20 冒険道具屋さん
早朝に帰ってきて、草玉を納品。それから私達は、ほぼ無言で家に帰った。疲れた。もう寝る。
そして夜にアンミ先輩に定期連絡を入れて、そのまま冒険者ギルドのバーで客引き。その翌日、私達は冒険道具屋で待ち合わせした。
冒険道具屋とは、冒険者が必要とする道具を揃えて売っている良心的なお店である。
「私達には、もっと冒険者としての備えが必要だった!」
「その通り!」
「昨日、いや一昨日は散々だったな」
「というわけで、今日は野営の道具をそろえたいと思います!」
「いえーい!」
「あまりしたくないが、準備はしておかないとな」
「というわけで、いろいろ見てみよう!」
「なんか面白いものないかなー」
「無駄遣いはしないぞ」
こうして私達は、いろんな物がいっぱい置いてあるお店の中に入ったのだった。
「いらっしゃい」
「おじさーん、冒険者用のテントとか保存食とか、ありますかー?」
「おじさんじゃなくてお兄さんだ。それなら冒険者用お泊りセットがあるぞ。買ってくか?」
「はい!」
こうしてお買い物はあっさり決まった。
「けどどうせだから、もっと見ていこうよー」
「それもいいかもな」
「そうだね。じゃあおじさん。支払いはもうちょっと待っててください」
「ああ。それとおじさんじゃなくてお兄さんだ」
「ねえおじさん、折角だから役立つ道具教えてよー」
「おじさんじゃなくてお兄さんだ。そうだな、嬢ちゃん達は目立つから、外套とかどうだ、買わないか?」
「外套かあ。シェイドさんとおそろい?」
「えー、でも外套着たら客引きもできないじゃん。そんなの駄目だよ」
「そうだな。外套はかえって邪魔かもしれん」
「客引き? お嬢さんら冒険者じゃないのか?」
「私達、冒険者兼キャバ嬢です!」
「おじさんも、キャバクラッシュに遊びに来てね!」
「おじさんじゃなくてお兄さんだ。そうか、だからそんな格好でうろつけるんだな」
そんな格好って言われた!
「というわけで、外套はいりません!」
「そうか。三倍値がはるが、スケスケ透明外套もあるが、それもいらないか?」
「え?」
「スケスケ透明外套?」
「それはちょっと、便利かもしれない」
私達は顔を寄せ合う。
「でも、お値段三倍だよ。どうする?」
「うーん。別に雨の日は傘させばいいからねえ」
「でも、戦闘は両手が空いていた方が良い。まあ、私達は鞭使いだから、片手でもなんとかなりそうだが」
「じゃあ、いらない?」
「やめにしとく?」
「それでもいいかもな」
私達はおじさんに向き直った。
「決めました。スケスケ透明外套もいりません!」
「そうか。じゃあ後は、呼笛はどうだ。はぐれた時に役立つぞ」
「うーん。それも、基本はぐれないからいらないかなあ」
「あ、でも兵士は持ってたよね。レイドクエストの時使ってた!」
「だが、私達にはいらないだろう」
「だよね。というわけで、呼笛もいりません!」
「そうか。あとは、アームバンド、レッグバンドとかどうだ。つけた腕や太腿に、回復薬の試験管やピッキングの針金、投げナイフを仕込んでおくんだ」
「そ、それはあ、うーん、便利、かなあ?」
「かっこいい、買います!」
「待てマイミ。聞く所によるとバンドは付属品だぞ。更に回復薬やナイフまで買う気か?」
「うっ」
「それに、踊り子服にバンドしても似合わないよ」
「そうかあ。じゃあ、諦めるかあ」
「というわけで、バンドも買いません!」
「それじゃあ、磁気リングはどうだ。身につけてると自然と疲労が回復するぞ」
「私磁気に弱いので、いりません!」
「ああ、マイミが駄目かー」
「仲間が駄目なら、私達にはいりません」
「そうか。じゃあ、手首につけるインク壺ペンセットはどうだ。マッピング時とかに便利だぞ」
「ううん、でも今のところ必要なことはなかったしなあ」
「それに私達地図書けないし読めないので、いりません!」
「そこまでは言わないが、通った場所くらい憶えていられるしな。それに何か書く時はたいていインク壺とかある場所だし、戦闘中に使うこともないので必要なさそうだ」
「というわけで、インク壺ペンセットもいりません!」
「じゃあ、ボイスレコーダーはどうだ」
おじさん、結構いろいろ紹介するなあ。
「憶えておきたい言葉を記録できるし、それにバイブレーション機能もあるぞ」
「なぜつけたし」
「魔力が切れそうになると知らせてくれるんだ。安いのは十文字くらいまでだが、家くらい買えるやつになると物語だってまるまる記録できるぞ」
「いえ、遠慮します。なんか高そう」
「それに、どう使うかわからなくて、壊しちゃったりするのも嫌だしね」
「あるあるだな」
「というわけで、ボイスレコーダーもいりません!」
「それじゃあ、次は塩袋だな。なめればミネラルや力等を補充できるし、回復薬が無い時に傷口に塗り込む緊急治療薬としても使えるぞ」
「それは使い方どっちも危険すぎるので、いりません!」
「私しょっぱいものより、甘い方が良いー!」
「だが、回復薬くらいは買っておくか」
「そうか。回復薬は一応ここにも置いてあるが、薬屋の方が種類多いぞ」
「わかりました。じゃあそっちで買います」
「あとは、そうだなあ。すやすや羊枕はどうだ?」
「なんですかそれ」
「すやすや羊枕を使って眠ると、いつも以上にすやすや眠れるんだ」
「あ、それ良さそう!」
「でもお高いんでしょう?」
「いいや、そのかわり眠りが深すぎて、すぐには起きられなくなる。ゆすってもビンタしても起きない」
「じゃいりません」
「いや、普段使いで、それ買います!」
「お、その手があったか。じゃあ私も買う!」
「じゃ、じゃあ私も」
「どうぞどうぞ」
「まいどあり!」
こうして私達は、冒険者用お泊りセットとすやすや羊枕を買って冒険道具屋を出た。
「思ったよりも面白かったね」
「そうだね。いろいろあったし」
「まあ当初の目的も果たせたし、これで良しとしよう」
「あとは何してよっか。もう依頼をこなす?」
「うーん。今日中に依頼決めといてえ、明日の朝からでかけない?」
「それでもいいかもな。今から依頼をこなしたら、確実に夜になるだろうし」
「よし。それじゃあ依頼だけ見てこよう!」
「おー!」




