第7話:ルーク様も大分元気になって来ました
治療を始めて1ヶ月が過ぎた。すっかり体調が戻ったルーク様は、最近は武道場で竹刀を振るったり、打ち合いをしたり、攻撃魔法を使ったりと稽古に打ち込んでいる事も多い。病気になるまでは、騎士団にも所属していたとの事。
ちなみに緑の湿疹も随分と消えてなくなって来た。後は背中とお腹の一部、それと顔全体に残っているぐらいだ。
きっと顔が一番早く消えて欲しいと思っているのだろうが、どうやら最後の様だ。早く治してあげたいと思っているのだが、どうしても治療には時間が掛かる。
最初は怒鳴る事も多かったルーク様だが、最近は随分と落ち着いた。それに随分と笑顔を見せてくれるようにもなった。
そしてなぜか公爵様と夫人からは
「ルークがこんなに元気になったのは、セリーナ先生のおかげです。あなたは治癒の女神だ!」
と、崇められている。別に女神でも何でもない、ただの治癒師なのだが…
随分とよくなって来たので、そろそろ診療所の仕事に戻りたいとやんわり伝えたのだが
「まだルークは完治していない!完治するまでは、治療に専念してもらいたい。完治してからも、しばらくはここにとどまって、ルークの様子を観察してもらいたいと思っているんだ!とにかく診療所には話は付けてあるから、安心して欲しい!」
そう言われてしまった。公爵様にそう言われては、私はどうする事も出来ない。仕方がないので、そのままここでお世話になっている。
「セリーナ、どうしたんだい?難しい顔をして」
武道場で稽古を終えたルーク様が話しかけて来た。
「ルーク様もすっかり元気になられたし、私がわざわざここで住み込みをしてまで、治療をする必要も無くなって来たなと思っていたのです」
「何を言っているんだ、セリーナは!そもそも、まだ僕の顔の湿疹も治っていないんだよ!それに、たとえ湿疹が消えても、しばらくはここにいてもらうつもりだ。再発する事もあるかもしれないからね。それとも、ここにいるのが嫌なのか?もしかして、会いたい男でもいるのか!」
なぜか物凄い勢いで詰め寄って来るルーク様。
「そんな相手はいませんわ。それに、ここでの生活は快適そのもの。だからこそ、申し訳なく思ってしまうのです」
「そんな事は思わなくてもいい!とにかく、僕が良いと言うまでは、ここに居てもらうからね!」
凄い勢いで迫られた。まあ、ルーク様がそう言うなら、それでもいいか。
「とりあえず、僕はシャワーを浴びて来るから、その後一緒に昼食を食べよう」
そう言って、一足先に部屋に戻るルーク様。本当に、随分と元気になったものだ。きっと近いうちに湿疹も消えるだろう。完全に治れば、私がもうここに来る事も無くなるのね…
そう思ったら、胸の奥がチクリと痛んだ。なんだ、この痛みは?きっと気のせいね。とにかく今は、早く湿疹を治す事に専念しないとね。
ルーク様の部屋に向かうと、ちょうどシャワーを浴びて出て来ていたところだった。それにしてもこうやって見ると、ルーク様はかなり美しい肉体をしている。肌もほとんど肌色に戻っている事もあり、とにかく美しい。
そう思ったら、一気に顔が赤くなるのが分かった。私ったら、何赤くなっているのよ。いつもルーク様の裸なんて、治療で見ているじゃない!そう自分に言い聞かせるが、なぜか全然引いて行かない。
急いでルーク様に背を向けた。
「どうしたんだいセリーナ。顔が真っ赤だよ。もしかして、僕の裸を見たら、恥ずかしくなったの?」
そう言ってクスクス笑っている。
「べ、別にそんな事はありませんわ。それより、早く服を着てください!」
そう伝えたものの、何を思ったのか、そのまま私を抱きしめて来た。
「ちょ、ちょっと、ルーク様。何を考えているのですか?離して下さい」
そう訴えているのに、一向に放してくれない。少し硬くがっちりとした胸板の温もりが、ダイレクトに伝わる。これはマズい!
「へ~、いつも冷静なセリーナでも、こうやって赤くなったり動揺するんだね」
そう言ってクスクス笑っている。もう、人をからかって!
「いい加減にしてください!ほら、お昼ご飯の時間ですよ。早く着替えて!」
「わかったよ。前から思っていたけれど、怒った顔も可愛いね」
か、可愛いですって!!一気に顔が赤くなる。どうやら私をからかって喜んでいる様だ。
「人をからかうのはお止めください!ほら、早く服を着て!」
やっと服を着てくれたルーク様。なんだか疲れたわ。2人でお昼ご飯を食べ、午後は2人でなぜか勉強タイムだ。
夫人が
「セリーナ先生も伯爵令嬢なのだから、お勉強は大切よ!それに、ルークも1人より先生がいた方が、勉強がはかどるみたいだから一緒に受けて下さいね」
そう言った為、なぜか私も勉強させられているのだ。
「ほら、セリーナ。ここ間違っているよ。ここはこうだよ」
「あら、本当ですわ。それにしても、ルーク様はお勉強がとても得意ですのね。私はどうやら苦手な様です」
「何でも完璧にこなすイメージがあるセリーナにも、苦手なものがあるんだね」
そう言ってクスクス笑うルーク様。
「ルーク様こそ、何でも完璧にこなすではありませんか。勉強も武の方も、完璧ですわ」
「セリーナに褒められると嬉しいな。そんな風に言われると、もっと頑張ろうという気になる」
そう言って再び勉強を始めたルーク様。私も負けじと頑張るが、やっぱり苦手な様で、よくわからない。
勉強の後は、ルーク様と一緒にティータイムだ。その後、私の膝を枕に仮眠をとるルーク様。
「セリーナの太ももは柔らかくて気持ちがいい」
そう言っていつもグーグー寝ている。完全に私の太ももを枕だと思っている様だ。確かに公爵家に来てから少し太ったものね。ダイエットでもしようかしら?
それにしても、随分のんびりとした生活をさせてもらっている。きっとそんな生活も後少しね。早くルーク様を治して、通常の生活が出来る様にしてあげないと。
でも…
ルーク様が完治するという事は、私は用済みという事。そう考えたら、また胸の奥がチクリと痛んだ。この痛みは、一体何なのだろう…