28 野営
冒険道具屋さんで冒険者お泊りセットを買ってあったので、道具はそろってる。
「ううー、携帯食料って美味しくなーい」
「今晩と明日の朝はリッコの実だけでごはんにするのもありかもしれないな」
「そうね。それがいいかも」
リッコがいっぱい採れて良かった。それに美味しい。ちょっとは野営の苦労も紛れるというものだ。
「夜の見張りどうするー?」
「じゃんけんで決めるか」
「それが一番無難ね」
じゃんけんの結果、私が二番目に見張りすることになった。
私とマトバは、テントに入る。
「じゃあマイミ、警戒よろしくー」
「あいあい。でも、夜寒いねー。毛布にくるまりながら見張るよ」
「踊り子の服装備だから、なおさらだな」
「冬用の踊り子服装備ってないかな?」
「ないない」
こうして私とマトバは、寝ようとした。
けれど。
テントの中にはベッドがない。
下は硬いし、毛布もフカフカじゃない。
正直、すっごく寝心地が悪い。
「結構、しんどい」
「そうか? キャンプ感でドキドキしないか?」
マトバ、お前は男の子か。
「モンスターも出てくるかもしれないし、別の意味でドキドキするよ」
「それもそうだな。今は見張りじゃないとはいえ、気をつけよう」
そう言い合って、私達は寝ようとした。
けど、寝れない。
ううう。家と全然安心感が違う。これじゃあ疲れもとれないよお。
とにかくひたすら寝ようと努めている時だった。
「皆、敵!」
突然テントの外からマイミの声が聞こえた。
私は慌てて起き上がる。
「マトバ、いくよ!」
「うう、あと五分」
「冗談はよしこさん!」
ひとまず私だけでもテントを出ると、外ではマイミが黒いネズミに対して鞭を振るっていた。
「それ、えーい!」
「チュー!」
そのネズミが、今倒れる。幸い数は、一匹だけ。
「やったか!」
マイミがそう言うと、ネズミが突然立ち上がり、アイテムを落とすと一目散に逃げ去った。
「すまん、遅れて。む、あれはヨルネズミだな」
遅れてテントから出てきたマトバが、ネズミの後ろ姿を見て言う。
「ヨルネズミって言うと、特に恐ろしくない、ゴフンよりは強いモンスターだっけ」
「ああ。ただ数が多いから、それには気をつけないといけないらしいがな」
「なーんだ、じゃあ大したことなかったんだ。ごめんね、ふたりとも。起こしちゃって」
「あ、うん。それはいいよ。モンスターが現れたことは確かだし」
「私達にとって初見のモンスターだったから仕方ない。今度から一人で倒せると思ったら、そうしてくれ。だが、初めて見るモンスターが出たら必ず皆を起こすようにしよう。不測の事態があっては嫌だからな」
「オッケー」
「ヨルネズミが落としたアイテムは、ヨルネズミの牙か。一応拾っておこうかな」
「それじゃあ、ウタハとマトバはもうちょっと眠ってていいよ」
「それなんだが、ヨルネズミが一匹だけだったのが気になる。私はしばらく起きていた方が良いと思う」
「じゃあ、私も起きてる。寝れないし!」
「あー、それじゃあ私、もう寝ていい?」
「あー。まあいいんじゃないかな」
「確かに私達が起きてるなら、マイミは寝てても良いかもしれないな」
「よし。夜ふかしは美容の大敵だもんね。今はちょっとでも寝ることにする!」
「キャバ嬢が何を言ってるんだか」
「ではおやすみ、マイミ」
「うん。おやすみー」
こうして、予定は変更され私とマトバが周囲を見張った。
それから30分後。
「チュー!」
「チュチュー!」
「うわ、わわわ!」
「今度は大勢で現れたな、ヨルネズミ!」
私達が敵に気づいたと思った直後に、周りを囲まれた!
「マイミ、起きて、敵!」
私はそう言って、鞭を構える。
「んー、あと五分ー」
「冗談はよしこさん!」
「ウタハ、背中合わせで戦うぞ!」
「オッケー、後ろは任せた!」
「チュー!」
ヨルネズミ達は一斉に襲いかかってきた。
ヨルネズミの数は十匹近い。数の差は相手の方が圧倒的に上。
でも私達には、レンダ先輩から教わった鞭技があーる!
「やー!」
「たー!」
私とマトバは高速で鞭を振るう。そしてヨルネズミ達の攻撃を全て相殺する。
前はさんざんレンダ先輩の鞭先を鞭で弾いていたのだ。これくらいの勢い、受けきれる!
「マトバ、こっちは大丈夫!」
「ああ、こちらも平気だ!」
「じゃあいくよ、反撃開始!」
「キャバ嬢乱舞!」
「チュー!」
私とマトバは踊るように鞭を振り、ヨルネズミを一匹、また一匹と倒していった。
「って、モンスター出たってほんと!」
そこでマイミがやっと、テントから出てくる。
「チュー!」
「チュー!」
そこで私達は丁度、ヨルネズミ達を倒し終えた。
「ふー。マイミ遅いよ。もう終わったよ!」
「なーんだ、さっすがー、ふたりともやるー!」
「なんだじゃない。マイミ、すぐ起きてくれ。緊張感が足りないぞ」
「ごめんごめん」
「でもマトバだって起きなかったじゃん」
「反省はしている」
そう言っていると、倒したヨルネズミ達はすぐに起き上がり、四方八方へ逃げていった。
「む、まだ動けたか」
「でも、行ってくれたね」
「うん。あ。でも、去るモンスターいれば、来るモンスターあり、みたい」
「え?」
「こいつは、手強そうだぞ」
私は二人が見ている方を見る。するとそこには、私達より大きなスライムさんがいた。




