11 しぼりたてミルク
「ありがとう、姉ちゃんたち。かは、よくわかんないけど」
「素直な気持ちは大事よ」
「お礼に、良いこと教えてあげるよ」
「お姉さん達の方がチビに良いこと教えてあげられるよ」
「ちょっとマイミ、セクハラしない」
「俺は上手くいかなかったけど、早朝にのんびり牛のミルクを絞って飲むと、すげえ美味しいんだって」
「へー」
「姉ちゃん達ならきっと飲めるよ」
「でもなんでヨンド君は失敗したの?」
「のんびり牛は早朝すっげー機嫌悪いんだ。だから近づくのも一苦労なんだ。のんびりしてるのは昼間だけさ」
「そうなのかあ」
「姉ちゃん達も金ないから冒険者やってるんだろ。お互い頑張ろうな」
「いや、それはちょっと違うけど、なら、ヨンド君ももっと頑張ってね!」
「ああ!」
「そして大人になったらキャバクランニングに来てね」
「キャバクラッシュってどこ?」
「子供にはまだ早いところよ」
こうしてヨンドと一緒に、薬草納品を終えたのだった。
「さーて、納品も終わったし。これからどうするー?」
「そうね、外もまだ明るいし、もうちょっと働いてみる? 丁度、ギルドのバーに人もいるし、声かけしてみよう」
マトバがマイミにそう答え、ギルドのバースペースを見る。
するとそこには確かに、仕事終わりの一杯を飲んでいる冒険者達がいた。
「よし。それじゃあ声かけてみよう!」
「そうね!」
私とマイミも賛成して、三人で酔っ払いたちに近づく。
酔っ払い達はすぐに私達に気づいて、警戒する目で私達を見た。
「お前たち、キャバクランニングのキャバ嬢だろ」
「わるいが、お前たちに払う金はねえぜ」
「キャバクランニングは財布を空にするまで吸い付く悪魔の巣窟だからな。俺はもう引っかからないって決めたんだ」
く、手強そうな相手だ。でも、だからこそ狙いがいがある!
「そう言わずにいー、私達と、楽しも?」
「私達、お兄さんのこと知りたいなー?」
「キャバクランニングで、いっぱいはしゃいでほしいな?」
マイミ、私、マトバはそう言ってしなをつくって、獲物を狙う狩人の目を輝かせた。
接客バトル、スタートだ!
「まずは私、おしゃべり攻撃!」
私は精一杯声をかけた!
「ううっ」
「心が揺れるっ」
「耐えろ、耐えるんだ、俺!」
よし、酔っぱらい達に効いてる!
「次は私。ドリンク攻撃。すいませーん、彼らもちでビールくださーい!」
マイミのドリンク攻撃で、酔っぱらい達の心が緩んでいく!
「う、美味い。可愛い子と飲むと最高!」
「野郎同士で飲むより、ずっと良い!」
「耐えろ、しっかりするんだ、俺!」
「私の番だな。誘惑攻撃!」
マトバの魅力が、酔っぱらい達に突き刺さる!
「ズキュウウゥン!」
「か、かわいー!」
「耐えろ、耐えろー!」
よし、酔っぱらい達はグラグラきてるぞ!
そして私達は更に攻撃を続けて、気合いも溜まった!
「よし、皆。ここで連続とっておき攻撃よ!」
「おっしゃあいくぜー!」
「本気を見せる!」
「とっておき、ニューチャームスマイル!」
「とっておき、ファインフォルテッシモ!」
「とっておき、清楚トレビアンヌ!」
「うわー!」
「どわー!」
「耐えられねー!」
やった、酔っぱらい達を昇天させた!
後はここで、決めポーズ!
「皆、キャバクランニングに遊びにきてね!」
「い、いきまーす!」
「もっとキャバキャバしてくれー!」」
「ちくしょー、耐えられねー!」
酔っ払い達はこれで完全にダウン!
「さすがキャバクランニング。あいつらに絡まれると尻の毛までむしられるな」
「今年のキャバクランニングは勢いがすごいぞ」
他の冒険者さん達は、私達を恐れる目で見ている。
でも、私達はキャバクランニングの仕事をしているだけだ!
「ふたりとも、ここでもっと宣伝しよう!」
「そうね、この時間帯なら客引きにもなりそう」
「まだ元気あるし、連戦きめようか!」
私、マトバ、マイミは気合いを更に上げながら他の冒険者達に突撃した。
今日は臨時ボーナスの稼ぎ時にするぞー!
翌日、早朝。
「本当にのんびり牛のミルク、美味しいのかな」
「他の冒険者達に訊いても、そう言ってたけど」
「ものは試しだ、飲んでみましょう」
私達は言われて試しにのんびり牛の近くまで来ていた。
「モー」
でものんびり牛は噂通り、機嫌悪そうに地面を蹴っている。これは簡単にはいかなそう。
「どうする、鞭使う?」
「それもありね。でも、私達はキャバ嬢。ここは折角だから、接客でやりこめてみない?」
「そうね、それがいいかも!」
マイミ、マトバ、私がそう言って、今回の作戦は、キャバ嬢接客作戦に決まった。
というわけで、おしゃべり攻撃!
「牛さん、ミルクちょうだい!」
「あなたのミルク、飲みたいな?」
「ねーええー、ミルク、ちょうだい?」
私達は言葉攻めでのんびり牛に挑む!
すると。
「モー!」
のんびり牛は興奮して、私達に体を許してくれた!
「えへへ、ありがとう!」
「よし、今のうちにお乳をしぼろう!」
「案外上手くいったな。言い出しておいてなんだけど、私達が可愛くて良かった」
そして、たくさんお乳をしぼってごくごく飲んだ。
「こ、これは、美味しい!」
「あまーい!」
「コクがあって、たまらない!」
結果、私達は大満足!
「モー!」
「え、何、牛さん。バトル中にいつでもミルクを出せるようにしてくれるって?」
「マイミ、のんびり牛の言葉、わかるの?」
「いや、なんとなく、フィーリングで」
「モー!」
「ありがとう、牛さん!」
こうして私達は、接客バトルでしぼりたてミルクも出せるようになった。
まる。




