婚約披露パーティー当日を迎えました
「セリーナ様、そろそろパーティーの準備を行いましょう」
朝早く起きて1人で本を読んでいると、ミレアが呼びに来た。ルーク様と婚約を結んだ後も、私のお世話はミレアがしてくれている。
早速湯あみをし、体をキレイにした後はドレスに着替える。私好みのシンプルなデザインのドレスだ。そう、前回ルーク様のおかげで何とかお義母様の暴走を止め、手に入れたドレス。
さらにアクセサリーを付け、髪もアップにしてもらえば出来上がり。
「セリーナ様、とっても美しいですわ!この前のドレスも素敵でしたが、セリーナ様はどちらかというと、シンプルな方がお似合いになりますわね」
「ありがとう。私もシンプルなデザインの方が好きだから、そう言って貰えると嬉しいわ」
「さあ、そろそろお時間ですよ。皆様の元に参りましょう」
今日の会場ももちろん、ファーレソン公爵家だ。でも今回は昼間に公爵家の中庭で行う。有難い事に、雲一つない晴天だ。なんだか天気にも祝福されている気がして、心が温かくなる。
部屋から出ると、ルーク様と出くわした。
「今迎えに行こうと思っていたところなんだよ。それにしても、今日のセリーナは、また一段と奇麗だ。やっぱりシンプルなデザインにしてよかった。とてもよく似合っているよ」
「ありがとうございます。ルーク様もその青いスーツ、よく似合っていますわ」
ルーク様は私の瞳の色と合わせた、青色のスーツを着ている。今日のルーク様も、物凄くカッコいい。ルーク様的には私のドレスの色と合わせたかった様なのだが、悩んだ末結局お互いの瞳の色の服を着る事になったのだ。
「それじゃあ、そろそろ会場に行こうか。父上や母上も待っているよ」
ルーク様にエスコートされ、会場へと向かう。いつも奇麗に手入れされている中庭だが、今日はパーティー仕様になっている。いくつものテーブルと椅子が並べられ、お料理を置くスペースも準備されていた。
「セリーナちゃん、ルーク、こっちよ」
お義母様とお義父様、さらに家の両親と弟や妹たちもいる。
「あ~、ルークお兄様だ!」
ルーク様を見つけると、嬉しそうに飛んで来る弟や妹たち。相変わらず私は蚊帳の外だ。
「皆、今日も元気だね」
「ルークお兄様、一緒にお花を見ましょう」
「ダメだよ、ルークお兄様は僕と一緒に剣の練習をするんだよ」
「ルークおにいちゃま、だっこ」
一斉にルーク様に群がる弟や妹たち。
「コラ、お前たち!今日はセリーナの婚約披露パーティーだから、大人しくしていると約束しだろう!」
「まあまあ、いいではありませんか伯爵。それにしても、ルークは随分とセリーナちゃんの弟や妹たちに懐かれているのね」
そう言ってクスクス笑っているお義母様。結局公爵家の使用人たちが機転を利かせてくれ、弟や妹たちの相手をしてくれたので、何とかルーク様は解放された。
「ルーク様、毎回毎回、弟や妹たちがごめんなさい。なぜか姉の私よりルーク様を慕っている様で…」
本当にルーク様がいると、私に寄り付きもしないんだから!
「僕は大丈夫だよ。逆にあんな風に懐いてくれて嬉しいんだ」
優しいルーク様は、いつもこう言ってくれる。でも、やっぱり申し訳ない気持ちになる。
「さあ、そろそろお客様がいらっしゃる頃よ。ほら、いらしたわ。私たちはとりあえず挨拶をして来るから、あなた達は奥に行っていなさい」
今回は私とルーク様の婚約披露パーティーという事もあり、参加者が揃ってから登場するのだ。
「ルーク様、沢山の貴族が来ていますわ。大丈夫かしら?」
あまり人前に出る経験なんかない私は、既に軽くパニックを起こしている。
「大丈夫だよ。セリーナ。紹介は司会者がしてくれるし、挨拶も僕がするから、君は隣で笑っていればいいよ」
そう言って私に口付けをするルーク様。もう、こんな時に口付けだなんて!
