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ジョゼと言う青年 【ソフィア】

「お前の護衛を決めたぞ」


ブラッドの言うことはいつも突然だ。


「いらん。勝手に決めるな」

「そう言うな。敵地に乗り込むんだろ?お前にも背中を預けられる相手が必要だ」


思いの外真剣な表情に、一応話を聴いてみる気になった。30年近い付き合いの中で、この男のこんな顔を見たのは片手で数えるほどだったから。


「生真面目で、年齢の割に腕は悪くない。馬にも長けている。

 何より目端が効く。お前には役に立つ」

「将来がある騎士を田舎で燻らせるなよ。いらん」


エイダは2年前に夫を見送った。子どもたちも独り立ちして、後顧の憂いがない。ルースは隣国の孤児だった。両親はその目の前で殺され、人身売買の組織に捕らえられていたのを保護したのだ。その生い立ちから、彼女は犯罪と犯罪組織をひどく憎んでいる。何も言わずとも薄々危険を察知しているだろうに、2人とも自ら志願して来た。


「やっぱりな。お前死ぬ気だろう。そうはさせないからな」


ブラッドが苦りきったをした。


「境界門の町まではハンクに送らせる。領宰と司令官が厳選した配下だけつけてな。

 これは御前会議の決定だ。そうでなくともレオに顔向け出来ないことをさせるな。

 あいつはずっとお前の護衛だったんだぞ。お前を生かすために生きたんだ」


立ち上がって背を向けたその顔は見えなかった。微かに声が震えていただけで。

だからその提案を受け入れたのは、古馴染みのそんな見慣れない姿に因るところが大きかったのだと思う。


数日後、初対面した青年は、見事に何も聞かされていないらしかった。騎士団に代々馬を納める牧場の末息子と言う、はっきりした身元。何よりこの若さなら確実に()()()()()()()()。あらゆる意味で安全な男だ。

その思惑は判るが、相手は躊躇いなく判事の公邸に火をかける連中だ。本人の知らぬ間に死地に送り込もうとは、ブラッドも酷なことをする。

彼は何としても帰してやらねばなるまい。多少の計画の変更は必要だが、何とかなるだろう。

そして胸の奥で密かに舌打ちする。ブラッドめ、これを狙っていたな?


あれからまだ一月も経たない内に、その青年、ジョゼは自分で何かを察して、今わたしに問うている。


「俺は何に備えたらいいのですか?」


任務のために命を掛けて憚らない目をした青年に、わたしは答える。旧友(ブラッド)の思惑とは違う、ある意味でそれ以上に酷な答えを。


「時が来たら、わたしを捨てても情報を繋ぐ備えを」

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