目的 【ジョゼ】
「何か思うところがあれば、直接訊いてご覧なさい。きっと答えてくれるわ」
エイダさんの言葉にしばし固まっていた頭が動き出す。ただし混乱したままグルグルとだが。どう訊けばいいのだ?いや、そもそも何を訊くのか。焦っている様子が可笑しかったのか、エイダさんがクスリと笑った。
「エイダさんは思うところはないのですか?」
「あるわよ。そんなに独りで抱え込むことはないのにって思うわ」
そう言われて、俺はまた言葉を失う。何かがもどかしく、胸の奥に詰まっている。信頼されていないと思うせいか、自分が何も知らないせいか。
「エイダさんは何があると思っているんですか?」
「真相があるんじゃないかと思ってる。お方さまのご家族が亡くなったあの日の」
「あの日?」
エイダさんは過去に想いを馳せるように、今朝のマードックさんと同じ表情をした。
「13年前の判事公邸襲撃事件を知っている?」
「在ったことは知っています。子どもだったので詳しくは知りませんが」
「その時襲撃された判事がお方さまだったことは?」
愕然と硬直した俺を見ないまま、エイダさんが囁く。街道を行く馬車の上は決して静かではないのに、その声は何故かハッキリと耳に飛び込んでくる。
「判事の護衛部隊に内通者がいたのよ。査察の日を事前に教えて小遣いを得ていたね。
内通者がある時小遣い稼ぎをしようとした相手は、思った以上に過激だった。
自分の罪が明るみに出ない内に、判事を殺そうとした」
「内通者は捕まらなかったのですか?」
「捕まえたわ。そいつはね。だけどそれだけじゃないと思ってる。
そうでなければお方さまがあんなに硬い表情をしている訳がないもの」
エイダさんの横顔も硬い。そこにあるのは悔しさか、怒りか、それとも哀しみか。確かなのは、エイダさんがお方さまを心から案じているということだ。
「あの事件以来、お方さまの名前と功績は慎重に隠されている。
法務次官の功績は知っていても、それがお方さまだとは殆どの者が知らない。
そうなるまでに13年かけたの。…13年かけて闘う準備をしたのよ」
ようやくこちらを見たエイダさんは晴れ晴れとした顔で笑っていた。
「お方さまを『戦場に向かう騎士のようだと思った』と言ったわね。
まさにその通りよ。私たちは戦場に着いたの。ようやくね」
私たちという言葉は、エイダさんの決意の現れだ。エイダさんはお方さまと一緒に戦う。ならばその背中を守るのが護衛としての役割なのだろう。そうして漸く自分の心に気付く。
戦場に赴けば、危険の全ては避けられない。戦場とは敢えて死地に踏み込んでこそ、生きる道が見つかる場所だ。だからこそ。
俺は護衛対象を何から守るべきか、知りたいのだ。




