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釣り 【ルース】

「ほぅ、貴女のご主人、そんなに凄い方なんかい」

「そうよ!明らかに高貴な方々もお方さまのお話を伺いにくるんだから」


私はせいぜい得意に見えるよう、胸を反らして応える。大体、法務次官であるお方さまには、領宰どころか領主さままで意見を求めるのだから、一つも嘘は言っていない。市場は噂のるつぼだ。1週間もすれば境界門の町でお方さまを知らない者はいなくなるだろう。


「そんな偉いお方が、なんでこんな田舎町にお出でに?」

「託宣があったらしいの。詳しくは教えて頂けてないのだけど」


ここで、ここぞとばかりに声を潜める。


「でも日持ちする食物を2階に蓄えるよう言われたの。この一月の内に。

 コッソリ実家にも備えるよう知らせちゃったわ」


ここ10年の気象記録を調べたお方さまの見立てでは、台風は一月の内には来ないが、三月は待たないとの話だ。田舎町で余所者は好奇の的だ。こう言っておけば、聴き耳を立てている野次馬の中には、半信半疑でも備える者が出て来るだろう。

本人には災害時の緊急物資が手に入り、市場は俄かな需要で潤い、領は備える物資が減って、誰も損をしない。今日1日の作業としては、なかなかのものではないだろうか。

心中密かに自分の仕事に満足しつつ、ここはさらなる釣果を狙ってみる。


「まだ越してきたばかりで身の回りのものも揃ってないのに、大変よ。

 どこか部屋の中身をパパッと揃えられるお店はないかしら」

「あんなに大きなお屋敷なのに、備え付けの家具もないのかい?」

「内戦の時に接収されちゃったんですって。迷惑な話よね!

 お方さまは気に入ったものを揃えるといいと言って下さるけど、余り高いのもねぇ」

「へぇ、それは何とも太っ腹なご主人じゃないか!」


店主に笑顔で頷きながら、さりげなく周囲を見渡す。巧く何人か釣れたようだ。買ったものを屋敷に届けるよう頼んで店先を離れると、すぐに何人かに取り囲まれた。


「さっきの話を聴いてたんだけど、家具を揃えるならうちの店はどうだい」

「アンタのとこは若い娘さん向けのものなんて置いてないだろう!

 その点、アタシのところの店なら可愛くて手頃な家具が揃ってるよ」


いや、ウチが。うちの方が、と口々に言い立てるのに笑って返す。


「今日はもうお屋敷に帰らないといけないから、皆さんのお店を教えてよ。

 次の休みに回ってみるから」


そう言うと、続々と店のカードを手渡してくる。自分の紹介した客が何か買えば歩合が入るから、皆売り込みに必死だ。手元に集まったカードの中に、東通りのジェフの店を見つけてこっそりとほくそ笑む。本当に今日はいい釣果が上がったものだ。

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