47 カボチャの兜
ひとまず置き場に困ったゼットちゃんは、キャバクランニングに持っていった。
「ゼットちゃんは今日からキャバクランニングの備品メカ。会いたかったら、ガチャで引き当てるんだメカ!」
まあ、最低限仕事はできるみたいだったから、厄介ではないだろう。
防具屋なう。
「おじさーん、ごめんくださーい」
「私達防具、っぽいもの拾ったんですけどー、ここで買い取れますかー?」
「おう。よく来たな。お嬢ちゃん達。それと、俺はおじさんじゃなくてお兄さんだ。で、買取品ってのは、どれだ?」
「これです」
マトバがカボチャの顔を防具屋のおじさんに見せた。
すると防具屋のおじさんは、見ただけで驚いた。
「こいつは珍しいもんが見れたな。そいつはカボチャの兜じゃねえか」
「見たまんまですね」
「ああ。防御力も見たまんまだ。だが特殊効果が有名でな。それかぶって畑仕事すると、野菜や果物が美味しく大量に育つんだ。カボチャだともっと育つ。縁起が良いお宝って言われててな。めちゃくちゃ高額商品だ。今うちでは買い取れないな」
「え?」
「もしかして」
「これ、本当にお宝なんですか?」
「ああ。更に性能が良いブラックかぼちゃの兜や、金のカボチャの兜とかもあるが、それも家が数件建つくらい高い。すぐにさばくならオークションだな。上手くいけば定価以上の値がつくぞ」
「よし、それじゃあオークションで売ろう!」
「おじさん、ありがとうございます!」
「では、これで失礼します!」
「まあ待て。俺はおじさんじゃなくてお兄さんだ。それに、お嬢ちゃん達オークション、つまり商業ギルドや貴族とかにツテはあるのか? ないとそもそも出品できないぞ」
「えっ」
「そんなっ」
「ああ、普通にオークションは、できないんだったな」
「知っているのかマトバ」
「ああ。オークションの主催者は出どころが怪しくないか判断するために、出どころの保証として出品するための権利を売っているのだ。そのお金を払わなければ、出品ができない。つまり、私達で出品しようとすると、売る前にまとまったお金が必要だ」
「そんなの嫌だ。実質利益が下がるじゃん!」
「なんとかならないの?」
「なんともならない、とも限らない。幸い、私の父の知り合いに貴族がいる。彼を頼るのもいいかもしれない」
「さすがマトバ、頼りになる!」
「それじゃあ早速、その彼を頼ろう!」
マトバに案内されてやって来たのは、かなり広いお庭付きのお屋敷だった。
「うわー、大きいね」
「お金いっぱい持ってそうー」
「まあ、私達よりはな。それでは、早速おじゃましよう。話は大体私がやるから、任せてもらって構わない」
「じゃあ、よろしく」
「大金は、マトバの手にかかってるんだからね!」
「ああ、善処しよう」
私達は難なくお屋敷へと通される。すると応接室で座っていると、すぐに人の良さそうなおじさんが現れた。
「ようこそ、お嬢さん方。それに、マトバちゃんだね。大きくなったねえー」
「ええ。育ち盛りなので」
「こんにちは」
「こんにちは!」
「ああ、こんにちは。私はエルビ子爵だ。よろしく」
「よろしくお願いします!」
「お願いしまーす!」
「エルビ子爵。こちらは私の仲間のウタハとマイミだ」
「うむ。可愛らしいお嬢さん方だ。ところで、マトバちゃんはキャバ嬢になったと聞いたんだが、本当なのかい?」
「はい。今も仕事中のようなものです」
「なるほど。確かに。いつもの格好よりも遥かに可愛らしいね。少々恥じらいもあった方が良さそうだが」
「恥じらいとか羞恥心とかは、最初の方で失いました」
「そうだったか。それで、今日我が家へ訪問した理由は何かな?」
「はい。実は、エルビ子爵のツテを頼って、この兜をオークションに出品したいのですが」
そう言ってマトバは、エルビ子爵にかぼちゃの兜を見せた。
「ふむ。一見ただのカボチャだね。一応聞いておくが、冗談ではないよね?」
「はい。真面目な話です。こう見えて貴重品だそうです」
「なるほど。アランズならわかるかもしれない」
エルビ子爵はご高齢の執事、アランズさんを呼んだ。するとアランズさんはひと目見てカボチャの兜の価値を見抜いた。
「旦那様。こちらの品は農業ギルドの間では有名なアイテムです。定価でもそれなりの値段がいたします」
「ほう。なるほど。で、改めて訊くが、これを私名義でオークションに出してほしいと」
「はい。お願いできますか?」
「できなくはないが、ならそもそもだ。これを、私に売らないか?」
「それ、は」
マトバが私達を見る。
「絶対オークション!」
マイミが即答した!
