5 キャバ嬢達は鞭を手に入れた
「私達には、新装備が必要よ」
今日もマイミとマトバの二人と合流。すると開口一番、マトバがそう提案した。
「新装備。確かに一理あるかもしれない」
マイミがうんうんとうなずく。
「暴力団には簡単に拉致られちゃったし、確かに私達は、もっと強くなった方が良いかもしれない」
私もその意見には賛成だ。
「幸い私達は、二回のおこづかいをもらっている。この貯金を元手に、今以上の装備を手に入れるべきだと思わない?」
「さんせーい」
マイミは手を上げて、私はうなずく。
「それじゃあ、決まりね。客引き前に、装備を整えましょう。装備といえば、まず武器屋!」
「おー!」
というわけで、私達は武器屋目指してあるき出した。
「いらっしゃい。嬢ちゃん達、武器が欲しいのかい?」
武器屋のおじさんが私たちを見て二イッと笑う。
「はい。とっても強い武器をください!」
マイミが元気よく言う。
「よし。だったらこれだな。ドラゴンスレイヤー。超攻撃力高いし、値段も超高いぜ」
武器屋のおじさんがそう言って、自身の身の丈程もある大刀を見せてくれた。
「わ、私達の身の丈にあった武器をください!」
私はすかさず訂正する。
「あいよ。じゃあ嬢ちゃん達はっと。んん、まだまだ初心者って感じだな。魔法は使えそうだから、杖でもいいが、それを見るかい?」
「いいえ。私達が欲しいのは、鞭です!」
ここでマトバがそう言った。
「マトバ、本気?」
「マトバって女王様タイプだったの?」
「ふたりとも、昨日見たでしょ。先輩たちの鞭さばき。きっとキャバ嬢には鞭の腕前が必須なのよ!」
「確かに!」
「言われてみればそうだ!」
私とマイミは感心した!
「というわけで、私達でも買えそうな鞭をください」
「あいよ。となると、まあ、これとこれだな」
武器屋のおじさんは両手に鞭を持った。
「これは初心者の鞭。まあ駆け出し装備だ。そしてこっちはヒートアップウイップ。使う側も使われる側もヒートアップする恐ろしい鞭だ。気づかない内に足腰立たなくなっちまう」
「おじさんさては、経験者?」
「おうよ。おじさんじゃなくてお兄さんだけどな。キャバクランニングの嬢ちゃん達はまたすごくてな。まあとにかくだ。まず始めは初心者の鞭。でも実用的なのはヒートアップウイップってところだな。ヒートアップする方は三倍の値段だが、どうする?」
うっ、三倍。
「買うわ」
わ、マトバが買った!
「まいどあり!」
「マトバに負けてたまるか。私も三倍出す!」
「まいどあり!」
「わ、私も」
い、いや、待て。ここは冷静になれ。
私は魔法も使えるし、第一本当にこの先戦闘があるかもわからない。もしかしたらこれは、散財かもしれないよ?
「ね、ねえ。マイミ、マトバ。もし二人が前衛やってくれるとしたら、私が後ろから魔法を撃つっていうのはありかな?」
「ん、まあいいんじゃね?」
「そこは状況に応じてね。もしくは私やマイミが後ろっていう場合もあると思うわ」
「だ、だよね!」
そうだよ。何も戦いになったらひたすらビシバシするわけじゃない!
でも、私だけ武器無しなのも嫌だから、一応!
「私は初心者の鞭にします!」
「まいどあり。最安値の武器だが、それでも武器だ。安くはないからな。大事に使え!」
「はい!」
こうして私達は、仕事用の鞭を手に入れた!
「これが、鞭。うおお、なんだかテンション上がってくる!」
マイミが早くもヒートアップしている。
「そうね。なんだか持っているだけでヒートアップしてくるわ」
「よし。それじゃあこれで武器を手に入れたね。おじさん、ありがとうございました!」
「あいよ。それと、お兄さんな!」
「ねえ、ウタハ、マトバ。この際だから、この武器屋のおじさんに客引きしない?」
「え?」
「そうね。ついでにアピールしておきましょうか」
そう言って、私は武器屋のおじさんを見た。
「おじさん。よかったらキャバクランニングに来てください!」
「だからお兄さんだって言ってるだろ!」
わあ、武器屋のおじさんに怒鳴られた!
