53 死霊騎士
「ありがとう、ウタハ、マイミ、マトバ。あなた達のおかげで、ボイスはドMに目覚めたわ。今後はキャバ嬢を必要以上にメロメロにせず、ひたすらむち打ちを楽しみにし続けることでしょう」
「はい、頑張りました!」
「強敵でしたが、なんとかなりました!」
「正直もう、二度と戦いたくありませんが」
「これでこの町のキャバクランニングは救われた。この分なら、もう一個の悩み事も解決してもらえそうね」
「え?」
「ん?」
「はい?」
「あの、カンミさん。今なんと?」
「実は、もう一つ悩みがあるのよ。それも解決、頼めるかしら?」
「あ、はい」
「や、やりまーす」
「で、どのような悩みなんでしょうか?」
「ええ。月に一度、この店に死霊騎士が現れるのよ」
「それは私達の専門外では?」
「お祓いとかした方がいいですよ。きっと」
「神官呼んで浄化魔法かけた方が早く解決できると思います」
「それが難しいのよ。死霊と言っても、昔この町をモンスターから守った守護者の霊らしくてね。でもモンスター化してるから死霊騎士なんだけど、とにかく害がなく、むしろ町を守ってくれる存在だから誰も滅さないのよ」
「はあ」
「でも死霊騎士さん、いつも同じ話を夜明け前まで話し続けてね。もううちのキャバ嬢達は皆接客ギブアップしてるのよ。それで、あなた達になんとかしてほしい。ってわけ」
「それは難しそうですね。ただ接客するんじゃなくて、解決方法を探るんですよね?」
「そうなるわね。できるなら、昇天させたり鞭打ちでドMに目覚めさせるのが望ましいわ」
「ボイスの時のようにいけばいいんですけど、でもそれってみなさんもう試されてますよね?」
「そうね。でも希望が残っているとしたらあなた達なのよ」
「そう言われたらやってみるしかありませんが」
「お願いね。それじゃあ、あなた達に未来を託すわ」
「はい!」
こうして私達は、死霊騎士ともバトルすることになった。
翌日。出番を待っているととうとう死霊騎士が現れた。
「今夜のキャバ嬢は、見ない顔ぶれだな」
「はーい、私ウタハでーす!」
「私はマイミ!」
「私はマトバだ」
「死霊騎士さん、よろしくお願いしまーす!」
「うむ。よろしく頼む」
「では早速、接客バトルスタート。えい、誘惑攻撃!」
「おしゃべり攻撃!」
「ドリンク攻撃!」
私達は速攻で攻め立てた!
でも死霊騎士は、顔色一つ変えない!
「ふむ。まあまあの攻撃力だ。それに気合いもこもっている。三人とも一人前になったばかり、という感じだな」
「まだまだいきますよ!」
「私達は、ここからなんですから!」
「私達の魅力にまいってください」
「簡単にはやらせない。では私も特技を披露するとしよう。ルネッサーンス」
そう言って死霊騎士が、ワイングラスを持って持ち上げた!
「きゃあ!」
「いやーん!」
「くう!」
私達に、大ダメージ!
「そんな、ただの一発ギャグでここまでダメージを負うなんて!」
「この死霊騎士さん、強すぎる!」
「さすが、ここのキャバ嬢達を皆まいらせただけのことはある!」
「でも、私達は負けない!」
「だって、主人公だから!」
「ここで負けるわけには、いかない!」
「それ、誘惑攻撃!」
「とりゃ、おしゃべり攻撃!」
「はあっ、ドリンク攻撃!」
「ルネッサーンス!」
「きゃあー!」
「あひーん!」
「うわー!」
私達は、苦しい戦いを強いられた。
そして。
「これが最後の攻撃、とっておき、ニューチャームスマイル!」
「とっておき、ファインフォルテッシモ!」
「とっておき、清楚トレビアンヌ!」
「ほう、なかなかやる。だが、これで終わりだ。ルネッサーンス」
「ひゃああーん!」
「どひぇー!」
「くうーあー!」
私達は死霊騎士にとどめを刺され、やられた。
「こんな、勝てないいー」
「無理ゲー」
「力、及ばずか」
「ふ、なかなか楽しめたぞ、キャバ嬢達よ」
「い、いや、まだだ!」
「接客バトルが駄目でも!」
「私達には、普通のバトルが残されている!」
ここで私達は、鞭を手に取った!
