62 アンケート
「すみませーん。お時間よろしいでしょうか?」
「はーい。なんでしょう。あ、ナンパならお断りですよ!」
「違います。これは町内インタビューです。あなたのお仕事について教えてください」
「はい。いいですけど」
「ではまず、あなたの名前のイニシャルを教えてください」
「Uです。あとK!」
「Uさんですね。お仕事はなんですか?」
「キャバ嬢です!」
「なるほど」
「あと、冒険者です!」
「なんと、兼業ですか。では、どちらを主体にしていますか?」
「うーんと。基本冒険者の仕事をしていますが、心はいつでもキャバ嬢です!」
「なるほどお。ではまずは、冒険者としてのお仕事について教えてください」
「はい!」
「まず第一に。冒険者の仕事は楽しいですか?」
「もちろん楽しいですよ。あ、でも、仲間と一緒だからかもしれません」
「なるほど。仲間がいるから楽しめるんですね。そういう関係、とっても良いと思います」
「野宿とかふざけるなって最初は思いましたけど、三人でキャンプっぽいことして、あ、夜中の間も釣りを楽しんだりして、結構楽しい時、いっぱいありました!」
「釣りですか。いいですねえ」
「はい!」
「では次の質問です。冒険者にやりがいを感じてますか?」
「もちろんです。依頼をどんどん達成していって、ランクを1つずつ上げていくのが楽しいんです。特に、ランクが上がるごとに報酬額も上がるのが良いですね!」
「なるほどお。Uさんは今何ランクなんですか?」
「3です」
「3というと。結構強いんじゃないんですか? 確か3ランクからが冒険者の腕の見せ所と聞いたことがあります」
「そうなんですか? よーし。じゃあ頑張らないと!」
「普通の人ならスライムを倒すのもやっとな時もありますからね。Uさん、強いんですね」
「そうでーす。皆と頑張りましたから。修行だってしたことあるんですよ!」
「修行ですか。それはどういった内容で?」
「ひたすら鞭でしばかれました」
「はい?」
「ひたすら鞭でしばかれました」
「そ、それは大変な修行だったんですね」
「そうなんですよ。もう先輩ったら容赦なくて」
「あはは」
「でも、先輩の助けがあったからこそ、私達は一皮むけたので。その点だけは、とっても感謝しています!」
「そうなんですね」
「はい。もう二度と先輩に修行つけてとは言いませんけど!」
「私もそれが良いと思います」
「でも先輩の鞭技は凄いですよ。あと、実力も。それにこの前、別の先輩の力を借りて裏ボスを倒したりもしましたし」
「裏ボス?」
「ええと、ウラムカムカデだったかな」
「すごく強いモンスターじゃないですか。ランク3の難易度どころじゃないですよ絶対!」
「私もあのときは焦りましたー。でも、普段は良いところ見せない先輩がさっそうと前に出て、キラー、ヒラヒラ~で一発でしたよ。さすが先輩。私も早く先輩ほどの実力みにつけたいです」
「へえー。先輩凄いんですねえー」
「そうなんですよ。キャバクランニングの誇りです!」
「え?」
「はい?」
「そのウラムカムカデを倒した先輩は、冒険者なんですよね?」
「いいえ。キャバ嬢の先輩ですよ?」
「どうしてそうなったんですか」
「私にはわかりません。気がついたらそうなっていたとしか」
「キングなクリムゾンでも使えるんですか?」
「激ヤバボス級能力なんて使えるわけないじゃないですかー。漫画の読みすぎですよー」
「凄いですね、キャバ嬢」
「はい、凄いです。修行にモンスター討伐に、なんでもござれです。討ち入りもしますよ」
「修行をつけたのもキャバ嬢だったと。って、討ち入り?」
「この前キャバクランニングのキャバ嬢皆で暴力団1つ潰したんですよ。知りません?」
「ああ、そういえば。あれキャバ嬢がやったんですねえ」
