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人員計画 【ジョゼ】

お方さまの知識には舌を巻いた。その後の説明を聞く限り、密輸の協力者は東国の者ではない可能性が高いらしい。東国の者が協力しているのなら、少なくともテーブルの輸出書類に箪笥とは書かない、と言われればその通りで、むしろ言われるまで気づかない己の迂闊さに落ち込むべきところだ。


「手が足りませんね」


と小隊長がうめけば、エイダさんも頷く。


「まさか初手から密輸犯を見つけるとは思いませんでした。店に潜らせるのは後日としても、

 見張る者と連絡する者、それらとは別に追跡する者を3人は欲しいですね」

「すぐに5人は無理だな。内通者を用意しよう。ルース」


それだけでルースさんは心得た顔で胸を張って、頷いた。なんでもルースさんは誰かの懐に入り込むのがとても得意なのだそうだ。情報を得られそうな相手を見繕うのも巧いのだとか。3日もあればあの店の内情が筒抜けになるはずだ、とのお方さまの弁に驚く。


「ここに大勢の人間はおけないからね。連れてくる人間は能力の高い者を厳選した」

「本当はうちの小隊がここの任務に就きたかったんですが」

「こんなところでいかつい男を10人も雇うのは、さすがに無理があるよ。任侠ならともかく」


小隊長が無念そうに言えば、お方さまは笑う。


「お二人は以前からのお知り合いでいらしたのですか?」

「わたしの死んだ夫は、この小隊の隊員だったんだよ。エイダもその頃からの付き合いだ。

 ちなみにブラッドとハンクは夫の同期でね」


お方さまはいつも通りの穏やかな表情だが、小隊長とエイダさんの顔に一瞬影がよぎったように思う。あまり深入りしない方がいい話題のようだ。


「ルースさんは情報収集の専門家、と。エイダさんは何がご専門なんですか?」

「私は現場の差配ね。潜入やつなぎの方法を決めたり、どこから侵入するのが良いか検討したりとか」

「あとは変装かな、エイダの特技は。侵入者と間違えて切りかからないようにね」

「…気をつけます」


意外性がありすぎる特技に、眩暈がしそうだ。なぜ法務官吏に変装が必要なのか。余りにも謎だ。


「いくら少数精鋭でも、護衛が1人ではさすがに少なすぎますよ。せめてあと2人は」


言い募る小隊長に、お方さまが微妙な笑顔で言った。


「それが、ブラッドがね。ご子息が寮に入れるようになったら、ジョゼと交代すると言うんだよ。

 ビーと一緒に護衛しながら、普段は執事をやるそうだ」

「それはない!」


見事に全員の声が揃った。任務を代わってもらいたいとは思っているが、さすがにブラッド隊長の執事は無理がある。あんな厳つい大男に出迎えられたら、客という客が回れ右して帰ってしまいそうだ。商売にならない。


「庭師…は木の枝を剣で整えていそうで怖いです。料理番…も食材を剣で切っていそうです。

 あの方に剣以外の刃物が想像できません」

「厩番ならギリギリ…無理ですね。迫力がありすぎます」

「どう考えても館勤め自体に無理がある。任侠商売ならともかく」


ルースさん、エイダさん、小隊長が口々に言う。ひどい言い草だが、まったく同感だ。俺の騎士団復帰計画が不安になってきた。お方さまが声を上げて笑う。


「庭師と料理番は、情報収集を兼ねて地元の人間を通いで雇うつもりだったから、却下だな。

 まぁ、わたしもブラッドの仕事は思いつかないが、その時には何か考えるよ。

 それにしても最初から賭場にでもしておけば、ブラッドでも小隊でも目立たずに済んだのに」

「やめてください。貴女が片っ端から金を巻き上げて、トラブルになるのが目に見えてます」


小隊長が顔をしかめ、エイダさんが激しく頷いている。こちらも過去に何かあったようだ。いずれ訊いてみよう。


「とりあえず東の集落から人を出してもらおうか。エイダ」

「はい。絨毯が届いたら向かいます。帰りは明日ですね」

「馬車とエイダを頼むよ、ジョゼ」

「承知しました。支度しておきます」


思ったより早く、訊いてみる機会が訪れそうだ。そう思っていると、小隊長が声からも表情を消して言った。


「ジョゼ。君は、ブラッドが来たらここの仕事を辞めるつもりなのか?」

「ハンク、ジョゼにだって待っている女の子の1人や2人いるだろう。ここに縛り付ける気はないよ」

「いや、恋人は居ませんが…」


思わず正直に答えてしまったら、全員から憐れむような眼で見られた。墓穴を掘ったようだ。お方さまがとりなすように言う。


「ならば尚更だな。ここでは出会いの機会も領都より減ってしまうだろうから。無理を言うな」

「…まぁ、無理にとは言えませんね」


ちょうどその時、絨毯の商人の訪いがあって、俺は書斎での護衛を小隊長に任せ、馬車の支度に出ることにした。何とか気まずい話題から逃れることができたようだ。

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