第15話:王族とご対面です
ある程度挨拶が終わった頃、家の両親がやって来た。
「公爵様、夫人、ルーク様、お久しぶりでございます。ルーク様、この度は無事完治されたとお伺いしました。誠におめでとうございます」
「ミルトン伯爵に夫人、今日はよく来て下さいました!本当にセリーナ嬢には感謝しております。寝たきりで動けず、緑の湿疹に全身を覆われていたルークが、ものの2ヶ月でこんなにも元気になったのですから。これからも、末永くどうぞよろしくお願いします」
そう言って公爵様が頭を下げた。
「公爵様、頭をお上げください!こちらこそ、金銭面で色々と良くしていただき、ありがとうございました。おかげで貴族らしい生活を、子供たちにも送らせてやることが出来ます。本当にありがとうございます」
お父様とお母様が慌てて頭を下げているので、私も下げておいた。その後軽く世間話をして、両親は去って行った。ふと両親の方を見ると、次々に貴族たちに話しかけられている。
それにしても、お父様もお母様も普通に話しているわ。あれでも一応伯爵と夫人なのね、見直したわ。両親を見て感心していると、音楽が流れ始めた。ふとホールを見ると、何組かの男女がダンスを踊っている。
「セリーナ、僕達も踊ろう」
ルーク様に手を引かれ、ホールの真ん中まで来ると、音楽に合わせて踊り始めた。大丈夫よ、あれだけ練習したのだもの!練習通りにやればいいのよ!自分に言い聞かせ、必死に踊る。
「セリーナ、少し動きが硬いね。大丈夫だよ。練習通りに踊ればいいんだよ」
やっぱり堅い?そりゃこんな大ホールで踊るのだから緊張するわ。そう思いつつも、だんだん慣れてきて、最後の方は普通に踊れる様になってきた。そして、2曲目スタートだ。
この頃には、随分と慣れて来た。その時、何を思ったのかルーク様が私を回転させたのだ。
「ちょっと、ルーク様!何をなさるの?」
「だって、練習の時もクルクル回っていただろう?」
「あれはお遊びでやっていたのです!本番では…キャ」
再び私を回転させるルーク様。その後も何度も回転させられながらも、何とか踊りきった。もう、ルーク様ったら!そう思っていたのだが、なぜか周りから大きな拍手が沸き起こる。
どうやら注目されていた様だ!完全に動揺する私をよそに、腰をがっちりつかんだルーク様に再びエスコートされながら、公爵様達の元へと戻った。社交界で注目なんてされたことが無い私は、ちょっとしたパニック状態だ。
その時、美しい金髪の女性がこっちにやって来るのが見えた。この女性は、まさか…
「ルーク、久しぶりね!すっかり元の姿に戻ったのね。嬉しいわ!」
私を押しのけ、ルーク様の胸に飛び込む女性。
「ファミア王女、僕に気安く触るのは止めてください」
そう言って突き放すルーク様。そう、この女性はこの国の第一王女でもある、ファミア王女だ。
「ルーク、まだ私が婚約を解消した事を怒っているの?あの時は仕方がなかったのよ。それよりも、この女があなたを治療してくれた治癒師なの?」
私の事を頭の先から足の先までジロジロ見る王女様。さすがにその視線は王女としてあるまじき行動だが、もちろん注意するなんて恐れ多い事は出来ない。
「別に婚約を解消したと事は怒っていないよ。緑の怪物なんかとは、さすがに婚約を継続できない事は分かっていたからね。そうそう、彼女が僕を救ってくれた命の恩人であり、僕の大切な人でもあるセリーナ・ミルトン嬢だ」
そう言うと、私の腰をしっかり抱いて自分の方に引き寄せたルーク様。今、大切な人と言ったわよね?ダメよ。誤解したら!きっと命の恩人として大切という意味よ!何とか自分に言い聞かせた。
「やあ、ルーク、随分と元気になったね。彼女が治癒師のセリーナ・ミルトン嬢か。それにしても、本当にすごい治癒師だね。将来が楽しみだ」
私達に話しかけてきたのは、まさかの陛下だ!さすがにどうしていいのかわからず、固まるしかない。
「お兄様、セリーナちゃんの治癒力は確かにこの国一番と言っていいほど素晴らしいけれど、あまり期待しないで頂きたいわ」
「ハハハ、お前も随分元気になってよかったよ。本当に、あの頃は泣いてばかりだったものな!でも、本当にルークが元気になってよかった。ルークを助けてやってくれて、ありがとう、セリーナ嬢」
陛下にお礼を言われてしまったわ。それにしても、やっぱりお義母様は陛下の実の妹なのね。陛下と普通に話しているのですもの。おっといけない、私も挨拶をしないと。
「御挨拶が遅れて申し訳ございません、陛下。治癒師をしております、セリーナ・ミルトンと申します。お褒めの言葉、大変うれしく思います。これからも精進して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします」
こんなものでよかったかしら?よく分からないが、陛下も笑顔で頷いているから、良しとしよう。
「それにしても、セリーナ嬢は凄いね。そうだ、良かったら今度、王宮に遊びにおいでよ」
次に話しかけてきたのは、王太子殿下だ。もう嫌…目が回りそうだわ…
「おいディオ、あまりセリーナに話しかけるな!」
「嫉妬深い男は嫌だね。お前もたまには王宮に顔を出せよ。また昔みたいに、打ち合いをしよう」
ルーク様も王太子殿下と普通に話しているし、やっぱり私とルーク様では住む世界が違うのね。こんな光景を見せられたら、さすがの私も諦める決心がつきそうだわ。このパーティーが終わったら、早々に実家に帰ろう。そして、また診療所で治癒師として働こう。
でも…
やっぱり胸が苦しい。大丈夫よ、いつもの生活に戻れば、きっと時間と共にこの痛みも落ち着くはずだから…




