりで襲われてる!
「く、はああっ、ウェルカムトゥヘブン!」
でも、マトバは必殺技まで使ってしのいでいる!
「むっ」
そこにライハさんの矢が放たれるけど、マトバは後退しながらなんとかかわした!
そしてそこに、私とマイミが合流する!
「ごめん、マトバ!」
「ちょっと油断した!」
「ではここから油断するな!」
「木魔法」
「木魔法」
「木魔法」
また三人同時に魔法を使ってきた!
「よ!」
「せい!」
「はあ!」
私達はなんとか鞭でしのぐ。そしてこのまま接近だ!
予定通り私はリーゼルンさんを狙う!
「その鞭、凄まじいな」
「これが取り柄ですので!」
私は勢いをそのままに、リーゼルンさんに集中して戦う。
リーゼルンさんの槍は速くて、動きも読みづらいけど、なんとか対応できる!
そして、ここで私が1人倒せばその分有利になるんだから、ここで一気に決める!
「ウェルカムトゥヘブン!」
ビシーンバシーンピシャーン!
「くうう!」
リーゼルンさんは少し攻撃をかすったものの、私の必殺技をしのいでしまった!
「なかなかやる。だが、これならどうだ。木魔法!」
次の瞬間、リーゼルンさんのいる場所にいきなり木が生えた。
そしてリーゼルンさんはその木に押し上げられ、上をとる。
「しまった、上をとられた!」
「パワーランス!」
「きゃー!」
私は頭上からの一撃に対応できず、まともにくらってふきとんだ。
「ぎゃー!」
「うわー!」
マイミとマトバも同じだ。三人そろって立ち上がる。
「マイミ、マトバ、平気?」
「私はオッケー!」
「ウタハはどうだ?」
「私もなんとか平気、まだやれる!」
けれど、必殺技は通用しなかった。これは、ひょっとして、手詰まりでは?
「ふむ。こんなところでいいだろう」
弱気になったところで、シュミリーさんがそう言った。
「互いに実力はわかったと思う。これならやっていけそうだ」
「そうね」
「私も、それでいい」
シュミリーさん、ライハさん、リーゼルンさんがそう言った。
「あれ、てことは、これでオーケー?」
「なんだか不完全燃焼って感じ」
「まあ、こちらも新緑の刃の強さがわかったから、いいが」
「うん。ていうか、明らか私達より強いよね」」
さすがランク5。
「あら、もういいの? でも、おかげで私もあなた達の強さがわかったわ。後は、ひとまず明日まで護衛してもらって、それでちゃんと合格か見ることにする」
「ええ、それでよいです」
「そちらも、よろしく頼む」
リーゼルンさんにそう言われ、近づいてきて、手を伸ばしてきた。
私はすぐに、手を握り返す。
「はい。あ、私達、キャバクランニングエンジェルスです」
「知ってる。その格好は有名だからな」
「あ、はい」
なんか、良い有名のなり方じゃない気がする。
でも、新緑の刃は私達より強いから、頼もしい感じはすごくするな。




