久しぶりに熱を出しました
シャディソン公爵領から帰った翌日、朝目覚めるとなぜか体がだるい。もしかしてこれは!急いで治癒魔法を掛けるが、全く効かない!どうやら風邪を引いてしまった様だ。
そう、私は風邪を引くと一時的に魔力が落ち、治癒魔法が使えなくなると言う欠点を持っている。風邪なんて引いたのは何年ぶりかしら?久しぶりにだるいわ…
でも1日ゆっくり休めば、次の日には元気になっている事も多い。ちょうど今日は仕事も休みだし、ゆっくり寝ていよう。そう思い、再び目を閉じようとした時だった。
コンコン
「あら?セリーナ様がまだベッドの中だなんて珍しいですね」
専属メイドのミレアが不思議そうにこちらを見ている。
「実は体がだるくて…今日1日ゆっくり休んでいるわ」
そう、寝ていれば治るのだ。
「まあ、それは大変ですわ!熱はあるのですか?」
私に駆け寄り、おでこを触っている。
「かなり熱いですね。それに顔も真っ赤ですし!少しお待ちください」
急いで出て行くミレア。しばらくすると、物凄い勢いでルーク様が入って来た。
「セリーナ、熱があるのだって!」
私の元に駆け寄ると、すかさずおでこを触る。
「あぁ、何て事だ!シャディソン公爵領ではかなり無理をしたから、ここに来て一気に疲れが出たんだな!セリーナ、治癒魔法で治せるかい?」
「それが、風邪を引くとなぜか治癒魔法が使えなくなるのです。でも1日寝ていれば元気になりますので、大丈夫ですわ。申し訳ございませんが、今日はゆっくり休ませて頂きますね」
とにかく早く眠りたい。
「そうなのか!分かった、それじゃあ今日は僕がセリーナの看病をするよ!今日もディオの元には母上に行ってもらう事にしよう!少し待っていてくれ」
そう言うと、物凄いスピードで出て行くルーク様。ルーク様が看病してくれるのか。それは嬉しいわ。でも、今はゆっくり寝たいのだけれど…
しばらくすると、食事を持ったルーク様が戻って来た。
「セリーナ、まずは食事をしよう。病気の時はしっかり食べないと治らないからね」
そう言って私を起こしてくれた。さらに食べやすそうなスープを準備してくれている。
「ありがとうございます。お忙しいのに私の為にごめんなさい」
「何を言っているんだ!君は僕の大切な大切な婚約者なんだ!そもそも、僕は君のおかげで元気になれたんだ!正直今日セリーナを看病出来る事が嬉しくてたまらないんだよ。ほら、あ~んして」
本当に優しいルーク様。口を開けると、スープを口の中に入れてくれた。でも、なんだか食欲がない。せっかくルーク様に食べさせてもらっているのに、結局3口ぐらいしか食べられなかった。
「あぁ、何て事だ!ほとんど食べていないじゃないか!今すぐ治癒師を呼ぶから待っていてくれ!」
すぐに近くにいたメイドに指示を出そうとするルーク様。
「お待ちください!治癒師は大丈夫です。私の場合疲れから来ていると思うので、寝ていれば治ります。そもそも私も治癒師なので、自分の体の事は自分がよく分かっていますわ。だからどうか治癒師を呼ぶのはお控えください」
ただでさえ治癒師は多忙だ。そんな治癒師を、わざわざ疲れから体調を崩した私の為に呼びつけるなんて申し訳ない。そもそも私は寝ていれば治るのだ!
「分かったよ、セリーナがそう言うなら、治癒師を呼ぶのは止めよう。少し眠った方がいいね。さあ、ゆっくりお休み!今日はずっとセリーナの側にいるからね。そうだ、セリーナが安心して眠れる様、添い寝をしてあげよう」
なぜかベッドに入り込むルーク様。この人は何を考えているのだろう…
「ルーク様、1人で寝られますわ。それに、万が一ルーク様に移してしまうと大変ですから」
「セリーナの風邪ならぜひ貰いたいよ!それでセリーナが楽になるならね。それにもし僕が風邪を引いても、セリーナが治してくれるだろう」
にっこり笑ってそんなおバカな事を言うルーク様。
「お坊ちゃま、それではセリーナ様がゆっくりお休みになれないのではないでしょうか。お1人でゆっくり休ませてあげた方がよろしいかと…」
近くに控えていたルーク様専属の執事が、見かねて助け舟を出してくれた。
「そうか…分かったよ。それならずっと手を握っていよう!」
とりあえずベッドから出たルーク様に手を握られた。やっとゆっくり眠れそうだ。ゆっくり目を閉じると、あっという間に眠ってしまった。
う~ん、なんだか温かい…
ゆっくり目を開けると、目の前には私を抱きしめているルーク様が一緒に寝ていた。側にいたメイド達を見ると、ゆっくり首を横に振っている。きっとメイドが止めるのも聞かず、私の布団に入り込んだのだろう。
ふと周りを見ると、おでこを冷やすタオルが転がっていた。きっとルーク様なりにしっかり私を看病してくれていたのだろう。そう思ったら、なんだか嬉しくてそのままルーク様の眠るベッドへと潜り込んだ。
そう言えば、体ももうだるくない。きっともう治ったのね。念のため自分に治癒魔法を掛けてみる。よし、普通に使えるわ。これで完全復活ね。外を見ると、薄暗くなっていた。どうやら夜まで眠っていた様だ。そう言えばお腹が空いたわ。早速ルーク様と一緒に食べよう。
「ルーク様、起きてください!ルーク様!」
ルーク様を揺するとゆっくり目を開け、グリーンの美しい瞳と目が合った。その瞬間、物凄い勢いで飛び起きるルーク様。
「ごめんセリーナ、いつの間にか眠ってしまった様だ!」
「ルーク様、私を一生懸命看病してくれていたのでしょう?ありがとうございます!ルーク様のおかげで、すっかり元気になりましたわ!」
「それは本当かい?良かった!」
嬉しそうに私を抱きしめるルーク様。
「元気になったら、お腹が空いてきました!早速晩ご飯を一緒に食べましょう」
「そうだね!でもセリーナは病み上がりだ。すぐにここに料理を運ばせよう。もちろん、僕が食べさせてあげるからね」
その後、ルーク様に食べさせてもらいながら、夕食を楽しんだ。夜、ルーク様が私を心配して同じベッドで寝ようとしたものの、お義父様が無理やりルーク様を部屋に連れて行った。
「放せ!またセリーナの体調が悪くなったらどうするんだ!」
そう叫んでいたが、婚前前に一緒に寝るのは良くない!と、お義父様に一喝されていた。そう言えば、シャディソン公爵邸の最終日、一緒に寝たけれどこれは内緒にしておこう。
翌日、すっかり元気になった私。でもその代わり、ルーク様が体調を崩してしまった。
治癒魔法で治そうとしたのだが
「セリーナに看病して欲しい!」
という強い要望を受けた為、これでもかという程甘えまくるルーク様の相手をしつつ、必死に看病する事になったのだった。




