第21話:ルーク様に連れられて来た場所は王宮でした
シャディソン公爵が帰った後、1人自室に戻った。もうこれでルーク様とはお別れなのね。そう思ったら涙が止まらない。
コンコン
「セリーナ、大丈夫?」
訪ねて来たのはお母様だ。
「セリーナ、あなたがどうしてもルーク様と一緒になりたいなら、陛下に異議申し立てをしてもいいのよ。いくら王族だからって、こんな一方的なやり方はおかしいと思うの。明日、ファーレソン公爵様にも話してみましょう。それに、シャディソン公爵様もあなたの味方の様だし。きっと大丈夫よ」
そう言って慰めてくれるお母様。
「ありがとう、お母様。確かに私はルーク様と一緒にいたいわ。でも、それ以上にルーク様には幸せになって欲しいの!7年も病気に苦しめられてきたのですもの。ルーク様には幸せになる権利があるわ。だからね、出来るだけルーク様を厄介な事には巻き込みたくはないの。私が王宮治癒師になれば全て上手くいくなら、そうしようと思っているわ」
「セリーナ…」
私と一緒にいる事でルーク様の風当たりが強くなるのなら、私は自ら身を引く覚悟がある。それくらい、ルーク様が大切だから!大丈夫よ、私にはルーク様との楽しかった思い出もある。きっとその思いでだけで生きて行ける!そう自分に言い聞かせた。
「セリーナ、あなたはいつも自分を犠牲にする癖があるのよね。12歳で治癒師として働きに出ると言った時もそうだった。でも、そうさせたのは私達ね。ごめんなさい…」
「お母様達のせいではないわ!そもそも、治癒師の仕事はとても好きなのよ。天職だと思っている。今回の王宮治癒師の仕事だって、別に仕事自体は嫌って事は無いの。とても名誉な事だし!だから泣かないで、お母様」
涙を流すお母様を、ギューッと抱きしめた。あぁ、私って家族までも悲しませていたのね。しっかりしないと!
「お母様、王宮治癒師になったら王宮で生活できるのよ。凄いと思わない?きっと今まで見た事も無いほど豪華な食事が並ぶのよ。そう思ったら、なんだか楽しみになって来ちゃった。お給料もいっぱい貰えるだろうから、家も大金持ちね」
そう言ってお母様に笑いかけた。そうよ、王宮治癒師だってそう悪くはないはずだわ。せめてしっかり働いて、家族を幸せにしよう。
「ありがとう、セリーナ。あなたは本当に優しい子ね」
そう言ってさらに泣き出すお母様。どうやったら泣き止むのかしら。アタフタしている間に、勉強を終えた弟や妹たちがやって来た。
「あ~、お母様が泣いてる?お姉さまが泣かせたの?」
「お母様、どこか痛いの?大丈夫?」
一気に賑やかになった私の部屋。お母様も涙が引っ込んだ様で、いつものお母様に戻った。その後は久しぶりに家族みんなで夕食を食べた。相変わらず賑やかな我が家。食後はまた弟や妹と一緒に遊んだ。
それにしてもこの子達、こんな小さな体のどこにこんなエネルギーがあるのかしら?そして今日は弟や妹たちと一緒にベッドに入った。1人でいると、どうしてもルーク様の事を考えてしまうけれど、こうやって皆がいてくれる事で、考えなくて済む。
やっぱり家族は良いわね。可愛い弟や妹たちの寝顔を見ながら、私も眠りに付いたのであった。
翌日
弟や妹と一緒に食事を済ませた頃、ルーク様が我が家にやって来た。私を見るなり、ギューッと抱きしめてくれるルーク様。普通なら嬉しくてたまらないはずなのに、今は胸が痛くてたまらない。
「セリーナ、おはよう。会いたかったよ!今日はちょっと一緒に来て欲しいところがあるんだが、いいかな?」
「ええ、もちろんですわ。着替えて参りますので、少しお待ちを」
急いで自室に戻って着替えを済ませ、玄関まで戻る。さすが我が家のスターでもあるルーク様。弟や妹たちに巻きつかれていた。
「ルーク様、お待たせして申し訳ございません。参りましょうか」
「え~、ルークお兄様もう行っちゃうの?嫌だ~」
そう言ってルーク様から離れない弟や妹たちを、メイドたちが何とか引き離した。
泣き叫ぶ弟や妹たちに
「また今度ゆっくり遊びに来るから」
そう1人ずつに声を掛けているルーク様。ルーク様は本当に優しい。そんなルーク様とお別れをしなければいけないなんて…考えただけで涙が込み上げて来た。
ダメよ、今泣いたら!必死に涙をこらえ、ルーク様と一緒に馬車に乗り込んだ。
「セリーナ、なんだか元気が無いようだが、何かあったのかい?」
馬車に乗った途端、私を抱きしめながら耳元で呟くルーク様。
「いいえ、何でもありませんわ!それよりどこに行くのですか?」
「それは内緒!それより本当に何にもないのかい?そうそう、婚約を正式に結ぶ日だが1週間後に決まったよ。僕たちはもう婚約者みたいなものなのだから、隠し事はしない様にしようね」
ルーク様はまだ私が王宮治癒師になる事を知らないのだわ。きちんと話さないと!でも、もう少しだけルーク様に内緒にしておきたい…今日の帰りにきちんと話そう。それまでは、ルーク様の恋人として過ごしてもいいわよね…
「セリーナ?聞いているのかい?」
「ええ、聞いていますわ!行き先が秘密だなんて、なんだか楽しみですわね。どこに行くのかしら?」
そう言って窓の外を眺めた。あら?あれは王宮?そう、私たちの乗っている馬車は、明らかに王宮の方に向かって走っている。一体どういう事かしら?
やっぱり馬車が停まった場所は、王宮の門の前だった。
「セリーナ、着いたよ。さあ、行こうか」
「あの、ルーク様…」
なぜか少し怒っているルーク様に手を取られ、馬車から降ろされると、スタスタと歩きはじめたルーク様。なぜ王宮に来たのかしら?さっぱり分からないが、とりあえずルーク様について行く。
すると、大きな扉の前で立ち止まった。ルーク様がゆっくり扉を開けると、そこには陛下や王妃様、王太子様と王太子妃様、ファミア王女。さらに沢山の貴族が集まっていた。もちろん、ファーレソン公爵やお義母様、シャディソン公爵もいらっしゃる。なぜかお父様までいるわ。
一体これはどういう事なのかしら?