「死霊騎士さん。あなたに恨みはないが、覚悟してください!」
「押しても駄目なら引いてみろ。今度は鞭で昇天させてあげる!」
「もう一度、まいる!」
「ほう。普通のバトルもする気か。よかろう。相手してやろう。稽古をつけてやる」
「はあ!」
「てやあ!」
「それ!」
こうして私達は、お客様である死霊騎士を遠慮なく鞭で叩き始めた。
そして速攻で負けた。
「か、勝てないー」
「レベルが違いすぎる」
「必殺技も通用しなかった」
私達は二度も力尽き、もはや燃え尽き症候群になっている。
「ふっふっふ。久しぶりに楽しめたぞ、キャバ嬢達よ。なかなか愉快だった」
「そ、それはどうもー。ありがとうございますー」
「では、そろそろ静かに相手をしてくれ。そうだな。私の話でもしよう」
「あ、はい」
それから私達は、死霊騎士の身の上話をじっと聞いた。
死霊騎士の話は長かったけど、要するに生前町を守り抜いて、死んだ後である今も町を守り続けているということらしい。
「ということなのだ」
「そうだったんですねー」
私としては、そう言うしかない。
「ねえ、死霊騎士さんは、寂しくないの?」
ここでマイミがそう言った。
「寂しいも何も、我は死霊騎士だ。この町を守り続けるのが使命である」
「でも、死霊騎士さんが生きてた頃守っていた人や家族は、もういないよ。なのに死霊騎士さんだけここに残ってるなんて、辛くないの?」
「うむ。たしかに。だがそれは仕方のないことだ。それに、我はまだ町を守るという信念を貫きたいと思っている」
「でも、たぶんさ。この町はもう変わってるよ。それに、この町はもう死霊騎士さんが守らなくても良いと思う」
「ふうむ」
「あいや、死霊騎士さんがもう必要じゃないってわけじゃなくて。もう一回、守るべき町を見回してみたら、もう、死霊騎士さんが町を守らなくても良さそうだって、思えるんじゃないかなって。死霊騎士さんは、もう町を守るために、自分をこの場所に縛り付ける必要はないと思う、んです」
「なるほど」
死霊騎士さんはうなずいた。
「たしかに、我は守るばかりで、守るべき町を見ることをしなかったかもしれない。我はただの妄執と成り果てていたか。ありがとう、キャバ嬢。礼を言う」
「いいえ。ただ、死霊騎士さんが何か他にやりがいを見つけたら、それをやるのが良いと思います」
お、もしかしてマイミ、遠回しにキャバクラッシュから死霊騎士を引き離そうとしている?
もしそれができたら、大活躍だぞ。
「そうだな。それも、良いかもしれない。重ねて礼を言う。ではそうだな。キャバ嬢達、よければ我からの加護を受け取ってほしい。承諾してくれるか?」
「はい、くれるものはなんでももらっておきます!」
「ありがとうございます!」
「ご厚意に感謝します」
「それ、受け取るが良い。死霊騎士の加護だ。戦闘ダメージを一定の確率で0にすることができる。さて、それではきりのいいところで帰るとしよう。これから今の街の様子を見ていきたい。そして、我の信念に区切りをつけるべきだと思えたら、そうだな。久しぶりに妻と子の顔でも見に行こう」
こうして、死霊騎士はお帰りになられ、その後二度とキャバクラッシュに来ることはなかった。
そして、何時の日か死霊騎士が町に現れることはなくなり、かわりに、町を愛する戦士達が唐突に死霊騎士の加護を受けるようになったらしい。
やがて町を守る死霊騎士の話は、唄になった。明るい旋律にのって、死霊騎士の武勇伝が語られ、この町を更に明るくしたという。




