報告会 【ジョゼ】
大荷物を抱えて館に帰ると報告会だ。人足に扮した軍の小隊長も一緒に話を聞いて、司令官に持ち帰るらしい。
「ざっと確認したところ鳥の巣は枝の先より幹寄りに多く、蜘蛛は生け垣の奥に巣を張ってます。
今年は夏から秋の初めにかけて大風が来そうな気配と見ました」
「方角の予測は付くかな?」
「木や建物の南側に巣が多かったので、北から山沿いを来るかと」
まずはルースさんの報告だ。同じものを見たはずなのに、俺はさっぱり気付かなかった。ついで俺たちとは別に市場に行ったらしいエイダさんだ。
「市場を見て回ったところ、禁制品をいくつか発見しました。調度品などを買うという名目で、
明日から何人か商人を呼び寄せています」
こちらもさっぱり気づかなかった。こっそり落ち込む俺に気づいたのか、次官が言う。
「君たちが行ったのは生鮮市場だろう?エイダが回ったのは雑貨や布の店だ。
禁制品に気付く訳がない」
「え、生鮮市場にもありましたよ、禁制品。毒草売っててびっくりしました」
次官が片手で額を覆い、エイダさんはため息をついた。小隊長はちょっとうつむき加減で肩を震わせている。うん、次官のフォローが台無しだからな。
「ルース、そんなだからあんたは結婚できないのよ」
「関係ないじゃないですか!大体、結婚してたら今回ついてこられなかったかもしれないし。
結婚なんかしてなくてもいいんです!」
部下2人がやりあっている間に、次官の方は少し立て直したらしい。
「ジョゼは?何を見てきた」
「まずは館の外塀ですが、修理が必要な個所があります。
この広さを1人では全部に目が行き届かないので、防御に不安が残ります。
あとはこの町は水路が多いですね。有事の際の逃走経路として舟も検討に値します」
「ふむ、困った連中も舟で逃げる可能性があるか。水路の地図が欲しいところだね」
家の中を見て回っていたらしい小隊長は、
「外塀は明日来る連中が修理に取り掛かるよ。かなり危ない忍び返しを持参している。
問題は、この屋敷が私が預かっていた図面とはだいぶ造りが変わってしまっていることで」
「先の内戦時に、領内に内乱を持ち込んだお方の本拠地だからなぁ。
当然、領主に与えられた時とは相当造り替えたろう」
とんでもないことをサラッと流さないでほしい。
「抜け道もありそうなので、帰る前にすべて見つけ出しておきたいと思います」
「よろしく頼みます」
「あの、次官」
そう声をかけると、小隊長が小首をかしげた。
「その呼び方はやめた方がいいだろうな。身元を伏せてる意味がなくなる」
「ではソフィア様?」
「なるべく名前を出すのは避けたい。知ってる者がいる可能性がある」
今度は本人からダメ出しだ。
「巫女さまとか」
ルースさんが言うと、判りやすく厭な顔をしている。巫女として赴任させられても、なるべくなら自ら巫女を名乗るのは避けたいようだ。気持ちは解らないでもない。
「この館の主だから、お館さまでどうでしょう?」
「それならお方さまの方がいいな。女性らしく聞こえる」
エイダさんの提案に小隊長が修正を入れて、次官改めお方さまが改めて話の続きを促した。
「ここが内乱の本拠地とはどういうことですか?」
「ここは当時のご領主の弟君が住まわれていた。弟君は、内戦に加担して領主の座を狙った」
答えてくれたのは小隊長だった。お方さまは肩をすくめた。
「アレに敬称を付ける必要はないよ。いまだに後始末に苦労させられてるんだから。
まぁ、当時のご領主は弟を信じていたから、国内でも重要なこの拠点に代官として派遣した。
だが弟は兄を裏切った。この屋敷は領主の持ち物だから、当然造りは熟知されている。
そのままでは本拠地なのに守り切れない。だから改装した、という訳だね」
「はい。内壁が壊されて、壁内通路がなくなっています。抜け道も埋められているようです」
「困った話だ。2重の壁面なら断熱効果もあったのに。この冬はきっと寒いぞ」
いや、そういう問題ではないだろう。どこかのんきな上司に、俺は内心で頭を抱えた。