30 ラブレター
「やったー、今日はおこづかいゲットー!」
「結構もらえたね」
「まさかスライム美容液が当たりアイテムだったとは」
マイミ、私、マトバがそう言ってキャバクランニングの裏口から出ると、そこにガリューが待ち構えていた。
「ん、お前たちは、ファイアキャットと一緒にいた」
「あ、ガリューさん。こんなところに立っていたら不審者ですよ」
「お客様は正面入口からお入りください」
「でなければ警官を呼びますよ。まあ、ガリューさんに勝てる者など、ここにはいませんが」
「ああ、そうだな。そうなんだが。だが俺も、用があってこっちに回ったんだ。あ、これはもしかすると、丁度いいかもしれない」
「何が丁度いいんですか?」
「わるいですけど、ナンパならお断りですよ」
「するならキャバ嬢以外を狙ってください」
「そうなんだが、そうじゃないんだ。俺は、キャバクランニングのキャバ嬢に恋をしたんだ」
「恋?」
「それじゃあ話は簡単だ。貢げばいいじゃないっすか」
「ますます正面入り口に行ってください。しないならストーカーとして対処しますよ」
「貢げばいいってわけじゃないだろ。俺は彼女と、子供生誕の儀式をしたい」
「セクハラで訴えますよ」
「それくらい愛してるんだ。貢ぐだけじゃ袖を振られるだけだろ。だからこうして手紙も書いてきた」
ガリューさんはそう言って、胸元から一通の封筒を出す。
「うわ以外」
「ドラゴンに以外って言うな」
「ガリューさんってそんなことするタイプだったんですね」
「そういう風にも言うな。だが、別に手紙を渡すのは俺からじゃなくてもいいと今思った。なのでお前たち、俺の手紙を愛しのキャバ嬢に渡して、読んでもらってくれ」
「いくらで?」
「マイミ、それは露骨すぎるよ」
「これくらいでいいか」
私達はガリューさんから、大金をもらった!
「私達絶対、この手紙をお届けします!」
「ああ、頼む」
「それで、好きなキャバ嬢って誰なんですか?」
「好きなキャバ嬢はいっぱいいるが、愛したいのは彼女だけだ。だが、名前は知らない。たまたま見ただけなんだ」
「どんな特徴で?」
「これこれこういう特徴だ」
私達はガリューさんから、キャバ嬢の特徴を聞いた。
「あ、私その人知ってる」
ここで私の脳内検索にヒット。たまに挨拶してる先輩だ。たぶん。
「あー、私も、なんとなくわかるかも」
「たぶんあの先輩だ」
「それじゃあ手紙を渡してくれ。頼んだぞ」
ガリューさんはそう言うと、私達に手紙を託して去っていった。
「こうして不審者は去っていったのだった」
「変なこと言わない。でも、それじゃあ先輩来るまで私達待ってる?」
「夜になったら確実に来るから、その時に渡せばいいんじゃないか?」
「そうね。じゃあ今日は仕事オフってことで。夜またキャバクランニングにこよー」
「うん」
「そうだな」
私とマトバはうなずいて、ひとまず家に帰ったのだった。
そして夜になって、私達は目当ての先輩と会う。
「せんぱーい、ドラゴンからお手紙届きましたー」
「ドラゴンのガリューさんは先輩の名前知りませんでしたが、たぶん間違いないでーす」
「どうぞ、読んでください」
「え、私に?」
先輩は困惑した。
「たしかに最近キャバクランニングにドラゴンのガリューさんが入り浸っていることは知っているけど、でも私、接客したことないわよ?」
「本人は手紙の方が大事だって思ってました」
「ひとまず読んでみたらどうですか?」
「私達はガリューさんに頼まれたので、先輩が手紙を読むのを見届けたいんです」
「あら、そうなの。じゃあ、いいけど」
先輩は訝しそうにしながらも、手紙を見た。
「あらまあ」
「どうされました?」
「なんて書いてありました?」
「ラブレターには、なんて?」
私達、正直興味津々である。
「ごめんなさい。私には読めないわ」
しかし返ってきた言葉は、そんな本末転倒なものだった。
しかも先輩は、手紙を私達に渡してくる。
「そんな、先輩、いいんですか?」
「いいのよ。読めなかったら意味ないもの」
「ほう、どれどれ。うわ、読めな!」
「ああ、これは」
マイミとマトバがつぶやく。私も見てみるけれど、たしかに手紙は見たことない字で書かれていた。
決して汚くはなくて、むしろきれいなんだけど、えっと、何語?
「これじゃ確かに読めないね」
「何語だよ、何人だよ。ああ、ドラゴンか」
「これはドラゴン語だな」
「知っているのかマトバ!」
「ああ。少しだけ読める。ここに、聖なる光と書いてあるな」
「聖なる光!」
「およそラブレターに似つかわしくない文面!」
「決してそんなことはないと思うが。どうでしょう、先輩?」
「そうねえ。聖なる光かあ」
先輩は指を頬にあてて首をかしげる。
「うーん。まあ、悪くはないんじゃないかしら」
「それは、先輩的にグッドという意味?」
「ええ。まあガリューさんの顔も悪くはなかったし、お金持ちだし。良物件といえば良物件ね」
「そうですね」
「私も、お買い得とは思います。ただ難点は、相手がドラゴンであることと、人となりをよく知らないことだと思います!」
「実際、本人は今他のキャバ嬢と楽しんでますしね」
「そうねえ。でも、お手紙なんて初めてもらうし。ちょっとは気になるかしら。ちょっとマナー違反だけど、ガリューさんに会って話してみるわ」
「やっぱりそれが良いと思います」
「手紙だけじゃわかんないし」
「あ、手紙お返しします」
「ええ。それじゃあ、折角だからガリューさんに、手紙を読んでもらいましょう。そしたらなんて書いてあったかわかるわ」
「それ良いですね!」
「ぜひ読ませましょう!」
「それが良いと思います!」
「そうよね。じゃあ、言ってくるわ」
「いってらっしゃい、先輩!」
「あと手紙になんて書いてあったかわかったら、後で教えて下さい!」
「あと上手くいったら、教えて下さい」
「ええ、いいわよ」
その後すぐ、先輩はガリューさんと会い、手紙を読んでもらったらしい。
後で内容を聞いたところによると、それはまさしくラブレターだった。そして手紙の返事を聞いたガリューさんは、先輩にありったけ貢いだそうだ。
その翌朝、ガリューさんは先輩と一緒に朝の町並みに消えていったという。
きっとその後は、子供生誕の儀式が始まったのだろう。




