34 キャロキャロジュース
無事朝になる。
「皆ー、起きてー。あーさだよー」
「んー、あと五分ー」
「いや、あと十分」
「マイミ、マトバ、いつもそればっかだねえ。ほら、早く家のベッドで寝たいでしょ。起きた起きた。キャロキャロット探しスタートだ!」
夜中はたぬきが襲ってきたが、無事倒せた。若干疲労が残っているが、危機的な程じゃない。
「うー、キャロキャロットめえ。私の睡眠をじゃましおって」
「やはりすやすや羊枕が無いと目覚めが辛いな」
ゾンビのように起き上がる二人だったが、三人揃ってしぼりたてミルクを飲めばやる気回復。今日も元気にキャロキャロット探しを始める。
「ウキー!」
「ウーキー!」
「うわ、ゴリラ猿がまた出てきた!」
「今度は二体か。ふたりとも、本気でいくよ!」
「ああ、わかってる!」
強敵ゴリラ猿を倒して、またキャロキャロットを探して、その間にまた猿が現れるが繰り返される。
正直ギリギリのところで戦闘を続けていられるが、さすがは3ランク依頼。簡単にはいかない。というか、キャロキャロットが見つからない。
「あーもう、キャロキャロットどこー?」
「いるなら返事してー!」
「あった。キャロキャロットだ」
「え!」
「どこ!」
「これだ」
マトバがそう言って指さした先には、見たことない形の葉っぱがあるではありませんか。
「これがキャロキャロット?」
「そうだ。早速抜いてみよう」
「あ、こっちにもある。いっぱいあるよ!」
マイミの言う通り、キャロキャロットはいっぱいあった。
「よし、じゃあ後は引っこ抜くだけだね!」
「それじゃあいくぞ」
「私もオッケー!」
「私もつかんだ!」
「それじゃあいっせーのーせ」
「とう!」
「てや!」
おお、皆ピンク色のにんじんが引っこ抜けた!
「やったー、これがキャロキャロットだー!」
「よっし、依頼達成ー!」
「うむ。めでたしめでたしだな」
「しかも見てみて。キャロキャロットもっと埋まってるよ!」
「本当だ。ここはキャロキャロット畑かな?」
「きっとそうに違いない。折角だからもっと持っていこう」
「異議なし!」
「これでキャロキャロジュースも作れるかな?」
「きっといけるだろう」
そう話して、皆でキャロキャロットを引っこ抜きまくっている時のことだった。
「あー、こら、どろぼーう!」
「ちょっと目を離した隙に、許せない!」
そう言って、少年と少女が走ってきた。にんじん色の髪をしていて、可愛い。
「おはよう。君たちは、迷子?」
「待って、ウタハ。こんなところにただの子供がいるわけないよ!」
「はっ、そうか!」
「お前たちは何者だ、名を名乗れ!」
「俺はにんじん少年。ここでキャロキャロットを育てているんだ!」
「私はにんじん少女。そのキャロキャロットは私達が育てたものよ。全部返しなさい!」
どうやら相手はそういう存在らしい。自己紹介されないとただの少年少女と見分けがつかないくらいだ。
「えっ。ていうかキャロキャロットって育てられたの!」
「俺たちだから育てられるんだ。大人しくキャロキャロットを返せ!」
「私達、依頼を受けてキャロキャロットを引っこ抜いたの。ちょっと引っこ抜きすぎたかもしれないけど、私達にはこれが必要なの。お願い、見逃して?」
「うっ。そう言われると心がゆらぐ!」
「後ろ暗いことをしているというわけではないということはわかったわ!」
お。これは押せばいける?
「でもでも、駄目だ。にんじんは俺たちにとって兄弟同然。簡単に持っていかれるわけにはいかない!」
「キャロキャロットが私達のものであるということには変わりないわ。だからちゃんと返してもらうわよ!」
「交換じゃ駄目か。少しならお金もあるぞ」
「あと包容力もあるよ」
「冗談はよしこさん!」
「大人しくキャロキャロットを返してくれないなら、戦うしかないわ!」
うう、どうしてもこうなってしまうか。
でも、こうなったら仕方ない。私達も腹をくくろう!
「仕方ない。皆、ここは接客バトルだ!」
「おうともよ。流石に子供に鞭は、向けたくない!」
「こんなに早くに新しい扉を開けさせたくはないからな」
「なに、やるか、かかってこい!」
「私達、手加減しないからね。覚悟!」
こうして、私達とにんじん少年少女との戦いが始まった。
「えい、誘惑攻撃!」
「な、なんだこれは。普通の攻撃じゃない!」
「そうよ。私達はキャバ嬢なんだから。それ、おしゃべり攻撃!」
「く、やるわね。でも私の方が魅力あるんだから!」
「子供に魅力うんぬんはまだ早い。それ、しぼりたてミルクをくらえ」
「美味しい!」
「もう一杯!」
激しい激しい攻防が繰り広げられる。にんじん少年少女は強敵だった。
「にんじんパンチ!」
「にんじんビーム!」
「ニューチャームスマイル!」
「ファインフォルテッシモ!」
「清楚トレビアンヌ!」
「ぐわー!」
「きゃー!」
激戦の末に、辛くも勝利。
私達は倒れるにんじん少年少女を見て、なんとか一息ついたのだった。
「ふう、なんとか勝てた!」
「子供の割には、強かった!」
「強敵だったな」
「くそう、負けたあ」
「く、強い。これがキャバ嬢、大人の魅力なの?」
「ごめんね、にんじん少年、にんじん少女。あ、そうだ。キャロキャロットをいただいていくかわりに、今度普通のにんじんを持ってきてあげよっか?」
「え?」
「くれるの?」
「う、うん。なんか、子供からぶんどったみたいで後味悪いし」
「事実だけどな」
「でも、ありがとう。そういうことなら、許してあげなくもないわ」
にんじん少年少女は、立ち上がると言った。
「本当に今日中にかわりのにんじんを持ってきてくれたら、いつでもキャロキャロジュースを飲める権利もあげてもいいぜ」
「本当!」
「ええ、特別よ」
「その言葉に、二言はないね!」
「それじゃあ、すぐにんじんを取りに行ってくる!」
「僕達、ここにいてね!」
こうして私達は、ダッシュで町まで帰って、にんじんを買った。
そして、夕暮れ時ににんじん少年少女と再会して、にんじんと引き換えに、キャロキャロジュースを出せるサービスを手に入れたのだった。
よし、これでステップうさぎを客引きできるぞ!




