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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第八章 アメリカン・ロビン=フッド㊦
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第二話 後の先⑦



 夕暮れ。

 三月に入ったとはいえ、まだ日の暮れは盛夏に比べて短いものである。

 角度のついた陽光は建物の影を一層引き延ばし、薄暗さを加速させていた。

「とっとと帰ろ……」

 昼休みを功刀(くぬぎ)と過ごしてからも、その後の授業や休み時間では周囲からの視線を感じて気が休まる時間は早々無かった。

 俺自身、我が家が家宅捜索されるに至る理由に心当たりがあり過ぎて、非常に居心地が悪かったのである。

 終始気を張りっぱなしでいる事を強いられ、そのせいで普段以上に体が重く感じられて、ペダルを漕ぐ足も普段より遅い。

「…………」

 もう数日はこんな状態が続きそうだなーと、気を滅入らせつつ自転車を進ませていた時、進路を二台の自転車が阻んでいた。

「……嘉者熊(かしゃくま)さんに、鴻上(こうがみ)? どうしてここに」

「久し振りね、百鬼 護! 随分と疲れた顔をしているみたいだけど、警察にそんなこっぴどくやられたの?」

「そう言う訳じゃないんだが……もしかして、俺を待ち伏せしてたとか?」

 びし! と勢いよく人差し指を突き付けてくる小柄な少女――嘉者熊 優佳里は、明らかに面倒臭そうな気配がする。

 そしてもう一人の少女――鴻上 瑞稀の視線もまた、真っ直ぐに俺を捉えて放す気配が見られなかった。

「……俺もう疲れてるんで、手短にお願いしますよ」

「手短に済むかどうかはお前次第よ。それじゃ、質問に答えて貰おうかしら?」

「どうぞ……拒否権無さそうだし」

 無理矢理突っ切っても良いが、それはそれで後々面倒臭い事になる未来が見えるのだ。ならここでとっとと要件を済ませてしまわない手はなかった。

「あら、殊勝ね。じゃあ遠慮なく問わせて貰うわ。百鬼 護! 綾音ちゃんをどこに連れ去ったの?」

「……藪から棒に何だその質問は」

「藪も棒もへったくれもないよ! ここ数日、綾音ちゃんが行方不明だって聞いて……それに私、知ってるんだからね? 百鬼組が家宅捜索を受けた理由の一つに、誘拐容疑が入ってるって事!」

 自信満々に、そして調子良さそうに言い切った彼女は、その小柄な体格に不釣り合いな双丘を張り出していた。

 一瞬そちらに目を奪われかけた俺は、すぐに視線を引きはがしてアスファルトに落としていたのだった。

「綾音が行方不明になって、ウチに家宅捜索が入って、それで俺が綾音を誘拐したんじゃないかと思った訳か……」

「当然でしょ! いつかやると思ってたんだから! さあ吐きなさい、綾音ちゃんをどこに誘拐したの!?」

「してねーよ。そもそもその家宅捜索だって何も見つからないで警察は肩落として帰って行ったんだぞ? ウチの潔白は証明されてんの」

 銃刀法違反とか銃刀法違反とか銃刀法違反とかは棚に上げて、俺は毅然とした態度で嘉者熊に反駁(はんばく)する。

 何故ならその辺の物は一つも見つかっていないから! バレなきゃ有罪ではないのである!

「そもそも、俺が綾音を誘拐して一体何の得があると……」

「どうせ薄暗いところに綾音ちゃんを監禁して、媚薬塗って感度何千倍とかやってるんでしょ!?」

「お前は脳味噌溶けてんのか?」

 妄想逞しいとはこの事であろう。

「そうやって体を改造された綾音ちゃんを、私が助けだして慰めて……」

「公衆の面前でえげつない妄想垂れ流さないでもらえます?」

「ぎゃん!?」

 これ以上は危険だ。そう判断した俺は嘉者熊の脳天に手刀を振り下ろす。周囲の歩行者から視線を向けられている気がするが、これ以上危険な内容の話を続けられるよりは遥かにマシであった。

「何度も言うが俺は綾音に何かした訳じゃない。むしろ俺は、アイツを探してる方で……っ」

「探してる?」

「あ、ああ……探してるんだが、全然見つからなくて。ウチとしてもお手上げ状態なんだ」

 勢い余って全部を話してしまいそうになって、俺は慌てて言葉を打ち切った。そのせいか、嘉者熊にも鴻上にもそこを深く追及される事は無かった点は、幸運だったとも言えそうだ。

「果たして、どこまでが本当か……」

「いや全部本当だっての。ってか、鴻上も俺におんなじことを聞きに来たのかよ?」

「それもあるけど……家宅捜索って、本当に大丈夫だったの? 色々大変なんじゃないかなって」

「大した事ないよ。結局何も出て来なかった訳だし。心配してくれてありがとな」

 中学からの同級生である鴻上にそう言ってやれば、彼女が微笑んでから一度頷いた。

「そっか、良かった。片付けとか大変そうなら手伝うけど……」

「いや大丈夫だって。片付けくらいはウチのもんだけで幾らでも出来るから。他の人の世話が必要な程じゃない」

 そう言って彼女の申し出を丁重に断った俺は、そのまま話題を打ち切ってペダルを漕ぎ出そうとする、が。

「待って」

「何だ嘉者熊さん、まだ用があんの?」

「綾音ちゃんの行方、本当に分からないの?」

「……何でそんなに念を押してくるんで?」

 進路を遮って、何かに縋るような彼女の気配に、俺は疑問を覚えて訊ねていた。

「だって、警察に訊いてもまだ手掛かりもないから答えられる事は何も無い、の一点張りで……何の情報もないから」

「…………」

 当然だ。この件に関して警察が当てになる筈がない。

 その理由を、俺は知っている。知っているが、ここで彼女に教える訳には行かない。

 知れば彼女もまたとんでもなく危険な非日常に巻き込まれてしまうだろうから。そんな事態は、誰も望んでいないだろうから。

「そうか、警察も駄目か」

「だから、百鬼組なら……百鬼 護ならって!」

「残念だが俺から答えられる事も何も無い。捜索はしてるんだけど、尻尾もつかめてないんだ」

 仮にここで全てを話したところで、到底信じられる内容ではないのだ。

 故に、俺も申し訳なさそうな顔をして、警察と同じ内容を述べる。

 答えられる事は何も無い、と。

「そんな……警察も、百鬼組も見つけられないなんて……じゃあ、誰が綾音ちゃんを見つけてくれるの!? ねえ!」

「すいません……」

 実際の話をするのなら、百鬼組は綾音が囚われている場所ももう掴んでいる。でも、それだって教える訳には行かない。

 何も知らないとしか、答えられない。

 ……でも、言える事はある。

「綾音は、必ず見つけるから。またすぐに学校へ顔を出す様になると思うから、もう少しだけ待って貰えます?」

「……本当に?」

「必ず。約束だって何だってしてやりますよ。嘉者熊さんがそれで納得するんならね」

 (まなじり)に雫を溜め込んだ嘉者熊へ、気付けば俺は啖呵を切っていた。

「綾音を必ず、ここへ戻してやりますから」



◆◇◆


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