「だが、いいだろう。もし俺と戦って、そっちが勝ったら、今夜キャバクランニングに行ってやる」
「本当ですか!」
「よーし、それじゃあおじさん、勝負だ!」
私とマイミは即行戦意を高めた。
「よし、それじゃあお兄さんが相手になってやろう。それで、嬢ちゃん達はキャバ嬢なんだろ。なら、接客バトルにするか、それとも通常戦闘にするか?」
「え、私達が選んでいいんですか?」
「よいよ」
「じゃあ、通常戦闘にする。だって折角鞭買ったんだもん。使いたい!」
マイミが即答した。
「わかったわ。戦闘ね」
「い、いいのかなあ」
マトバもノリノリで鞭を構える。私はちょっと気後れしながらも鞭を構えた。
「よし。それじゃあ勝負だ。表出な。いっちょもんでやるぜ!」
「やーん、変態ー!」
「安心しな。セクハラはしねーよ!」
「ていうか、マイミ、失礼だよ」
「そうだ。正々堂々、よろしくお願いします!」
こうして、私達対武器屋のおじさん勝負が始まった。
通行人が野次馬となって集う中、私達は武器屋のおじさんと向き合う。
「よーし、それじゃあ勝負開始だ」
「やー!」
まずマイミがフライング気味に攻めた。
ピシンパシーン。鞭がおじさんを痛めつける!
「ふん、どうだ!」
「駄目だな、全然なってない。まだまだ未熟だな嬢ちゃん!」
しかし武器屋のおじさんはそう言ってニヤリと笑い、マッスルポーズを決めた!
「なら私も!」
「ごめんなさーい!」
マトバと私も鞭打つ!
ピシンパシーン、ピシンパシーン!
「ぬはは、どうした。もっとちゃんと攻撃してこい!」
駄目だ、武器屋のおじさんはびくともしない!
「ええい、こうなったら、とにかくひたすら打つべし、打つべし!」
「ああ、なんだこれは。鞭で打つ度に、体が快感で火照ってしまう!」
「ごめんなさーい、ごめんなさーい!」
マイミ、マトバ、私はひたすら棒立ち武器屋おじさんを痛めつけた。
けどそれでも武器屋のおじさんは、元気に笑顔でいつづけた。
「どうした、腰が入ってないぞ。もっと全身使え、腕だけで振るな。魂込めて打て。俺はまだまだ元気だぞー!」
数分後。
「はあ、はあ、はあ」
「おじさん強いよお。すごすぎる」
「もう、疲れたあ。体動かなあい」
私達は、攻めてばかりいたというのに体力切れでヘトヘトになっていた。
「ぬはは。それじゃあそろそろとどめをさしてやろう。それ、おじさんタイフーン!」
そう言うと武器屋のおじさんは、その場でグルグル回り始めた。
というか、今自分でおじさんって言った!
「きゃあっ、なにこれ、おじさんに吸い寄せられる!」
「私軽いから、足が浮いちゃう。きゃー!」
「そんな、まさかこれがおじさんの本気、ひゃー!」
抵抗も虚しく、私達はあっけなく武器屋のおじさんに引き寄せられてしまう。
「それ、くらえー!」
「きゃー!」
あっという間に大ダメージを受けて、腰砕けになってしまった。
「勝負あったな」
武器屋のおじさんは回転を止めて、またニッと笑う。いや、ずっと笑顔だったか。
「どうやら嬢ちゃん達じゃ俺を満足させることはできねえみてえだな。強くなったらまた挑みな。いつでも受けて立ってやるからよ。成長、楽しみにしてるぜ」
そう言って武器屋のおじさんは店の中に戻る。一方私達は、体力も気力も使い果たして、立ち上がることもできない。
「やっぱりまだ、私達全然弱いね」
「くっそー、折角大金使って鞭買ったのにい」
「これじゃあ町中で客引きするのは、まだ当分先ね」
私達はそう言い合って、互いを見合って、うなずく。
「とにかく、強くなるぞー!」
「おー!」
お金を使い、完敗もしたが、私達の雑草魂は鍛えられ、燃え上がったのだった。