29 スライム美容液
「プルプル、プルプルプル」
「なんかあのスライム、大きくない?」
「たぶんスライムだから、弱っちいとは思うんだけど」
「残念ながらあれはビッグスライム。新米キラーの一種だ。大きければ大きい程、強さを増していくらしい」
「え、じゃあ、どうする、逃げる?」
「引かぬ、媚びぬ!」
「キャバ嬢に逃走はない、か。たしかに、今の私達の実力ならやれるかもしれん」
そう言って鞭をピシンと鳴らすマトバ。じゃあ、よし。やるしかないか!
「マイミ、マトバ、一気にいくよ。即行で倒そう!」
「よしきた、じゃあ必殺技だね!」
「それが効かなかったら、打つ手なしだからな。それでもノーダメージっぽかったら、逃げるぞ」
「オッケー!」
「確かに、心構えは大事!」
「それじゃあいくぞ、1、2の、3!」
マトバがそう言った瞬間、ビッグスライムの体からたくさんの触手が伸びてきた。私達はそれによって捕まえられ、空中に持ち上げられ、体のいろんなところに巻き付かれる。
「いやーん!」
「ひゃーん!」
「ぐわー!」
だ、駄目だ。ビッグスライムの触手がいい感じに私達を拘束して、抜け出せない!
「あいつこんな攻撃するのー!」
「く、予想外ー!」
「油断した!」
「プルプル」
ビッグスライムの触手がもぞもぞと動き、私達の体を這い回る。ひいいっ、なんだこいつ、いやらしい!
「ちょっと、こんな時どうすれば!」
「マトバー、なんとかしてー!」
「それができればいいんだが、逃れられん!」
ううっ、何もできずにいる内に、しめつけがどんどん強くなっていく!
「これ、本当にピンチかも」
「誰だー、立ち向かえって言ったやつはー!」
「お前と、私だ!」
まさに絶体絶命。このままでは、やられてしまう。
でも、ここで諦めるわけにはいかない!
「マイミ、マトバ。もう私達に残っているものは少ない!」
「残っているのは愛と!」
「勇気と!」
「主人公属性!」
「でもそれだけじゃ突破口にはならないよ!」
「それでも、チャンスはあるということだな!」
「そういうこと。というわけで、マトバ、頼んだ。今回はマトバに運命を託す!」
私はそう言うと、マトバを拘束する触手の一本に狙いを定めた。
「木魔法!」
ドーン! 私の木魔法が、触手の一本を両断する!
「おっと、それじゃあ私も、火魔法!」
バーン! マイミの火魔法も、触手の一本を焼き切る!
「よし。腕が自由になった。ならばここからは私のターン。二人の思い、無駄にはしない!」
マトバはそう言うと、力強く鞭を振り、手当たりしだいに触手を叩き切る!
おかげで私もマイミも、自由になれた!
「やった、マトバ!」
「さすがマトバ!」
「ああ。この勢いでいくぞ、ふたりとも!」
「うん!」
私とマイミは同時にうなずき、三人で走る。
もちろん目指すのは、ビッグスライムの元だ。
「プルプル!」
ビッグスライムはまた触手を伸ばしてきた。しかも、今回のほうが数が多い。
けど、その攻撃はもう一度見た!
「見きった!」
「私達に一度見せた技が通用すると思うな!」
「乙女の肌を弄んだ罪を、つぐなえ!」
私達は鞭を振りまくって、相手の触手を全て弾く。
そしてなんとか近づくと、そこで渾身の一撃を放った。
「ウェルカムトゥヘブン!」
すると私達の鞭を受けたビッグスライムがビクビクッと震え、体の液体をバシャバシャと周囲に飛び散らせる。
「よし、効いてる!」
「ならもういっちょ!」
「これで終わりだ!」
「ウェルカムトゥヘブン!」
これで、ビッグスライムは力尽きた。
「やったー!」
「勝ったー!」
「ふう、なんとかなったな」
私達は喜ぶ。
「あ、ビッグスライムが何か落としたよ」
「ん、なになに。スライム美容液?」
「怪しい商品が手に入ったな」
「これは、どうしよう?」
「ひとまず、ギルドで売っちゃえば?」
「そうだな。モンスターのドロップアイテムだし、ギルドなら売れるだろう」
「よし。あ、でも、一応美容液なんだよね。アンミ先輩に見せてみる?」
「あー、それが良いかも」
「大した手間でもないし、そうするか」
「よーし、それじゃあ後は、どうしよ。寝るか、見張りか」
「正直、こんなに激戦やった後、安心してこんなところで寝れるわけない」
「同感だ」
「そうだよねえ。じゃあ、いっそのことこのまま帰る?」
「それもいいかも」
「夜道だが、大丈夫か?」
「たぶん大丈夫だよ。何より、こんな強敵が現れたのにこれ以上とどまっていたくない」
「私もウタハにさんせーい」
「そうか。そうだな。では、移動するか」
「よし、決まり。テント片付けて、帰ろう!」
「おー!」
こうして、私達は野営を中断して、帰ることにした。
それからは、ちょくちょくモンスターが現れたけど、幸いビッグスライムのような強敵は現れなかった。更にもう帰れるという思いが、私達の気合いに結びついた。
そうして無事お昼ごろに町まで戻ってきて、一回皆ちゃんと寝る。そしてアンミ先輩に報告。
「せんぱーい、冒険者の依頼やってたら、こんなのが手に入ったんですけど」
「そ、それは、スライム美容液!」
「先輩、これいります?」
「いるも何も、スライム美容液は超レア美容アイテムよ。いらないとか言ったらバチがあたるわ!」
「え、そうなんですか?」
「ええ、そうなの。それで、あなた達が使わないということは、これをキャバクラッシュに献上するということ?」
「そう言われたらもったいないような気がしてくるけど、まあ、欲しいなら、どうぞ」
「そのかわり、おこづかいください!」
「ええ、いいわ。それじゃあ、取引成立ね」
「わーい!」
こうして幸いにも、私達に再び臨時収入が入ったのだった。
まる。
ビッグスライムは、逃げたゲルスライムと無理やり合体して強くなっています。
しかしそのおかげでドロップアイテムが美容液になった。という設定です。