「なるほど。だが、私もタダで名義を貸してやるわけにはいかない。本当に私からという形で出品する場合、それなりの分前をもらいたいが、よろしいか?」
「それは、嫌です!」
マイミが即答した!
「むう、そうか。困ったな。いや、困ってはいないのだが、オークションに出品というのは簡単な作業ではないからね。ふむ。では、こうしよう。君たちはキャバ嬢だったね?」
「はい!」
「だったら、ここで私を接客してくれないか? それで私が満足したら、タダで出品してあげよう。オークションでついた値段をそっくりそのまま君たちに渡してかまわない。だが、もしここで私を満足させることができなかったら、分前はもらう。そういう勝負をしよう」
「いいですよ、のった!」
マイミが即答した!
「うむ。よし。では決まりだな。アランズ。すぐにワインをいくつか持ってきてくれ」
「は、かしこまりました。しかし、くれぐれもお飲みすぎにはご注意ください」
「いいではないか。今日は久しぶりの飲酒解禁日だ」
「は、承知いたしました」
アランズさんはそう言うと、一瞬私達を気の毒そうな目で見てからこの場を離れた。
「さて。では可愛らしいお嬢さん方。本日はほんのひとときの間、私を癒やすためにもてなしをしてくれ」
「はーい!」
というわけで、私達は急遽エルビ子爵に接客をすることになった。
「これこれ。ずっと皆から止められてたんだ。だが、私は大の酒好きでね。久しぶりに飲めてうれしいよ。君たちが来てくれたことに感謝だな」
エルビ子爵は笑顔でワインを飲む。
「さ、社長。もう一杯!」
「うむ」
マイミが笑顔でおかわりを注ぐ。マイミ、酔わせてからノックアウトする気だな。
けどエルビ子爵は平気な様子でワインを2本、3本と飲んでいく。
そして。
「うう、お前ら。俺にひれ伏せー!」
豹変した。
「随分きれいどころのキャバ嬢共じゃねえかあ。ひっく。おら、何ぼーっとしてやがる。もっと俺に媚びへつらわねえかあ!」
「エルビ子爵って、酔うと人が変わるんだ」
「この状態の前に倒せば良かった」
「まさかエルビ子爵がこんな方だったなんて」
「なにごちゃごちゃ言ってやがる。おら、お前ら頭を下げろ、土下座しろー。マトバちゃんは俺にひざまくらでもしたらどうだ。あんなに小さくて可愛かった子が立派な大人の女になりやがって。これはイタズラしてやらねえとなあ!」
「とにかく、こっから接客バトルよ!」
「よっしゃあいくぜえ!」
「エルビ子爵、早くダウンしてください。誘惑攻撃!」
「おしゃべり攻撃!」
「ドリンク攻撃!」
「ひゃーははは。そうだお前ら、もっと俺を楽しませろー!」
「マイミ、どうやらドリンク攻撃は効果なしみたい!」
「すっごい飲むよね。胃の中ブラックホールなのかな」
「ということは、おしゃべり攻撃か誘惑攻撃だな」
「おしゃべり攻撃もあんまり効かなそうだから、ここは誘惑攻撃一択で!」
「おうよ、誘惑攻撃!」
「誘惑攻撃!」
「うう、若い割には大した奴らだ」
「よし、効いてる。このまま押そう!」
「こうなったら、ごく、ごく、ごく。ふうー、俺復活だー!」
「わー、ワイン飲んでまた絶好調になった!」
「厄介な上にしぶといな、エルビ子爵!」
そして私達は、どちらも一歩も譲らぬ接戦を繰り広げた。
そして最後は。
「ニューチャームスマイル!」
「ファインフォルテッシモ!」
「清楚トレビアンヌ!」
「なんだそれはー!」
なんとか私達がエルビ子爵を倒した。
「お見事でございます、マトバ様方」
「ああ、アランズさん。どうも、バタバタしてすみませんでした」
「いえ。旦那様は長い間禁酒していると隠れて一人で飲み始めますから、このタイミングでマトバ様方が来てくださって幸いでした。それにしても、酔った旦那様をお倒しになられるとは、ものすごい実力をお持ちだ」
「私達キャバ嬢なんで。お客様を倒せなかったらやっていけませんよ!」
「左様でございますか。それでは、カボチャの兜は私達が丁重にオークションに出品いたします。買い取られ次第連絡いたしますので、その時またおこしください」
「はーい、ありがとうございまーす!」
こうして私達は、カボチャの兜をアランズさんに託しつつ、エルビ子爵の屋敷を去ったのだった。
「それにしても、お酒って人を駄目にするんだね」
「あそこまで駄目になった客は今まで見たことなかったけどね」
「エルビ子爵、ああいう面もあったんだな」
まる。




