60 一対一でのお見合い
朝。カーテンからこぼれる日差しが私を目覚めさせる。
「ううーん、朝かあー。ふわわあ、今日は、皆とお仕事かな」
顔を洗って、着替えて、髪を整えて。それから朝ごはん!
「皆おはよー!」
「おはよう」
「おはよう」
「わーい、今日のご飯はお母さんのバラジャムトーストだー。私これ大好きー!」
「なあ、ウタハ。話がある。食べながらでいい、聞きなさい」
「? はい、お父さん」
もぐもぐ。なんだろう。
「ああ、まず。まずだなあ。ウタハ。そもそもお父さんは、キャバ嬢という仕事に反対だった」
「何言ってるの。最終的に賛成してくれたじゃん」
「やっぱり反対になったんだ。キャバ嬢の仕事は、危ないだろう。それに、冒険者の仕事までやってるそうじゃないか。つまり、更に危ない。そんなことお父さんは認められない」
「そう言われても、私はちゃんとやってるよ。心配しなくても大丈夫。仲間も頼もしいし」
「ああ、それはそうなんだろう。でも、お父さんはこう思っている。ウタハは、そろそろ身を固めたらどうかと」
「?」
「というわけで、お父さん。ウタハのお見合い相手を探しておいた」
「へ?」
「今日、彼に会ってくれ。若い二人で話し合って意気投合してくれ」
「へえええー!」
「ということで、ちょっと今日はお仕事お休みになった!」
マイミとマトバにまるまる説明すると、二人は言った。
「それはいいけど、ウタハ。この際だから結婚しちゃえば?」
「私達は喜んでウタハの結婚を祝福するぞ」
「ちょっと待って、なんでそうなるの。私はそんなこと望んでない!」
「でもさあ。結婚だって幸せの一つじゃん」
「それをわざわざ棒に振るのも、もったいなくはないか?」
「じゃあ二人だったらお見合いに乗り気になるの?」
「いやー、私はまだ自分に自信あるから、キャバ嬢路線かなー」
「右に同じだ」
「二人だってそうじゃん!」
「でもでも、結婚だって悪いことじゃないじゃん」
「そうだ。折角の機会なんだ。ウタハ、いっぱい悩んで決めろ」
「私それほど結婚に執着してないけど」
「とにかく、がんば!」
「骨の髄まで品定めしてこい」
「ううー。うん。まあ、結局お見合いするはするんだけどさあー」
という感じでふたりに説明してから、私はお見合いの場へ向かった。
お見合いということもありおしゃれして、ちょい高級料理店の個室でお相手と会う。
目の前に現れたのは、思わず息を呑むくらいのイケメンだった。
「初めまして。俺は、オアシスといいます」
「初めまして。私は、ウタハといいます」
「まずはお茶を楽しみましょう」
「ええ、そうですね」
お茶を飲んで、一息つけ、ない。
どうしよう。予想以上にイケメンだ。彼との縁談を蹴る? ありえない。
でも、それでも縁談なんて気乗りしないわけで。
どうする、私。
「あの、オアシスさんのお職業は?」
「服職人です。主にドレスを仕立てています」
「まあステキ」
「といっても、まだまだ一人前には程遠く。今も鋭意精進中というわけです。ああ、それでも、少しは貯金もありますので、生活はまあまあウタハさんを支えられます」
「あらまあ、ありがとうございます」
「あ、いえ。今のはちょっと先走りすぎましたかね?」
「そんなことないです。私も安心できました」
ますます断りづれー。
「ウタハさんは、キャバ嬢のお仕事と、冒険者をやられているとききましたけど」
「あ、はい。どちらもやっております。ですが、冒険者のお仕事の方が多いでしょうか?」
不本意ながら。
「それは心配だ」
「え?」
「ウタハさんのような可憐な乙女が恐ろしいモンスターに立ち向かうなんて考えられない。俺は、ウタハさんにそんな危険な真似をしてほしくありません!」
「は、はあ」
「あなたのことは俺が支えます。ですから、ウタハさんはぜひ俺を頼ってください!」
「あ、ありがとうございます」
なんか相手はずっと好青年だ。どうやって断ろう?
「ご趣味は?」
「花を愛でることです」
これは引いていいのか悪いのかわからん。
「ステキですね。今の季節ですと、どんな花が良いでしょうか?」
「ゲスティアですね。今の季節はゲスティアが一番好きです。ですが、クナーレとイテアも好きです。特にクナーレは香りが好きです」
「まあ、そうなのですか。私も興味あります」
「本当ですか。では次回は花めぐりをいたしましょう。ステキな場所を知っています!」
「え、ええ。ありがとうございます」
「ウタハさんのご趣味は?」
「私は、仲間達と一緒にいることでしょうか?」
前は他に、服とかケーキとか、ラブロマンスとか好きだったけど、今は断然マイミとマトバ達だ。
「仲間と一緒にいると、楽しいんです。どんなに大変で、つらい目にあっても、仲間と一緒だから頑張れる。そして無事やりとげて、帰り際に笑顔で別れて家で眠るのが気持ち良いんです。そして、次の朝も仲間が元気に待っている。この毎日が、今の私の宝物です」
「そうですか。ウタハさんは仲間思いのステキな人なんですね」
「ありがとうございます」
「でも、嫉妬してしまう。ウタハさん。俺は、あなたに俺を見てそう思ってほしい」
そこでオアシスさんはキリッとして言った。
「ウタハさん。俺を愛してください」
「嫌です」
あっ。
オアシスさんがあまりにもさらりと決めゼリフ吐いたから、思わず本音が漏れた!
思わず数秒固まる私。
「あ、あの、オアシスさん、すみませ」
「どうやら俺の魅力が、まだ足りないようだ」
オアシスさんはそこで、スクッと立った。
そして、ガバっと上着を脱いだ!
「ならばここは、俺の肉体美をもってウタハさんをメロメロにするしかない!」
うわーっ、変態だー!
あれよあれよと言う間に、オアシスさんは上半身裸になった。
「きゃー!」
「ウタハさん。もっと俺を見て、熱くなって! 俺の肉体は、ウタハさんを見てビクンビクンしていますよ!」
「きゃー、ちょっと、何、あなた、やめてー!」
「やめない、止まらない、おさえない。俺は、今、全力で、ウタハさんに求愛行動をしている!」
なんて変態だー!
「こ、こうなったら仕方ない。接客バトルでこの場を収集するしかない!」
「お、ウタハさん。あなたも立ち上がって、やる気になりましたね!」
「ええ、誘惑攻撃!」
「ぐあ!」
「おしゃべり攻撃!」
「どあ!」
「ドリンク攻撃!」
「ふはあ!」
「とっておき、ニューチャームスマイル!」
「あいいいー!」
どさっ。オアシスさんは倒れた。
「はあ。はあ。帰ります!」
私は即座にお店を出て、家に帰った。
その翌日。
「おーウタハおはよう。昨日はどうだった?」
「良い男だったか?」
「ありえなかった!」
まる。




