31 釣り
「今日もギルドに来たけれど」
「正直もう野宿はこりごりだ!」
「何か良い依頼はないものだろうか」
私達は気合い不十分ながらも、依頼ボードを見た。
「ううん、あ。見て、釣りだって」
「あ、本当だ。かろやかフィッシュの納品だって。生息場所は、北の池かあ」
「釣りなら気分転換にもなるかもしれないな。モンスターを相手にしないし、悪くはないんじゃないか?」
「ただ、釣り道具が必要ね」
「むう、無駄な出費はNG」
「釣り竿なら、家にあるぞ」
「本当!」
「さっすがマトバ、愛してるう!」
「私もだ」
「うげっ」
マイミがカウンターを受けてうめいていた。
「ふふっ。そのボイスは雰囲気も何もないな。とにかく、釣り竿なら用意できる。あとは、依頼を受けるかどうかだな」
「受けても良いと思う!」
「私も思うけど、マトバ、私が好きって、本気?」
「マイミと同じく、冗談だ」
「あー良かったー」
「私もマトバのこと、好きだよ!」
「私もウタハのこと、好きだ」
「あー、お前らやめーい。空気微妙すぎるぞー!」
「言い出したのはマイミだろう」
こうして私達は、かろやかフィッシュの納品依頼を受けて、次にマトバの家に行ったのだった。
マトバの家は、それなりに良い家だった。というかこぢんまりしながらも、屋敷だった。
「へえ。マトバん家って金持ちだったんだ」
「いや、家族が皆節約家なだけだ。お金は自然と溜まったというわけだ」
「えーでもこの前、キャロキャロット食べたって言ってたよね」
「言ったな」
「それに釣具も持ってるし。やっぱりお嬢様なんじゃない?」
「私がお嬢様だったら、世のお嬢様方に失礼だ」
「そこまで言うなら信じてあげなくもない」
「私はまだ疑ってる」
「そうか。ただいまー」
「あ、お嬢様。お帰りなさいませ」
「釣具を探しに帰ってきた。友達と釣りをしたいと思ってな」
「左用でございますか。では、只今お持ちしますね」
「すまないな、頼む」
マトバがそう言うと、庭を掃除していた家政婦さんが走り去った。
私とマイミはジト目でマトバを見る。
「やっぱりマトバお嬢様じゃんー」
「お金持ちじゃんー」
「あれはジュネさんが勝手に言っているだけだ。それより、お茶を出そうか?」
「ううん。私は釣具を持ったらすぐ出発したいかな」
「私はマトバのお屋敷の中に興味あるー」
「それじゃあ2対1でここに待機だな」
「ちぇっ。残念」
「それじゃあ休みになったら遊びにきてくれ。歓迎するぞ」
「え、本当? やったあ!」
「約束だかんね。絶対来るから!」
「ああ。良いぞ」
そう話していると、家政婦のジュネさんが三人分の釣具を持ってきてくれた。
「はい、釣具です。どうぞ」
「ありがとうございまーす」
「はい。お気をつけていってらっしゃい」
「はーい、いってきまーす」
私達は笑顔で手をふるジュネさんに見送られ、町を出て北の道を走った。
よーし、さっさと魚を釣って、依頼達成するぞー!
池に到着すると、そこにいたステップうさぎをアオアジュースで買収し、護衛にもなってもらう。
「うさうさ」
「次はキャロキャロジュースもってこいよ。だって」
「ああ。努力はしよう」
「それじゃあ、レッツ釣りタイム!」
「おー!」
私達は竿の糸の先にルアーをつけて、池の中へと潜りこませた。
「目標数は3匹だったね。一人一匹釣って、終わり!」
「私が一番先に釣るかんねー」
「私だって負けん」
そう言って三人で池を注視すること一分。
2分。
5分。
10分。
「ねえ、まだ釣れないんだけどー」
「でも、まだ始まったばかりだし」
「焦らずじっくり構える。それが釣りだ」
でも、全然魚が釣れなかったら、だんだん不安になってくるんだよなあ。
そう思っていると。
「む、かかった!」
「え、マトバ、もう!」
「いや、今更だけど、でかした!」
私とマイミは、マトバを応援する。
「いけ、マトバ、釣っちゃって!」
「かろやかフィッシュをゲットだぜ!」
「ああ、任せろ。ふん!」
やがてマトバが、魚を釣り上げる!
その魚はなんと、思ったより小さかった。
ぴちぴちぴちっと、空中で跳ねている。
「あー、これはあ」
「はしゃぎフィッシュだな。かろやかフィッシュではない」
「ぬあー、はずれだー!」
「こら、マイミ。魚にハズレもないだろう。失礼じゃないか」
「でもかろやかフィッシュじゃないからダメー!」
「まあ、たしかに」
「ぬぐうう。こうなったら持久戦だ。なんとしてもかろやかフィッシュを釣り上げるよ!」
こうして私達の釣りは、長く続いた。
その後、更にマトバが一匹、私が一匹、はしゃぎフィッシュを釣って、夕方になった。
「これはひょっとして、野宿?」
私がそう言って戦慄する。
「えーっ、このペースで更に、野宿ー?」
「仕方ないだろう。釣れないと依頼達成にならないんだからな」
マイミがすこぶるごきげん斜めだが、マトバはもうテント張る気になっている。
「まあ、今日も夕ご飯あるし、この釣れたはしゃぎフィッシュ食べて、キャンプしよ?」
「えー。ん、釣った焼き魚でキャンプ? 良いね!」
あ、マイミのご機嫌が一瞬で治った。
「考えようによっては、良い時間の使い方だな」
「というわけで、釣りは一旦中止。ごはん食べちゃおう!」
「おー!」
私の木魔法で薪を用意して、マイミの火魔法で焚き火作り。マトバの水魔法で水確保。
私達のチームワークはばっちりだ。ステップうさぎの護衛も、アオアジュースを再びおごって延長してもらっている。
「こうなったら夜中も釣りしよう」
「そうね。私達は負けない!」
「そうだな」
ということで夜になっても釣りをしたが、するとあろうことか、すぐに三人がかろやかフィッシュを釣った。
「これは、どういうこと?」
「まさか、かろやかフィッシュは夜行性の魚?」
「もしかしたら、そうかもしれない」
「今日はもうキャンプの気持ちになってるし、このまま釣り続けてみる?」
「オッケー、いいよ!」
「朝ごはんも用意したいしな」
こうして夜釣りを続けると、更にかろやかフィッシュが釣れた。
そうして一段落すると、今夜は三人で就寝。朝起きて、池を見ながら焼き魚も食べて、私達はリフレッシュした。
後は帰るだけだ。
「今回の依頼は、ちょっと大変だったけど、楽しかったね!」
「うん。たまにはこういうのも良いかも!」
「今回は運が良かったな」
そして依頼を達成して、釣具はちゃんとマトバに返したのだった。
ステップうさぎは、キャロキャロジュース、あんま期待しないで待っててね。




