22 猫との戦い
キャロキャロットとは。
高級なニンジンのことである。
「私、それくらいしか知らないんだよねー」
「私もー」
「まあ、食べたことないとそうなるだろうな」
「マトバは食べたことあるのー?」
「あるのー?」
「ある。といっても、小さい頃に一度だけだがな」
「小さい頃のマトバは可愛かったんだろうねー」
「私も可愛かったよー。もちろん今も!」
「はいはい。キャロキャロットは、普通のニンジンよりも甘くて柔らかい。更に食べると攻撃力アップ、防御力アップ、状態異常回復小の効果がある。そして分類上戦闘食料で、普通に栽培はできない」
「え、普通に育たないの?」
「じゃあ、どんな変なことするの?」
「変なことはしない。ただ戦闘食料は全部、食べて即効果がある代わりに、モンスターがいる場所でしか育たないそうだ。だから、なかなか出回らない」
「そうなのかあ」
「あれ、じゃあ普通に買うこともできないわけ?」
「基本そうなるな。だが、ステップうさぎ達が要求してきたのはキャロキャロジュースのドリンクサービスだ。つまり限定品などではなく、普通にいつでも飲めなければ客として来てくれないだろうな」
「あれ、じゃあつんでない?」
「たしかに。ジュース一杯作るのも大変だというのに」
「そうだな。じゃあ、諦めるか」
「うん、そうしよう!」
「無理なものは無理。だから仕方ないね!」
「それじゃあ今日も張り切って新しい依頼をこなすか」
「うん!」
「おー!」
というわけで、今回の引き受ける依頼はー?
「これに決めた。ファイアキャットのひげ納品」
「尻尾も持ってきたら追加報酬だって!」
「まあ、ひげを抜くだけなら大丈夫だろう。行ってみるか」
「よーし、レッツゴー!」
ファイアキャットがいるのは町を出て東にずうっと進んだところ。ただ私達はうさぎの加護を持っていたので、いくらか走って進んだ。
すると、お昼ごろ。
「ニャー!」
「あ、ファイアキャットが出てきた!」
「よーし、それじゃあ接客バトルだー!」
「こんなかわいい子に鞭なんて向けたくないからな」
「よーし、それじゃあ、誘惑攻撃ー!」
「ドリンク攻撃ー!」
「おしゃべり攻撃!」
ファイアキャットは魅力にもおしゃべりにも引っかからなかったが、しぼりたてミルクには超反応した。
「ぺろ、ぺろ、ぺろ」
「おーよしよし、なめてるなめてる」
「でも確か、猫に牛乳はあげちゃいけないんじゃなかったか?」
「しぼりたてだから大丈夫じゃない?」
「きっとそうだよ!」
「そうか。うん。そうだな」
「ニャー」
お、ファイアキャットがおすわりした!
「お、そろそろ満足したかな? それじゃあおヒゲちょうだーい!」
「ニャー」
「ん、なんだって。満足はしたが、人にくれてやるものなど何もない。もし欲しくば、我を倒してみよ?」
「ニャー」
「なんて戦闘狂な猫さんなんだ」
「でも、戦わないとくれないなら仕方ない。マイミ、マトバ、いくよ!」
「あいあいさー!」
「では魔法にする、鞭にする?」
「鞭は絵的に嫌だから、魔法で!」
こうして私達は、結局戦うことにした。
すると。
「ニャア、ニャア!」
「きゃー、熱い、やばい!」
「燃えちゃう燃えちゃう、火魔法強すぎ!」
「こいつかわいいだけじゃないぞ。火魔法を巧みに使ってくる!」
「あーんもうこれ無理、限界。皆、鞭で接近戦だー!」
「結局こうなるかー!」
「すまぬ猫さん。だが、やられる前にやる!」
「ニャー!」
私達とファイアキャットは、燃える死闘を繰り広げた。
その結果。
ビシンバシーン。
「ニャアー」
私達は、なんとかファイアキャットを倒すことに成功した!
「おっしゃ勝ったあ!」
「なんとかなった!」
「きびしい戦いだったな」
目の前でのびるファイアキャットを見て、私達は喜ぶ。
「よーし、それじゃあ猫さん。今度こそおヒゲちょうだーい」
「ニャー」
するとファイアキャットは、すくっと起き上がった。
「ん、なになに。よくぞ我を倒した人間ども。だが我は四天王の中でも最弱。次の四天王を相手にして戦慄するがいい?」
「ニャー」
「あ、あの、猫さん。私達、本当におヒゲがもらえればそれでいいんだけど」
「ニャー」
「ついてこい、こっちだ」
「あ、あの猫、まだこんなに速く動けるのか!」
猫がダッシュを始め、私達から離れていく。ここは逃せない。追わなきゃ駄目だ!
「待てー、依頼ー!」
「流石に逃げんのは無しだぞー!」
「やはり2ランクの依頼は大変だな!」
私達は必死に猫の後を追った。
そして猫が逃げた先に、また猫がいた。
新たなファイアキャットは、自分を第二の四天王と称した。
手強かったが、倒した。
すると二匹になった猫は再び走って、三匹目の猫と合流した。
その新たな猫は、自分を第三の四天王と称した。
手強かったが、倒した。
すると更に猫三匹が逃げ、今度は第4の四天王と合流した。
手強かったが、倒した。
「流石に、もう次はいないよね?」
「ちょっともう、限界っぽいんだけど」
「ファイアキャット、なかなかやる」
私達はもう満身創痍、立っているのがやっとだ。
そんな私達が見守る中、ニャーニャー鳴き合っていた猫達が私達を見た。
「ニャー」
「え、次はチャンピオンと戦わせようと思ったけど、今あいにく留守にしてる?」
「ニャー」
「じゃあ、もういいね」
「ニャー」
「仕方ない、しぼりたてミルク一杯で手をうってやる?」
「ニャー」
「始めから、そうしてほしかった」
こうして私達は、なんとかファイアキャットのヒゲと、おまけに尻尾、更に猫の加護ももらった。