「ルーク様、セリーナ様、そろそろお時間です。ご準備はよろしいですか?」
司会者が呼びに来た。いよいよね。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。今日の主役でもある、ルーク・ファーレソン公爵令息とセリーナ・ミルトン伯爵令嬢のご入場です」
司会者の紹介で、ルーク様と腕を組んで入場していく。
「セリーナ、表情が硬いよ。笑って」
耳元でルーク様が呟く。笑えと言われても、こんなにも沢山の貴族の前で笑えないわ。そう思いつつ、何とか笑顔を作る。
「本日はお忙しい中、私、ルーク・ファーレソンとセリーナ・ミルトンの婚約披露パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。まだまだ未熟な2人ですが、どうぞよろしくお願いします」
ルーク様が頭を下げたのに合わせ、私も頭を下げる。周りから大きな拍手が沸き起こった。どうやら挨拶は終わった様だ。
その後は1人ずつ挨拶をしていく。3ヶ月間、必死に名前と顔を覚えたおかげか、参加者ほとんどの人の名前と顔が分かる!
さらに
「セリーナ様、今日はまた一段とお美しいですわ。そうそう、今度また家でお茶会を開きますの。ぜひ来てくださいね」
と言ったように、積極的にお茶会にも参加している為、軽く話を交わす程度の令嬢も出来た。ただ、やはりまだ令嬢や夫人特有のお茶会には慣れないが、何とか頑張っている。
その後も、シャディソン公爵夫妻や王太子夫妻などとも挨拶を交わした。王太子妃のビアンカ様も、大きなお腹をしてわざわざ参加してくれた。
実はビアンカ様とは王女様断罪事件以降、すっかり仲良しになった。よく王宮にも遊びに行っている。ビアンカ様も、令嬢や夫人特有のお茶会が苦手な様で、話しも合うのだ。
何だかんだで何とか婚約披露パーティーも終わり、クタクタで自室に戻って来た。
コンコン
「セリーナ、疲れているところ悪いが、少しいいだろうか?」
訪ねて来たのはルーク様だ。
「ええ、大丈夫ですわ」
「セリーナ、15歳のお誕生日おめでとう!」
そう言って美しい虹色のバラと、小さな箱を手渡してくれたルーク様。そう言えば今日は、私の誕生日だったわ。すっかり忘れていた。
「ルーク様、ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「もちろんだよ!」
箱を開けると、そこには大きなエメラルドの宝石が付いた指輪が入っていた。この国では、大切な人に自分の瞳の色と同じ指輪をプレゼントする習慣がある。
「ルーク様、ありがとうございます!それにしても、奇麗なエメラルドですね」
早速指に付けてみる。
「セリーナ、エメラルドは別名“愛の石”とも言われているんだ。この指輪がある限り、僕達はきっと幸せになれるよ」
そう言って嬉しそうに笑ったルーク様。愛の石か!なんだか素敵ね。
「ルーク様、今日は今までで一番素敵な誕生日ですわ。これからもずっと私の誕生日を祝ってくださいますか?」
「当たり前だよ。来年のセリーナの誕生日は、僕達の結婚式だね。今日よりももっと大きなエメラルドを贈るよ」
「これよりも大きいものですか?」
今私の指に付いているエメラルドも随分と大きいのだが、これよりも大きいのか。
「それなら、私もルーク様のお誕生日には、大きなサファイアの指輪を贈りますね」
「それは楽しみだ。でも、僕は宝石よりも、セリーナが側にいてくれる方がいいな」
「まあ、ルーク様ったら!」
嬉しくてルーク様にギューッと抱き着いた。きっとこれから先、毎年素敵な誕生日を迎える事になるのだろう、もちろん、ルーク様の誕生日もね。




