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第9話:あの女は一体何者なんだ~ルーク視点~

小さい時から公爵令息として一目置かれていた僕は、自分で言うのも何だが、頭もよく武術にも優れていた。


6歳で騎士団に入団して以降、同じ年の令息には負けたことが一度もないくらい強かった。さらに父親譲りの美しい顔も、女性陣から人気で、僕が見つめるだけで頬を赤らめる令嬢たち。そんな僕は7歳で、第一王女でもある従兄妹のファミアと婚約した。


まさに順風満帆な日々を送っていた。そんな僕を奈落の底へと突き落とす事件が起きてしまった。それは8歳の時、原因不明の高熱に襲われたのだ。熱が下がった後も、なぜか体が思う様に動かない。そして、体に緑の湿疹が現れ始めたのだ。


そんな僕の姿をみて、皆明らかに気持ち悪い物を見るような目で見て来る。今までキャーキャー言っていた令嬢たちも、キャーと言って逃げていく。


さらに僕の婚約者でもあるファミアには


「気持ち悪い!緑の怪物みたいですわ。私、こんな人と結婚なんて絶対にしたくないわ!」


そう言って泣き出す始末。確かに、僕は緑の怪物みたいだ。見る見る症状が悪くなった僕は、王都で有名な大病院に入院した。でも、どんなに優秀な治癒師が治癒魔法を掛けても、一向に良くならない。それどころか、どんどん悪化していくばかり。


そしてついに、僕とファミアの婚約も白紙に戻された。当然と言えば当然だ。僕の様な怪物と王女が結婚なんて出来る訳がない…


日に日に動かなくなっていく体。緑の湿疹もついに体中へと広がっていった。どんどん醜くなっていく僕に、母上は泣き叫び、父上は頭を抱えていた。看護師たちも、僕には極力触りたくないのか、分厚い手袋をして看護をする。


まるで僕が気持ち悪い怪物の様に…

いいや、様にではなく、怪物なのかもしれない…


どんどん悪化していく体、色々な治癒師が僕の治療を行うが、全く効果が無い。そんな日々が7年も続いた。ついに体が全く動かなくなった僕を見て、医師が


「もううちでは治療の施しようがありません。どうか、住み慣れた公爵家へ連れて帰ってあげてください」


そう言ったのだ。きっともう僕は助からないのだろう。そう思ったら、悔しくて涙が出て来た。僕みたいな醜い怪物でも、涙は出るのだな…


そして始まった自宅療養。明らかに気持ち悪い物を見るような目でこちらを見ているメイドたち。分厚い手袋をして、なるべく僕に触れない様に世話をしている。それが無性に腹が立って仕方がない。


そんなに気持ち悪いなら、もう放っておいて欲しい。どうせ僕はもうすぐ命を落とすのだ。そんな思いから、つい怒りをメイドたちにぶつけた。そのせいで、何人ものメイドが辞めて行ったが、知ったこっちゃない。僕はもう誰にも干渉されず、このまま人生に幕を下ろしたいのだ。


そう思っていたのに…


そんなある日、いつもの様に嫌そうに僕に着替えをさせようとしていたメイドを、怒鳴りつけていた時だった。


父上と母上と一緒に、治癒師という女がやって来たのだ。ストロベリーブロンドの髪に、青い目をした可愛らしい少女だ。こんな小娘が治癒師だって?どう見ても、僕と同じくらいの子供じゃないか!ついに父上も、頭がおかしくなったのか。そう思っていたのだが…


セリーナという治癒師は、あろう事か僕の服を脱がすと、体を素手で触ったのだ。それもためらいもなくだ!


