第22話:何が起こっているのか状況がのみ込めません
「皆さま、お待たせして申し訳ございません」
そう言って頭を下げたルーク様に合わせて私も頭を下げた。
「さあ、セリーナ、こっちにおいで」
ルーク様にエスコートされ、2人並んで席に着いた。
「ちょっと、王族や貴族を集めて何をするつもりなの?」
そう叫んだのはファミア王女だ。
「今日集まってもらったのは他でもない。実は、そこにいるセリーナ・ミルトン伯爵令嬢に、王宮治癒師に任命すると言う嘘の任命書を発行した人物がいるとこが判明してね。それで、皆に集まってもらったという訳だ」
そう言ったのは、シャディソン公爵だ。嘘の任命書?一体どういう事なの?さっぱりわからない。
周りの貴族も騒めきだした。
「シャディソン公爵殿、一体どういう事ですか?私達にも分かる様に説明してください」
1人の男性がシャディソン公爵に向かってそう叫んだ。きっと高貴な身分の貴族なのだろうが、何分貴族の顔が頭に入っていない私は、誰なのかさっぱり分からない。
「知っている者も多いとは思うが、先日ファーレソン公爵家のパーティーに参加した際、心臓発作を起こした私をセリーナ嬢が助けてくれたのだ。それで昨日、お礼に向かったのだが、その際ファミア王女がちょうど伯爵家を訪ねて来ていてね。セリーナ嬢に“王宮治癒師に決まった!これは王命で断れない。断ったら家族ともども命の保証はない”なんて物騒な話が聞こえて来たからびっくりしたんだよ。それで王女が置いて行った任命書を見たら、どう見ても偽造されたものだったから、さすがにこれはマズいと思って、皆に集まってもらったんだ」
そう言うと、シャディソン公爵が、私から預かった任命書を皆に見せた。
「確かにこの任命書は偽物だ!そもそも、王宮治癒師は王族と侯爵以上の貴族の2/3以上が賛成しないと任命できないはずだ。それに、生涯拘束される事から、本人の意志を聞く事になっているはずだが!」
そうなの?そんな事、全く知らなかったわ。お父様も知らなかった様で、目を丸くして固まっている。
「ファミア、一体これはどういう事だ!そもそも、任命書を偽造する事は重罪だぞ!最悪の場合、極刑だって有り得るんだ!」
そう叫んだのは王太子様だ。
「そんなの私知らないわ!そもそも、私は伯爵家になんて行っていないわ!変な言いがかりはよして頂戴!そう言えばビアンカ、あなた私の事を嫌っていたわよね。だから父親に頼んで、こんな言いがかりを付けているのではなくって?」
「おい、ビアンカをバカにする様な事は言うな!そもそもビアンカを嫌い、嫌がらせをしていたのはお前の方だろう!心優しいビアンカを悪く言うなら、私が許さないぞ!」
なぜか王太子様と王女様の兄妹喧嘩が始まった。王太子妃でもあるビアンカ様は、どうしていいのかわからず戸惑っている。ギャーギャー言い合いをする2人を止めたのは陛下だ。
「いい加減にしろ!2人共!とにかくその偽造された任命書と、お前の指紋を調べればすぐにわかる事だ。今すぐ王宮魔術師を呼んで調べさせろ!」
陛下の指示で急いで王宮魔術師を呼びに行く執事たち。
「陛下、その必要はありませんよ。昨日王宮魔術師と一緒に伯爵家に行き、魔法でセリーナ嬢とファミア王女のやり取りを復元してあります。どうぞこちらをご覧ください」
シャディソン公爵が魔法でスクリーンを出すと、昨日の私たちのやり取りが映像として流れ始めた。そこには私たちの様子がはっきりと映されていた。
「こんなの嘘よ!出鱈目だわ!」
そう叫ぶが、さすがにここまで鮮明な映像が残っていては、さすがに言い逃れは出来ないだろう。
「何が出鱈目なんだ!お前は一体何をやっているのだ。嘘の任命書を付きつけ、さらに嫌がるセリーナ嬢を脅迫するなど、さすがに私も庇いきれないぞ!」
そう言ってファミア王女を怒鳴りつける陛下。隣では王妃様が真っ青な顔をして口を押えている。
「ファミア王女、あなたのやった事は重罪です。このような事がまかり通ってしまえば、陛下への忠誠心が揺らぐ原因にもなります。それが何を意味するかくらい、あなたでもわかるでしょう?」
「確かにこれは酷い、王族の権力を使い、家族を人質に伯爵令嬢にいう事を聞かせるだなんて!王族としてあるまじき行為だ!」
「「「「そうだ!そうだ」」」」
貴族たちが一気にファミア王女を責め始めた。これは一体どうなっているのだろう。何が何だかわからず完全に動揺してしまい、周りをキョロキョロと見る事しか出来ない。
その時、ルーク様が私の肩を抱き、にっこり微笑んだ。そして、ファミア王女をまっすぐ見つめた。
「ファミア王女、先ほどの映像を見ると、僕があなたと結婚するみたいな話になっているが、はっきり言ってあり得ない。なぜなら、僕はこれっぽっちもあなたを愛していないからだ!そして、僕が心から愛しているのはセリーナただ1人!セリーナと結婚出来ないなら、僕は一生独身でいるよ!」
そう言い切ったルーク様。
「ルーク、一体何を言っているの?私の方があんな女よりずっと魅力的よ。大体ちょっと治癒力が高いだけで、何の取り得もない普通の令嬢じゃない!」
そう言い放ったファミア王女。と、次の瞬間!
「黙って聞いていれば、好き勝手言ってくれるじゃない!セリーナちゃんが何の取り得も無いですって!!!セリーナちゃんはね!緑の湿疹に覆われていたルークを、最初から1人の人間として接してくれたの!移るかもしれないのに、素手でお世話をしていたのよ!それに比べてあなたはルークになんて言った?“気持ち悪い!緑の怪物みたいですわ”そう言ったわよね!その上7年間一度も見舞にも来なかった分際で、今更ルークと結婚しようだなんて、図々しすぎるのよ!!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るお義母様。いつも穏やかなお義母様が鬼の様な形相で怒鳴りつける姿を見て、皆固まっている。さらにお義母様に怒りは収まらない様で…
「セリーナちゃんは、あんたなんかより何億倍も魅力的な女性よ!これ以上セリーナちゃんをバカにしたら、いくら姪でも許さないわよ!お兄様、一体どんな教育をしたら、こんなバカ娘に育つのかしら?一度修道院にでも入れて、根性を叩き直してもらった方がよろしいのではなくって?」
そう言い切ったのだ。チラリとファミア王女を見ると、唇を噛んで悔しそうな顔をしていた。
「母上の言う通りだ。君はちょっと図々しすぎる!一度世間の荒波に揉まれた方が良いのかもしれないね」
ファミア王女に向かって、満面の笑みでそう言い放ったルーク様。それにしてもこの親子、どさくさに紛れてバカ娘やら図々しいやら、好き勝手言って大丈夫かしら?この後が心配だわ。