「あの時の私達はまだ大したこともできなくて。でも討ち入り後に臨時収入をもらった時、なんかやり遂げた感ありました」
「って、そんなまさか。信じられるわけありませんよ!」
「あれ?」
「Uさん。あなたの話は盛りすぎです。修行。裏ボス討伐。暴力団に討ち入り。まるで現実的じゃない」
「それはうすうす私も感づいてます」
「Uさん、私をからかって楽しんでますね?」
「そんなわけないですよ。私は真摯にあなたに向き合ってます!」
「皆最初はそう言うんですよ」
「えー。じゃあ何なら信じるかなあ。あ、そういえば冒険者のお仕事がきっかけで、キャロキャロジュースが飲めるようになったんですよ。その話ならどうです?」
「キャロキャロジュース? キャロキャロットのジュースですか?」
「はい。美味しいですよー!」
「たしかに冒険者なら、そういうものも手に入れられるかもしれませんが、それが冒険者の役得なんですか?」
「いいえ、そこらの冒険者は手に入ってないと思いますよ。私達キャバ嬢だけの役得です!」
「そ、そうですか」
「あ、信じてませんねー?」
「いえ、信じてますよー?」
「笑顔が硬い。そんなあなたにほら証明。ちゃんちゃかちゃーん! キャーローキャーロージュースー!」
「わあ、手からジュースが出てきた!」
「はい、どうぞ!」
「くれるんですか。ありがとうございます。ごく、ごく、ごく。む、これは、美味しい!」
「どうですか。キャバ嬢はこの美味しいキャロキャロジュースをいつでも飲めるんですよ!」
「それは凄い!」
「頑張りました!」
「一体どのように頑張ったので、あ、いいえ。今はお仕事についてお聞きしますね」
「はい」
「では、次に。Uさんはお仕事で困ったこと、改善してほしいことはありますか?」
「あー、どっちも今は自由に休めるっていうのは良いんですけどー。正直、キャバクラッシュの店内勤務に戻りたいです」
「私もキャバ嬢は普通店内勤務だと思います」
「先輩には逆らえないけどー、チャンスくらい欲しいー!」
「そうですねえ。つまりUさんは、元はキャバ嬢なんですね?」
「そうです。ていうか今も現役キャバ嬢ですよ。あ、お兄さん。おねがーい。今晩キャバクランニングに行って、私が店内にいたら良いなーって触れ回ってくれませーん?」
「え、いやあ、それは、どうだろう」
「ね、ここは一つお願いしますよお。さっきキャロキャロジュースも飲んだじゃありませんかー」
「う、たしかに飲んだけど、そんな話聞いてない!」
「ね、お願い。今ならアオアジュースもつけるからあ!」
「し、仕方ないなあ。今晩、一回だけですよ?」
「やったあ! ありがとう、大好き!」
「おうふっ、独り身に大ダメージなフレーズ!」
「それじゃあお兄さんのおかげで店内勤務に戻れたらあ、仲間と一緒にうんとサービスしてあげるね?」
「あはは、でも俺は、大したことはできないから。それで、これが最後の質問ですが、今の仕事に対して何か一言ありますか?」
「はい! 先輩たち、そして受付嬢のアーミット。いつも私達をサポートしてくれてありがとうございます。未だ未熟な身ではありますが、これからも鋭意精進したいと思います!」
「すばらしい一言です。インタビューありがとうございました。これ、インタビューに答えてくれた方にあげる用のポケットティッシュでーす。お受け取りくださーい」
「ありがとうございまーす!」
「ポケットに入れたまま洗濯しないでくださいねー!」
「はーい!」
翌日。
「やっちまった」
私はポケットティッシュと一緒に洗濯して無惨な姿になったマイ装備を見下ろした。
「これ、きれいにするのにかなり時間かかるぞ。マイミとマトバ、手伝ってくれるかな?」
まる。




