やっぱりセリーナは最高だ~ルーク視点~
セリーナと正式に婚約を結んでから、1ヶ月が経った。2ヶ月後に控えた婚約披露パーティーの準備を、今急ピッチで進めている。
毎日セリーナと一緒にいられて、幸せは幸せなのだが…最近セリーナとの時間が減ってしまった様な気がする。セリーナは1週間に3日、大病院の治癒師として働いている。本人がやりたいなら、そう思っていたのだが、最近帰りが遅い日も多い。
大病院という事もあり、忙しいのは分かる。でも、あまり遅いとは困る。そして今日もセリーナは仕事に向かおうとしている。
「ルーク様、今日は出来るだけ早く帰って来ますから」
「セリーナ、毎回そう言うが、いつも遅くなるだろう。君はこれから次期公爵夫人になるのだから、その事もしっかり考えて仕事をして欲しい」
あぁ、どうして僕はこんな事しか言えないのだろう。つい、セリーナに嫌味を言ってしまった。こんな事言われたら、セリーナも嫌だよな…
「ルーク様、ごめんなさい!お勉強の方もしっかり頑張りますから。それでは、行って参ります」
そう言って、セリーナは僕に口付けをして馬車に乗り込んでいった。セリーナが一生懸命勉強をしているのも知っている。
家庭教師からも
「セリーナ様は本当に頑張り屋で優秀ですわ!ある程度のマナーは出来ておりますので、後は実践をつめば良いかと」
そう言われているくらいだ。
でも、マナーのレッスンが無くなれば、もしかすると治癒師としての仕事を増やすかもしれない。実際大病院からは、セリーナの勤務日数を増やして欲しいと、僕に打診してきたくらいだ。
でも、これ以上セリーナに仕事をさせたくはない。これ以上、一緒にいる時間を奪われたくはないのだ。そう、完全に僕の我が儘だ。は~、いつから僕はこんなに自分勝手な人間になってしまったのだろう。正直、本当に僕と結婚して、セリーナは幸せになれるのだろうか…
そんな気持ちすら生まれる。
「ルーク、ため息を付いていないで、急いで準備をしなさい。そう言えば、陛下が喜んでいたよ。お前が王太子の仕事を手伝いだしてから、物凄く仕事の進みが早くなったってね。毎日来て欲しいぐらいだって」
「父上、毎日は無理だよ!」
「ああ、分かっているよ」
そう、僕は次期公爵として、王太子でもあるディオの補佐をやらされているのだ。ただし、セリーナが病院に勤務している週3回だけだ。そもそも今は公爵家を継ぐため、猛勉強中だ。
ただでさえ7年も病気で何もできなかったのだ。7年分を取り返さないといけない。そんな中、陛下から“どうしてもディオだけでは手が回らない。頼む、手伝ってやってくれ!”と泣きつかれ、仕方なく手伝っているのだ。
今日も早速ディオが待つ執務室へと向かう。それにしても、どうしてこいつはこんなにも書類をため込むのだろう。本当にだらしのない奴だ。今日も急ピッチで作業を進めていく。
「ルーク、元気がないみたいだが、どうしたんだい?もしかして、セリーナ嬢と喧嘩でもしたのか?」
黙々と仕事をしている僕に、話しかけて来たディオ。話す暇があるなら、手を動かせよ!
「別に喧嘩なんかしていない!ほら、無駄話をしていると、仕事が終わらないぞ。大体、どうしてこんなに仕事を溜めるんだよ!」
僕の問いかけに、気まずくなったのか俯いて書類を眺めるディオ。本当にこいつは!
とにかくある程度片付けないと。必死で作業を進めたおかげで、何とか書類は片付いた。
「さすがルーク、あんなにあった書類を全部片づけるなんて。次もよろしく!それじゃあ、気を付けて帰れよ」
本当にこいつは調子がいいのだから!若干イライラしながら、馬車に乗り込んだ。今日も疲れたな、セリーナはきっとまだ帰っていないだろう。そう思ったら、増々イライラしてきた。
ふと外を見ると、ちょうど大病院の前を通っているところだった。その瞬間、僕は自分の目を疑った。なんと、セリーナが男性と手を握り合っているではないか!体中から怒りが込み上げてくる。
「今すぐ馬車をとめろ!」
僕の怒鳴り声と共に、馬車がとまった。急いで馬車から降り、セリーナの元へと向かう。
「セリーナ!君は一体何をしているんだ!!」
大声で叫ぶと、びっくりした様にこちらを見るセリーナ。
「ルーク様、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
こてんと首を傾けている。
「そんな事はどうでもいい!どうして君は男性と手を握り合っていたんだ!この男が好きになったのか?どうなんだ!」
物凄い勢いでセリーナに詰め寄る。
「ルーク様、違いますわ。この方のお子様が、体調が良くなったので治癒魔法を掛けたのです。ただそれだけですわ」
「それなら、どうして手を握っていたんだ!」
「あの、先生を怒らないで下さい!お金が無く追い払われた私達を追って来てくださり、さらに無料で治癒魔法を掛けて下さったのです。そのおかげで、息子もすっかり元気になりました。それが嬉しくて、つい手を握ってしまったのです。もちろん、下心があった訳ではありません」
「主人の行いのせいで、不快な思いをさせてしまった様で、申し訳ございません!どうか先生を怒らないで下さい!」
ん?女性の声?
ふと男の隣を見ると、赤ちゃんを抱っこした女性が立っていた。馬車の位置からでは、女性の姿が見えなかったのだ!一気に恥ずかしくなった。きちんと確認もせず、セリーナを怒鳴りつけるなんて!僕はどれだけ嫉妬深い男なのだろう。
「すまなかった。馬車からは女性の姿が見えなくて、つい…」
「ルーク様ったら。でも、私を心配して来て下さったのでしょう。嬉しいです!」
そう言って抱き着いて来たセリーナ。
「もしかして、先生の旦那様ですか?」
「まだ結婚はしておりませんので、婚約者です」
「まあ、そうだったのですね。主人が変な誤解を与えてしまい、申し訳ございませんでした」
再び女性が頭を下げた。
「頭を上げてください。僕が変な誤解をしただけですから!」
そう、醜い嫉妬心から、こんなバカな誤解をするなんて。正直恥ずかしすぎて死にそうだ。もう俯く事しかできない。
「また何かあったらいつでも来てくださいね!」
「はい、ありがとうございます。それでは、失礼します」
嬉しそうに帰って行く親子。
「あの…セリーナ。すまなかった。変な誤解をして…」
「先ほども言いましたが、ルーク様が心配して飛んできてくれた事、とても嬉しかったです。だって、それだけ私の事を思ってくれているという事でしょう!」
そう言って再び僕に抱き着いたセリーナ。
「ルーク様、最近治癒師の仕事が忙しく、申し訳ございませんでした。今日やっと新しい治癒師が2人入りましたので、これからは早く帰れそうです。これで少しはルーク様との時間も増えますね。最近一緒にいる時間が少なかったから、実は寂しかったのですよ」
そう言って、恥ずかしそうに笑ったセリーナ。
「少し待っていてもらえますか?すぐに着替えて来ますので、一緒に帰りましょう!」
急いで病院に戻って行くセリーナ。セリーナも、僕と同じ気持ちだったんだ。そう思ったら、心の奥が温かくなった。やっぱり、僕のセリーナは最高だ。
戻って来たセリーナと一緒に馬車に乗り込み、2人仲良く屋敷に戻ったのであった。




