過去を繋ぐ 【ジョゼ】
「私は事務仕事が苦手でね。当時の法務次官補に事務の補佐が欲しいと頼んだんだ。
そうしたら配属されたのが当時10才のソフィアときた。さすがに驚いて、
若手で優秀な者とは言ったけど、いくらなんでも若すぎるだろうと文句を言ったよ。
それが1ヶ月もしないうちに訓練所内の横領犯を一網打尽にしてしまった。
開いた口が塞がらない私に、それ見た事かとニヤついていた次官補が今は領宰だ」
遠い目をしたオーウェンさんの昔話は、懐かしさの中にどこか痛みを感じるものだった。この人は怪我さえなければ、騎士団長では収まらない英才だったと聴いている。その痛みの向く先は、戻らない過去だろうか。それとも来なかった未来だろうか。
「アレで食生活が劇的に改善したものだから、訓練生から相当に感謝されてね。
逆恨みして彼女を狙った横領犯達は、訓練生が総出で退治に奮闘したんだ。
ちなみに一番張り切っていたのはブラッドだったな。
『俺たちのメシの恩人に何をする!』って怒鳴ってたのを思い出すよ。
クビにした料理人の代わりに、騎士団員の未亡人を据えたのもソフィアだよ。
今ではどの騎士団でも当たり前になっているけど、軍人なら誰でも考えるだろう?
『自分の亡き後』の家族の生活がどうなるかっていうのは。
その具体的な保証が急に目に見える形で示されたんだから、驚いたね。
正式に見習いになる頃には、多数の軍属の者がソフィアに味方していた」
謁見してから出立までの3日間に、時間の許す限り「法務次官」については調べた。「領地を代表する能吏」「他国籍の海賊を外交問題を起こさずに殲滅」「最年少の巡回判事」。法務次官の功績を語る話は山ほど耳に入った。しかしその次官がソフィアさまであることと、次官が具体的に何をしたのかは不自然なほど入ってこなかった。その間をつなぐ情報がここにある。
「私の指示だと思っていた輩もいたようだが、あれは間違いなく彼女の実力だった。
正規の見習いの年には領城に引き上げられてしまったから、
一緒に働いたのは2年ほどでしかなかったけれど、
それでも、私は彼女がその後どれだけ出世しても驚きはしなかったな。
…ただね、彼女は優秀に過ぎた。そして目立ち過ぎた」
オーウェンさんが苦い顔になった。出る杭は打たれるのが世の常だ。しかもその杭が飛び出しそうな勢いとあれば、さぞかし軋轢を生んだ事だろう。
「今の領宰も前領主のナサニエル様もソフィアに目を掛けていたし、
一緒に仕事をした者は味方につくことが多かったよ。何せ掛け値無しに優秀だからね。
ただその分、そうでない者には妬まれていたし、逆恨みも山ほど買った。
千人を救えば、その千人を食い物にしていた誰かに恨まれる。そう言う世界だ。
私も領宰もまだ若かった。彼女の才能を活かすことだけを考えていた。
地位が高ければ表立って警護出来るからと出世させたりね。
だけどそれはさらなる妬み嫉みを生んだだけだったよ。
結果的に子どもを守るべきだった立場の大人達が、揃って彼女を食い物にしたようなものだ。
小さな背中には負いきれないほどの責任を負わせ、家族まで奪ってしまった。
俺は彼女に大きな負い目がある」
オーウェンさんが静かに俺を見た。
「何かあったら呼んでくれ。今度こそ、何に引き換えても彼女を守る」
ああ、この人はまだ騎士なのだ。俺はそう思った。
PCが壊れて年表が消えました!
またブラッドの年齢から逆算しないと…。




