51 看板娘
「ねえねえ、そこのお兄さん」
「え、俺?」
「そうそう。私達、この町来るの初めてなんだけど、ちょっと聞いてもいーい?」
「い、いいよ。なんでも聞いて」
「では、この町の宿の場所を教えてほしい。宿泊料は安くなくていいから、きれいで安全でご飯が美味しいところが良い」
「宿かあ。あ、そこの宿兼レストランの、フレッシュエアなら、値段も手頃で美味しいご飯が食べれるよ」
「そうなんですか、じゃあ、そこに行ってみます!」
「お兄さん、教えてくれてありがと!」
「では、私達はこれで」
「あ、あの、もうちょっと俺とお話しない?」
「いえ。お兄さんのお時間をこれ以上奪っても心苦しいだけなので」
「お兄さん、まったねー!」
「あと、それから」
「キャバクランニングに遊びに来てね!」
情報収集を終えた私達は、噂の宿、フレッシュエアにやって来た。
「ここが、フレッシュエア」
「なんか宿っていうより、レストランみたいな雰囲気だね」
「よし、早速入ろう」
カランコローン。
「いらっしゃいませ、勝負だ!」
入るなり、宿の看板娘っぽい子にそう言われた。
「おうよ、望む所。どこからでもかかってこい!」
「マイミ、あなたも落ち着いて」
「あの、私達は客なのだが。あなたと争う気はない」
「私はとっくに戦闘モードよ! いきなり現れたと思ったら、とびっきりの美少女が三人。これはもう、私の看板娘としての座を奪いに来たチャレンジャーとしか思えない!」
マトバの説得は、看板娘さんにはまるっきり効果が無かった。
「あの、私達それ以外の可能性です。普通の客です」
「そう言って、他のお客様の心を総取りする気でしょう!」
「それは自然の摂理だ。私達は悪くない!」
「だからマイミ、落ち着いて」
「ほら、やっぱり! 私の勘は正しかった! だから今から勝負よ。私が勝ったら、あなた達は花は花でも、隅に咲く日影の花なんだから。この店でのプリンセスは私。それをこころえてね!」
「なんだろう。ヨッパ以来の話を聞かない人な気がする」
「ふむ。ウタハ、マイミ。どうやら戦うしかないようだ。準備はいいか?」
「仕方ない!」
「受けてたってやるわー!」
「それじゃあいくわ、魅力勝負!」
「ところで、あなたの名前はなんですか」
「マリナよ!」
「マリナ、私はウタハ!」
「私はマイミ!」
「私はマトバだ」
「ええ、よろしく!」
「それじゃあいくよ。えい、誘惑攻撃!」
「それ、誘惑攻撃!」
「たあ、誘惑攻撃!」
「うう、きゃあ! く、やるわね。どうやらあなた達の魅力も、切れたナイフくらいあるわ」
「そりゃあだって、私達キャバ嬢だもん!」
「魅力があって成り立つ商売よ!」
「別に勝負の行方はどうだっていいが、やるからには全力で相手だ」
「くそう。でも、私だって。とりゃあ、看板娘スマイル!」
「ぐう、なんて眩しい笑顔!」
「この子、強敵かも!」
「私達に挑んでくることはあるな」
「ふ、まだまだよ。私の魅力はこんなもんじゃないんだから!」
「こっちだって。誘惑攻撃!」
「誘惑攻撃!」
「誘惑攻撃!」
「看板娘サービス!」
私達とマリナは、ほぼ互角の勝負を繰り広げた。
その五分後。
「く、やるわねお客さん。でも、あなた達の攻撃は見切ったわ。私はあなた達の攻撃を受け続けて、満足してきた。もうこれ以上あなた達の攻撃を受けてもへっちゃらだわ。だから、負けない。勝つのは私!」
「たしかに私達は誘惑攻撃を繰り返してきた」
「鋭い攻撃だって繰り返せば飽きが来る。でも私達には、他にも攻撃技がある!」
「今まで何人もの相手を昇天させてきたとっておき、受けるがいい!」
「ニューチャームスマイル!」
「ファインフォルテッシモ!」
「清楚トレビアンヌ!」
「きゃあー!」
マリナはふきとび、倒れた。
「く。見事だわ。がく」
「やった、勝利!」
「ざっとこんなもんよ!」
「それでは、いつものあれをやろう!」
「皆、キャバクランニングに遊びに来てね!」
そこで、この店のオーナーっぽいおじさんが現れた。
「お前たち、ここで何をやってたんだ」
「あ、お父さん」
「私達、泊まりに来ました!」
「ここに止まらせていただけませんか?」
「宿泊日数は未定です」
「ああ、客か。本当か? マリナと何か遊んでたようだが」
「本当です!」
「あれはやむなくだったんです!」
「もう一度言います。ここに泊めてください!」
「ふむ。マリナ。いいのか?」
「ええ、問題ないわ。私は負けた。敗者は大人しく勝者に従うのみ」
「本当に何をやっていたんだ」
「でもでも、マリナも輝いてたよ!」
「そうそう、キャバ嬢に負けてなかったよ!」
「お前が、この宿の看板娘だ」
私達はマリナを励ます!
「ありがとう。あなた達、良い美少女ね」
「そうです」
「ていうか泊まらせてもらいに来てるのに悪いことなんてできないよ」
「しばらくの間、よろしく頼む」
「ええ、いいわ。それじゃあ、部屋を案内するわ。ついてきて」
「うん!」
私達は部屋に案内してもらい、その後宿のレストランスペースでごはんをいただいた。
「美味しい!」
「うまっ、これうまっ!」
「今まで野営食だったからな。涙が出てきそうだ。それを抜きにしても美味いが」
「どう、ウタハ、マイミ、マトバ。うちの味は?」
「最高だよ!」
「文句なし!」
「店内がにぎわっているのもうなずける」
「えへへ、そうでしょ。いっぱい食べて、あなた達も常連になってね!」
「うん。この町にいる間はね!」




