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61 ちしきの妖精

 今日も今日とてアンミ先輩に定時連絡する。

「というわけで、こちらは変わらず冒険者稼業が順調です!」

「最近ではキャバ嬢としての自信より冒険者としての自信が上回ってきている感じです!」

「そう、それは良かった。この調子で励んでね」

「はい!」

 それじゃあ私達はそろそろお暇しよう。そう思った時、アンミ先輩にいつもと違う言葉を投げかけられた。

「ああ、それと。実は今夜、あなた達に頼みたい仕事があるの」

「はい、なんでしょう?」

「外でですか?」

「いいえ、今回は店内勤務よ。最近新しい客がキャバクランニングにやってくるようになったんだけど、そのお客がなにやら珍妙で。皆爆笑したり、戸惑ったりしているから、ベテラン達の間でも扱いに困っているのよ」

「それは珍しいですね」

「爆笑って、相手はお笑い芸人ですか?」

「それかもしくは話し上手?」

 マトバ、私、マイミが言う。けれど、アンミ先輩は首を横に振った。

「いいえ、そういうわけではないのだけど。私の語彙力では、あれを正確に表現しづらいわ。とにかく、一度会ってみて。そしてできれば昇天させてちょうだい。きっと、やつは今夜も現れるはずよ」

「はい!」

「上手く接客できたら、おこづかい出すからね」

「がんばります!」

 というわけで、今夜は謎の客を相手することになった。


「くわっしー!」

 そしてキャバクラッシュで出会ったのは、明らかに人外な客だった。

「くわっしー、くわっしー! キャハハハハハハ!」

 つうか、むかつく程にハイテンションだった。

「なに、こいつ」

「なんというか、バグ?」

「ふたりとも、お客様に失礼だぞ」

「いやでも、そもそもお話、できるかなあ?」

「絵が上手くない子供の落書きから生まれた感あるよね」

「まあ、否定できないが」

「こんばんは、美しきお嬢様方。くわっしーはくわっしーだわっしー!」

 どうやらこの謎の物体Xがアンミ先輩が言っていたお客様らしい。

「わし汁ぶっしゃー!」

 あかんわ。なんかこれ、ちゃんと話が通じるか、確証を得られない。

「ふむ。くわっしーはモンスターなのか?」

 あ、マトバが普通に話をしようとしている!

「お嬢さん、それはくわっしーに失礼わっしー! くわっしーは見ての通り聖なる妖精わっしー!」

「嘘くさ」

「マイミ、声は小さいけど私には聞こえてるよ」

「そうでしたか。では、なんの妖精なんです?」

 マトバ、まだ平常心を保ってる。凄い。

「ちしき」

「かけらも知性を感じねえ」

「お前失礼わっしー! キャハハハ、キャハハハ!」

 この客が正気を保っているかはわからないが、少なくともあらゆる知識をバカにしていることだけはわかる。

「なんか、関わりたくない」

「私もー」

「こら、ウタハ、マイミ。私一人じゃ辛い。加勢してくれ」

「さあさあそれより、お嬢様方、今夜もくわっしーを接客しろわっしー! こう、むぎゅーっと。もみゅもみゅーっと!」

 くわっしーが偉そうかつうざったくそう言ってくる。

 でも、これに接客するの? 私達が?

 なんか、スライムの時より難易度が高い気がする。仕事初日が懐かしいなあ。

「あ、ウタハが遠くを見ている顔をしている!」

「正気に戻れ、ウタハ!」

「はっ!」

 二人のおかげで我に返る。

「ありがとう、ふたりとも。それじゃあ、仕方ない。世のため人のためおこづかいのため、今日も接客バトルしようか、皆で!」

「うん!」

「ああ!」

 一人では心砕けそうだけど、三人でならなんとか戦えそうな気がする!

「言っておくけど、くわっしーはとっても強いわしよ。簡単にやられないでほしいくわー!」

「ええい、語尾を固定しろー!」

「いくぞ!」

「うん!」

 マイミ、マトバ、私が身構え、接客バトルスタートだ!

「まずは誘惑攻撃!」

「おしゃべり攻撃!」

「ドリンク攻撃!」

「くうう、なかなかやるわっしー!」

 くわっしーには効いているようだが、まだ元気だ。ムカつく。

「でもこっちはまだまだ元気百倍! このまま元気に反撃っくわー!」

 そう言うとくわっしーは片手を向けてきた。

「わし汁ブシャー!」

 そしてなんかわけのわからない液体をぶっかけてきた。

「いやー!」

「ぎゃー!」

「きゃー!」

 汁まみれになる私達。テンションがだだ下がる。

「キャハハハハ、わし汁まみれっしなー!」

 むかっ。

 仕事とはいえ、こいつ本当にはらたつ!

「誘惑攻撃!」

「おしゃべり攻撃!」

「ドリンク攻撃!」

「くわっしー! ますます燃えてくるっくー!」

 私達は怒る思いのままに接客を続ける。くわっしーとの戦いは、悪いことに長く続いた。

 ハイレベルな応酬を繰り返す私達。でもここにきて、私達の気合いがたまった!

「ふっふっふー。まあだまだくわっしーは倒れないわっしー! 余裕余裕ー!」

「その余裕、ぶっ壊す!」

「キャバ嬢なめんなー!」

「二度と立ち上がれぬように打ちのめす!」

 私達は思いのままに、とっておきを放つ!

「ニューチャームスマイル!」

「ファインフォルテッシモ!」

「清楚トレビアンヌ!」

 どーん、どうだ!

 しーん。

 あ、あれ?

 なんだか、相手が全く動かないような?

「なにそれ?」

 えっ。

「ひょっとして、それが奥の手わっしー? そんなの全然効かないわっしー! これっぽっちも魅力を感じないっくー!」

 ぶちっ。

 あ。今なんかためらう心が無くなった。

 私達はおもむろに、鞭を手にし始める。まるで示し合わせたかのように、同時にだ。

「あれ、皆さん、おてもとのそれは?」

「魅力が無いって」

「キャバ嬢に言ったな」

「キャバ嬢をなめるなー!」

 私達は心が求めるまま鞭を振った。

 というか、これでもこちとらこの顔ととっておきで修羅場をくぐってきた歴戦の強者じゃー!

「え、ちょ、まって、こわい」

 ビシーンバシーンピシャーン!

「ぎゃー!」

 私達は気の済むまで鞭で妖精をしばいた。

 その後に残ったのは、無惨に倒れ伏した謎の生き物と、私達三人のスッキリした晴れやかな心&表情だった。

 自然と手で額の汗をぬぐう。

「ああ、なんか良い仕事した!」

「そうね!」

「仕事内容はあまり憶えていないがな!」

「あははは!」

「うふふふふ!」

「ははははは!」

 満面の笑みで笑い合う私達。

 やはり、どこか疲れているのかもしれない。家に帰ったらぐっすり寝よう。

 とにかく、これで本日の業務は終了とする。

 めでたくおこづかいをもらい、私達は使命を果たしたのだった。

 ただ、もうあの妖精の顔は見たくない。忘れよう。きっと時間が全ての記憶をさらってくれるはずだ。


今回の敵はとっておきが効かないという強敵設定でした。

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