「おい、何をするんだ!お前も手袋を付けないと、この恐ろしい病気が移るぞ!」


そう叫んだのだが、無視して僕の体を触り続けている。すると、急に僕に手をかざし、治癒魔法を掛け始めた。柔らかくて温かな光が体中を包み込む。正直今まで色々な治癒師に治癒魔法を掛けられたが、これほどまで温かく気持ちがいい光は初めてだ。


そして、少しずつ湿疹が薄くなっていくではないか。でも、途中で魔力切れを起こしてしまった様だ。


治療が終わった後、なぜか手が物凄く軽くなった。まさかと思って動かしてみると、動くではないか。嘘だろ…


こんな小娘の治癒魔法が、僕の体を少なからず改善させただと…


信じられないが、事実の様だ。どうやら父上も母上も、この小娘の治癒力を完全に買った様で、住み込みで治療してもらう事にした様だ。


それにしてもあの女、僕の体を一切ためらいもなく触っていた。それに、あの目。僕を一切気持ち悪いと感じていない様な目だった。


今まで色々な人間に会って来たが、あんな目で僕を見たのは両親以外初めてだ。あの女は一体何者なのだろう…


そして迎えた昼ご飯の時。相変わらず嫌そうに食事を運んで来るメイドたち。その様子を見たら、また無性に腹が立ってきた。有難い事に手が動く。料理が並んでいる皿を手に取ると、メイドたちにぶつけた。


「僕の事を気持ち悪いと思っているんだろう?だったらご飯なんか与えずに放っておけばいいだろう!」


毎回毎回気持ち悪い物を見る目で見やがって、怪物の世話がそんなに嫌なら、もう放っておいてくれ!そんな思いが体中から沸きあがる。騒ぎを聞きつけた母上がやって来たが、母上にも暴言を吐いてしまった。


一瞬罪悪感が体を支配する。僕はなんて親不孝なんだろう。だからこそ、僕はこの世から去った方が、父上にとっても母上にとっても良いんだ!


その時だった。


「一体どうされたのですか?」


やって来たのはあの治癒師だ。あろう事か、僕に食べ物を粗末にするなと説教を垂れたのだ!こんな小娘に、僕の気持ちが分かるものか!そんな思いから


「うるさい!僕に文句を言う暇があるなら、さっさと治してくれ!早く治さないと、あんたにも移るぞ!僕に素手で触ったのだからな!」


そう言ってやった。そうだ、この女は僕に素手で触ったんだ。きっと後で僕を恨むのだろう…


そう思っていたのだが、どうやら僕の病気は、寄生虫に侵された事で発症したらしい。そしてその寄生虫は食べ物を介してしか移らないから、触っても移らないと言って、僕の手を握って来たんだ。


温かくて柔らかな感触が手から伝わる。こんな風に誰かに触れたのは、何年ぶりだろう。両親にすら、移るかもしれないからと言って触れられた事などなかった。


さらに僕の服にスープが付いているからと、着替えさせてくれた。もちろん、素手でだ。まるで1人の人間を看護する様に、当たり前の様に僕に触れて着替えさせてくれる彼女。


僕は緑の怪物なのに、どうしてこの子は僕に普通に触れられるのだろう…

そんな思いから、思いきって彼女に、僕が気持ち悪くないのか聞いてみた。


すると

「どうして気持ち悪いのですか?あなたは病人です。病人を気持ち悪いと思った事は、一度もありません!」


そう言い切ったのだ。その言葉には、嘘偽りなどどこにもない。きっと彼女は、本当に僕の事を気持ち悪いと思っていないのだろう。そう思ったら、心の奥が温かくなった。


着替えが終わると、今度は嫌いな魚料理が運ばれてきた。絶対に食べないぞ!そう思っていたのだが、彼女によってどんどん口に運ばれていく。もちろん、僕がきちんと飲みこんだのを確認してから、口に放り込んでいくのだ。


気が付いたら全て食べ終わっていた。あれ?魚って、こんなにおいしかったかな?そう思う程、自然に食べられた。そして全て食べ終わると、何を思ったのか、僕の頭を撫でたのだ。


まるで子供を褒めるかのように、優しい笑顔で。

その笑顔を見た瞬間、鼓動が早くなり、体中の血が沸き上がる様な感情を抱いた。恥ずかしくて、つい手を振り払ってしまったが、まだ心臓はドクドクしている。こんな気持ちは生まれて初めてだ。


そんな僕をよそに

「とにかく、これからも好き嫌いをせずに食べてくださいね!いいですか?明日また治療に来ますから!」

そう言って去って行った彼女。あの女は、本当に一体何なんだろう…

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