騎士と任務と 【ジョゼ】
「わたしの任務はこの領地に巣食う害虫を駆除することで、
それを完遂するために人を選んで連れてきた。君もその内だ。
我々の中で有事に生き残る可能性が最も高いのが誰か判るな?
君は何を犠牲にしても生きて戻り、御前会議に情報をもたらすんだ」
何の気負いもなく、至極当たり前のように紡がれる言葉。護衛として任務にあたりながら、当の護衛対象に自分を見捨てるよう言われるとは思いもよらなかった。
「…お言葉ですが、俺の任務は貴女の護衛です」
「そうか?それは見解の相違と言うヤツだな」
呆然とした頭からようやく絞り出した抗議は歯牙にも掛けてもらえず、スルッと受け流される。ダメだ。勝てる気がしない。
「持ち帰ってもらわねばならんから、君には情報を隠さないつもりでいる。
だから訊きたいことがあれば答えよう。…が、今は何も浮かばなそうだな?」
どこか面白そうな顔をしながら、お方さまは書斎を出て行った。いつでも質問に来るといいと言い残して。俺は呆然と書斎の長椅子で頭を抱え、気がついた時には空が白みかけていた。
頭は回らないまま、いつも通り馬の世話をする。いや、いつも通りのつもりだったが、広大な庭の一部に設けられた馬場に放された馬たちは、思い思いに散る前に何度も心配気に俺を振り返っていく。幾ら聡い生き物とはいえ、馬にも見透かされる自分にため息をついていると、声を掛ける人がいた。
「どうした?今更護衛が独りになることに臆したか?」
ハンク小隊長だった。
「それなら楽だったんですが…」
俺は昨夜お方さまが語ったことを、小隊長にぶちまけた。
「護られることを望まない方を、どう護れば良いのですか…!」
最後に意図せず零れ落ちた言葉は、掛け値なしに俺の本心だった。
仕事柄、俺にも死への覚悟はある。それは闘って抗って、結果的に命を喪うことになるとしても、最期まで生き抜こうとする覚悟でもある。だが、お方さまのそれは違う。命を引き換えにすることも、目的遂行のための手段の一つでしかない。相手と差し違えるなら本望だと言うだろう。
お方さまは勁い。だが、その勁さはどこか影があって投げやりだ。例えどれほど有能な護衛でも、その人を本人から護ることは不可能なのだ。
それが焦りの本質だと、口に出して初めて自覚した。
「…君の覚悟を疑って悪かった」
小隊長はとても哀しそうな顔をして、開口一番そう言った。
「ソフィアの態度も許してやってくれ。あいつの夜は、13年前から明けていないから」
「聴かせて頂けますか?13年前に何が起こったのか。俺には聴く必要があると思います」
一瞬目を伏せた小隊長だったが、少しずつ絞り出すように、ことの起こりを話してくれた。
だいぶ時間が経ってしまいました…




