５２ ボイス
隣町のキャバクランニングに来ました。
「あなた達、キャバクランニングはまだ開店前よ。なんの用かしら？」
「初めまして。隣町からやって来た、キャバ嬢のウタハです！」
「私はマイミ！」
「私はマトバです」
「シェイドさんから頼まれて、隣町のキャバクランニングの応援に来ました。何か困っているということですが」
「あら、そうなの。うーん、困ってることねえ。あ、もしかしたらあれのことかしら？」
「どういった悩みなんですか？」
「実はうちの常連に、声優のボイスっていう人がいるんだけど。皆ったら彼の魅力にメロメロでね。お金をしぼりとるどころか、逆にいいようにされてるのよ」
「それはいけない！」
「キャバ嬢としていただけませんね！」
「では、私達がそのお客様問題、解決いたしましょう」
「助かるわ。でも、相手は異性を誘惑するプロ。真っ向から挑んでは駄目よ。おしゃべりしようとしても駄目。誘惑される前に、鞭でビシバシやっちゃって」
「え、いいんですか。そんなモンスターみたいな扱いして」
「いいのいいの。ボイスには新しい世界に目覚めてもらうくらいで丁度いいわ。そしたら店の空気も落ち着くし」
「よっしゃー、わっかりました。やってやりますよー！」
「それで、ボイスの次の来店日はわかっていますか？」
「ええ。今夜彼は必ずここにやってくるわ。そこを狙ってちょうだい」
「はい！」
こうして、私達は今夜ボイスを夜襲することになった。
「あ、ちなみにあなたのお名前はなんですか？」
「私はカンミよ」
「アンミ先輩と名前似てますね」
「アンミはいとこよ」
夜なう。
「こんばんは。今日も愛しのレディー達に会いに来たよ」
「きゃーっ、ボイス様ようこそー！」
「いらっしゃーい、来てくれてありがとー、うれしー！」
「ボクも夜に舞う天使達に会えてうれしいよ。いや、天使以上の、女神かな？」
「あっはーん、ボイス様、もっと言ってー！」
「ボイス様今日も素敵ー！」
「よし、来たわね。ウタハ、マイミ、マトバ。ようやくお目当ての獲物が来たわよ」
「はい、わかりました！」
「こっちはもうスタンバイオッケーです！」
「いつでもいけます」
「じゃあボイスを奥の席に案内する。後は、任せたわ」
「はい！」
カンミ先輩にうなずいて、三人で鞭を構える。
店内でムチ戦闘なんて初めてだけど、成功してみせる！
「さあて、今日の女神は誰かな？」
よし、来た！
「ふたりとも、ゴー！」
「ラジャー！」
「オフコース」
私達は速歩きでボイスの前まで言って、鞭をふりかぶった。
「な、何かな。君たち。その刺激的な武器は。危ないよ。それを振ったら」
「大丈夫です。これを振るのが私達の仕事ですから！」
「今日はこういう激しいサービスの日となっております！」
「あなたに恨みはないが、ぜひ目覚めてくれ！」
ビシーンバシーン！
私達は、容赦なく鞭を振った。
「あひーっ、ひえーっ、うわー！」
ボイスはされるがままに鞭打たれる。どうやら戦闘力はからきしらしい。
「早くむち打ちに、目覚めてください！」
「うつべし、うつべし！」
「合意の上でやらないのは好きではない。なので早く合意してくれ！」
ビシーンバシーン！
「ぐうっ、ううっ。なんて刺激的な女神達だ。でも、これくらいの試練、乗り越えて早く甘い時間を紡ぎたい。ボクは負けない、愛ある限り！」
次の瞬間ボイスはカッと目を見開いて、素晴らしい美声を出した。
「美しいお嬢さん達。そんな武器なんて捨てて、ボクと楽園のごとき一時を楽しもう！」
「うっ、こ、これは！」
「凄い、美声！」
「心が、ぴょんぴょんする！」
ここで私達の手が、止まってしまった！
「さあ、そのままボクに心を開いて。四人で愛をささやこう！」
「うう！」
「あう！」
「くう！」
「このままじゃ、イケメンボイスにやられちゃう！」
「駄目だ、このままじゃ、なんとかしなくちゃ！」
「のまれたらそこでおしまいだ。もう一度心を、鬼にする！」
「皆、必殺技だよ！」
「そうね。ここで決めるしかない！」
「迷っている暇はないな、いくぞ！」
「必殺、ウェルカムトゥヘブン！」
「うわあー！」
ボイスはズタボロになった！
「く、やってくれるね。でも、ボクは負けない。女の子に負けるわけにはいかないんだ。ボクは、永遠に女の子を愛し続ける！」
けれど、まだやる気みたいだ！
「まずい、まだ立てるだなんて！」
「そんな、も、もう一度！」
「いや、相手の方がわずかに早い。皆、耐えろ！」
「必殺、口説きショータイム！」
うわあっ、ボイスが必殺技を放った！
「くううっ、きゃー！」
「あひーん、やあー！」
「な、はあーん！」
私達は大ダメージを受けた！
「どうだ、女神達。ボクの魅力に、しびれてくれたかい？」
「だ、だめええ。このままじゃ、ボイス様にメロメロになっちゃうう」
「私も、もう理性もたないかもおお」
「ううう。心が揺れるうう」
私達はもう、くじけかけていた。
その時。
「諦めたらそこで、キャバ嬢終了だよ」
私達の前に、シェイドさんが現れた。
「し、シェイドさん」
「シェイドさん、なんで」
「シェイドさん、ここは危ない。あなただけでも、逃げてくれ」
「三人とも。今までの仕事ぶりを思い出して。皆、この短い期間で成長したはず。それをここで、見せびらかすんだ」
「見せ、びらかす？」
「そう、だ。私達の力はまだ、こんなもんじゃない！」
「何よりキャバ嬢は、簡単にやられていいわけがない！」
そうだ。ここで諦めちゃ駄目だ。駄目なんだ、私達！
「ありがとう、シェイドさん。おかげでまだ、戦える！」
「よし、その意気だ。それじゃあ、頼んだよ。キャバ嬢達の未来を、君たちに託す」
シェイドさんはそう言うと、いつものように消えてしまった。
けれど私達の心には、もう真っ赤な闘志が燃え上がっている！
「マイミ、マトバ、いくよ！」
「おうともよ！ こうなったらマイ必殺技を見せてやる！」
「私もだ。いくぞ！」
「えい、ウェルカムトゥヘブン、イチコロの型！」
「ウェルカムトゥヘブン、骨抜きの型！」
「ウェルカムトゥヘブン、胸キュンの型！」
ビシーンバシーンピシャーン！
ガチムチリスに使って以来のオリジナル必殺技を、ここで見せびらかす！
「うわー！」
すると、ボイスは倒れた。
「はあ、はあ、よし、勝った！」
「逆転勝利！」
「では、勝利宣言をしておこう！」
「キャバクラッシュで、いっぱいお金を落としてね！」
ここはキャバクラッシュだから、特別台詞だ！
