第8話:ルーク様は超絶イケメンでした
治療を初めてから、1ヶ月半が経過した。体の湿疹は、もう完全に引いて行った。残すところは顔だけだ。
「ルーク様、今日から顔を中心に治癒魔法を掛けて行きますね」
「ああ、そうしてもらえると助かるよ」
さっそく顔に治癒魔法を掛ける。少しずつ湿疹が薄くなって行くが…
「ハーハー、魔力切れです。申し訳ございません」
「セリーナ、いつもありがとう。別に急いでないし、ゆっくりでいいよ。それにしても、どうやら顔が一番治りにくいみたいだね」
「そのようですね。でも顔の湿疹を早く治さないと、いつまでたってもルーク様が外に出られませんわ!」
「別に僕はセリーナさえいてくれたら、外に出なくてもいいのだが…」
「ん?何か言いましたか?」
「いいや、別に何でもないよ!それよりセリーナ、先週から父上に領地について色々と教えてもらっているんだよ。僕も15歳だからね。いずれは公爵家を継いでいかないといけないんだ」
そう言えば、ファーレソン公爵家の子供はルーク様1人ですものね。ルーク様が公爵家を継ぐのは普通の流れだ。きっと完治したら、次期公爵様として社交界にも出て行くのだろう。聡明なルーク様なら、社交界でもきっと人気者になる事間違いなしね。
そう考えたら、また胸の奥がチクリと痛んだ。一体この痛みは何なんだろう。
「ルーク様なら、立派な公爵様になれますわ!その為にも、しっかり治療しないといけないですわね」
「そうだね、そうそう、家の領地は物凄く広いんだよ。それに比較的暖かくて、美味しい果物がたくさん取れるんだ。大きな湖もあってね。そこには色々な鳥や魚もいるんだよ!いつかセリーナも連れて行ってあげるからね。きっと気に入ると思うよ!」
公爵家の領地か、きっとその“いつか”は一生来ないだろう。それでも、連れて行ってあげると言ってくれたルーク様の言葉は、有難く頂いておこう。
「ありがとうございます。ルーク様」
2人で少し話をした後は、ルーク様は稽古場に稽古をしに向かった。私はなぜか夫人に呼び出された。
「セリーナ先生、急に呼び出してごめんなさい!ちょっと洋服ダンスを整理していたら、若い頃に着ていた私のドレスが沢山出て来たの!あなたに似合うかなって思って」
なぜか満面の笑みを浮かべる夫人と、近くに控えているメイドたち。何が何だか分からないまま、私は次々にドレスを着せられていく。
「まあ、やっぱりよく似合うわ。次はこれね」
着せられては脱がされ、着せられては脱がされの繰り返しで、さすがに疲れた。そろそろ解放して欲しい、そう思っていたところに、ルーク様がやって来た。
「母上、セリーナを知らないかいって、一体何をしているんだ!」
「何って、セリーナ先生に私の若い時のドレスを着てもらっているのよ。セリーナ先生、とても奇麗でしょう」
既にぐったりの私は、なぜか髪もアップにされ、化粧までされていた。
「本当だ。物凄く奇麗だよ!やっぱり伯爵令嬢の事だけはある。本当に美しいよ」
なぜか絶賛の嵐だ。多分お世辞だろうが、褒められるとやっぱり嬉しい。
「今度のダンスパーティーはこれで決まりね」
ん?ダンスパーティー?
「夫人、ダンスパーティーとは何ですか?」
「何でもないのよ。さあ、そろそろお昼ね。セリーナ先生、ドレスを脱ぎましょうか。ほら、ルーク、あなたは外に出ていなさい」
そう言ってルーク様を外に出した夫人。何とか解放され、昼食を食べる。午後は勉強とルーク様のお昼寝タイムにつき合い(もちろん枕として)夜の治療を行う。
一気に治癒魔法を掛けて行く。夜は調子がいいのか、随分肌色の部分が見えて来た。そして、それと同時にむくみも取れていく。
「ハーハー、どうですか?ルーク様!ん?ルーク様?」
なぜか私の言葉に反応せず、鏡を見つめている。一体どうしたのかしら?ルーク様の顔を覗き込むと、随分湿疹が改善されたルーク様の姿が目に飛び込んできた。
嘘…
スーッと伸びた鼻。長いまつ毛。ふっくらした柔らかそうな唇。どこからどう見ても、超絶美少年だ。今までは肌全体が緑の湿疹に覆われていた為、目か肌がよく分からなかったグリーンの瞳もまた、美しさを強調している。ただ、やっぱりところどころ、緑の湿疹は残ってはいるが…
「ルーク様は超絶美少年だったのですね。これなら、すぐに婚約者が見つかりますよ。公爵家も安泰ですね」
こんなにカッコいいのだ。きっと完全に治れば、令嬢たちが放っておかないだろう。そう思ったら、また胸がチクリと痛む。
「どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんだい?もしかして、セリーナは僕の顔を見てガッカリしたのかい?全然タイプではないとか?」
なぜか物凄い勢いで詰め寄られた。
「いいえ、とてもカッコいいと思いますよ。あまりにも美し過ぎて、近寄りがたい印象はありますが…」
今まで見たどの男性よりカッコいい。カッコよすぎて、逆に恐れ多い。それにしても、私は今までこんな美少年の治療をしていたのね。体を触ったり、手を握ったり、やりたい放題していたわ。
そう考えたら、一気に顔が赤くなった。いくら治療とはいえ、ちょっとベタベタ触りすぎていたわね。私ったら、何をやっていたのかしら!
「セリーナ、近寄りがたいだなんて言わないでくれ。僕は僕だよ。それに、顔が赤いよ。どうしたんだい?」
そう言うと、私のおでこに触れたルーク様。一気に熱が上昇する。
「う~ん、なんだか少し熱いね。今日は早く休んだ方がよさそうだ」
そう言うと、私を抱きかかえた。
「あの、自分で部屋まで戻れます」
そう叫んだのだが
「何を言っているんだ!君は熱があるかもしれないんだ。僕が部屋まで運ぶよ。そうだ、いつも治療してもらっているから、僕が看病をするよ」
そう言うと、嬉しそうに笑ったルーク様。
「私は病気ではございません。そもそも、病気なら自分で治癒いたしますので、看病は必要ありませんわ!」
そう叫んだのだが、全く聞こえていないのか聞いていないのか、さっさと部屋まで運ばれ、ベッドに寝かされた。そして、野菜スープを食べさせてくれたり、眠るまで手を握ってくれたりと、それはそれは献身的に看護されたのであった。