2 下水道をゆけ
後日。
「ウタハ。前に指名接客とランダム接客の説明はしたわよね?」
「はい。指名接客は狙った相手と戦えるけど、ランダム接客は相手がわからないかわりに、経験値と報酬が良いんですよね?」
「そうよ。けれどランダム接客は、キャバ嬢に客引きをお任せすれば、狙った相手を接客しやすくなるの」
「なるほど」
「そういうことなんだけど、ウタハはこれから客引きをメインにやってくれない?」
「はい?」
「今日から外でお仕事よ。さあ、頑張って」
「は、はい!」
というわけで、マイミとガチャで知り合ったマトバと共に、3人で客引きにでかけた。
「あー。やっぱり夜は暗いねー」
「人なんてー、私達以外歩いてないんじゃない?」
「だが客引きをしろと言われたんだ。どうにかして見つけるしかないだろう」
私、マイミ、マトバと話しながら歩いていると、ある時肌寒い風がビューと吹いた。その直後。
「どうやらお困りのようだね」
突然背後から、そんな声が聞こえてきた。
「っ、誰!」
「っていうかどこから現れた!」
「何奴!」
私とマイミとマトバが慌てて振り返ると、そこには外套で顔を隠した怪しげな人物がいた。
「三人とも、慌てないで。私は味方よ」
「そうなんですか?」
「マイミ、そう簡単には信じられないよ!」
「怪しいわね、名を名乗りなさい!」
「ふふふ。私は話が得意じゃないから、用件だけ言うよ。客引きをするなら、まずは下水道を探すことね。今のあなた達ではそれが精一杯よ」
怪しい人物はそう言うと後退り、闇を生み出して見えなくなってしまった。
「あのひとは、闇属性の人?」
マトバがそう言う。
「マトバは水属性だっけ?」
「ええ。そしてウタハが木属性で、マイミが火属性よね」
「下水道かあ。本当にそんな所に行って意味あるのかなあ?」
「わからないわ。でも、今の私達にはそこしか行くあてがないわね」
「じゃあ、いちかばちか、行ってみるしかないね!」
私達は同時にうなずいて、今から下水道に行くことにした。
下水道なう。
「うわーっ、骨ネズミしかいないよー!」
マイミの言う通り、下水道に入ってすぐ骨ネズミ3体におそわれた。
「えい、木魔法!」
私は木魔法で攻撃した。
「火魔法!」
「水魔法!」
マイミとウタハも魔法で攻撃。すると骨ネズミ達は倒れた。
「ふうー、なんとか倒せたね。でも、下水道。暗いし臭いし敵はいるしで、ここ本当に来る所だったかなあ?」
「たしかに。やっぱり騙されたんじゃない?」
「だが、モンスターだが会えたことは確かだ。ひょっとして、こいつらを客にしろということなんじゃないのか?」
マトバだけひょんなことを言う。本当かなあ?
「それはどうだろう」
「マトバ、考えすぎじゃない?」
「とにかく一度、声はかけておこう。皆、キャバクランニングに遊びに来てね!」
マトバがそう言ってポーズを決めると、倒した骨ネズミ達は立ち上がって奥へ向かって走っていってしまった。あれ、HPは0にしたと思ったんだけど、仕留めきれてなかったのかなあ?
「モンスターって倒れたら、しばらく動けないはずじゃなかったっけ?」
マイミも同じことを考えていたっぽい。
「ふむ。普通のモンスターとは違うのかもな。気になる。追いかけてみないか?」
「えー?」
「えー?」
二人で嫌がっていると、また目の前に骨ネズミが現れた。
「きゃーっ、木魔法!」
「火魔法!」
「水魔法!」
私達はまた骨ネズミを倒す。今度こそ、やったよね?
「倒した、よね?」
「そう。そのはず」
「だが、また起き上がるかもしれない。ふたりとも。また声をかけてみよう。今度は一緒に、いくぞ」
「えー」
「えー」
「ほら、3、2、1」
「皆、キャバクランニングに遊びに来てね!」
私達は同時に言ってポーズも決めると、やはり倒したはずの骨ネズミ達は立ち上がり、奥へと消えていった。
「わ、また動き出した!」
「おかしいな。たしかに倒したはずなのに」
「うむ。やはり動き出した。気になるな。ちょっと逃げた先を見てみよう」
そう言ってマトバが奥に進む。
「わー、待ってマトバー!」
「もー、マトバに何かあったら私達絶対叱られるんだからねー!」
こうして私達もいやいや、下水道を歩いた。
その後も骨ネズミが現れたが、やがて集いネズミが現れるようになった。
集いネズミは、骨ネズミよりも強キャラだ。私達は、なんとか倒した。
「うげー、まさか骨ネズミ以外もいるなんて」
「マイミ、しっかり。正直、私もギブしそうだけど」
「だが、客引きは今の所順調だぞ。たぶん、だが。さあ、今回もモンスター相手に客引きだ。1、2の3、はい」
「皆、キャバクランニングに遊びに来てね!」
私達がそう言うと、やはり集いネズミ達は立ち上がり、奥へと走り去った。モンスターって、元気なんだなあ。
「やはり奥へ消えていく。そこに一体何があるの。ふたりとも、確かめましょう。きっともう少しよ!」
「はあい」
「もうマトバの気の済むようにしてえ」
私達はもう元気マトバに引っ張られるがままだ。
まあ、集いネズミくらいになら勝てるし、戦いを続けてたらレベルも上がったし、別にいいけどね。
と、思っていた時が私にもありました。
暗く汚い下水道。その奥にいたのは、大きな大きなネズミさん。
人型サイズのそのモンスターは、えっと、人食いネズミ?
「チュー!」
「ウタハ、マイミ、あいつは育ちネズミだ。きっとここのボスだ!」
「ええー!」
「マトバ勝てるのー!」
「やってみなければわからん!」
こうして私達は、育ちネズミとも戦うことになった。
「木魔法ー!」
「火魔法ー!」
「水魔法ー!」
それは激しく、苦しい戦い。
けどなんとか私達は、育ちネズミを昇天させることに成功した!
「チュー」
ばたん。倒れる育ちネズミ。
「やたー、勝ったー!」
「私達、やればできる子ー!」
「ふう、ギリギリだったわね」
私達は、生き残った喜びを実感して嬉しがる。
「もうー、マトバがこんなところまで来たいって言うから、大変だったじゃんー」
「すまんすまん。だが、ここまできたんだから、一応こいつにも客引きしないとな」
「えー、こいつもー?」
「また起き上がったらどうするの?」
「その時はその時だ。さあ、ふたりとも。やるぞ!」
「はあもう、仕方ないなあ」
「そんじゃま、いきますか」
「皆、キャバクランニングに遊びに来てね!」
はい、ポーズ!
すると。
「チュー!」
なんと、育ちネズミが起き上がった!
「ひー!」
驚く私達。けど育ちネズミは私達の目の前まで歩いてくると、そこで立ち止まり、つぶらな瞳で見つめてくる。
「ひょっとして、お客になってくれる?」
こくん。
こ、こんな展開、ありかー!
「一名様、ごあんなーい!」
「チュー!」
とにかくこうして、私達はなんとか客引きを成功させたのだった。
まる。