表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
292/565

第一話 包囲構築⑧

◆◇◆



 高層ビルが建ち並ぶ群れのその一棟の一室。

 木目調の壁、天井。黒と灰のタイル状のマットが床には敷かれていた。

落ち着いた色で占められた室内は、規則正しく机が並び、天井に備え付けられた蛍光灯はその高級感すら与える内装を余すことなく照らしている。

 室内には老境に差し掛かった頃と思しき男達が寛いだ様子で椅子に深く腰掛け、部屋の一点を見つめていた。

「さて、本日はこのような場に私のような者をお呼びいただいて感謝の言葉もございません。この榮森 晋太郎、皆さまのご期待に添えるよう、全力を尽くさせていただきます」

「うむ、今日はよろしく頼むぞ。因みに、君の横に立っているそれは誰だね?」

 背広を纏う小太りの男が場違いなものを見るかのような目を向ける先にいたのは、銀髪かつ三白眼の長身の男だ。顔の彫も深く一目で外国籍と分かるその見た目は、その場にいる誰もの注目を引いていた。

 そんな彼らの問いに対し、榮森は些かの気後れも見せずに堂々と応じて見せる。

「こちらは私の協力者、“アーベント”と申します。今回の議題を皆様にご説明する上で彼の存在は必要不可欠ですので、予め皆様の許可もいただいた上でこの場に連れて参りました。さ、挨拶を」

「アーベントと申します。このような貴重な場にお招きいただき恐悦の至り。以後、お見知りおきを」

「では、彼の自己紹介も済んだ所で本題へと移らせていただきましょう。宜しいでしょうか?」

「……構わん。頼んだぞ榮森くん」

「はい」

 この場に居るのは、榮森よりも遥かに格上の存在達だ。無論、それは腕っぷしの話ではなく、社会的地位の話で。

 下手な粗相でもすれば、それだけで榮森が抹殺されたとしてもおかしくない程の人間を、それも複数相手にしていたのである。

「今回皆さまにお話するのは、ご存じの通り魔法についてで御座います。ここにいらっしゃる方々もその存在についてはご存じでしょう?」

「知っているとも。フィクションの中でな。あれは程良く時間が潰れるのでね、私も偶に世話になるよ」

「私は子供の時分にアニメなどを見た覚えがあるくらいですかね。歳をとるにつれて見なくなりました。それでも魔法について、不思議な力くらいの認識はあるがね」

「ええ、仰る通りです。事実この魔法と呼ばれる力は我々からしてみれば不思議極まりない。そして強力極まりない、新たなエネルギーなのです」

 身振り手振りを交え、まるで舞台俳優を彷彿とさせる榮森の語り口だが、それに対する老人たちの反応はまちまちだった。

 中には彼の言葉を聞いて鼻で笑い嘲りの色を隠そうとしない者も見受けられたものの、榮森はそちらに構う事はしなかった。

「お手元の資料をご覧ください。魔法とは一体何であるのか、と言うところからご説明いたします。魔法の源となるものは魔力と呼ばれ、そしてその魔力が存在する事により特殊能力として魔法が行使出来ると考えられています」

「考えられる、とは……それを述べたのは一体誰だ?」

「ここに居ります、“アーベント”です」

「ほう、君か。このような小学生の想像のようなものをでっち上げて、私を騙せると思っているのかね? だったら、トリックであっても例の一つくらいはここで示してみて欲しいものだ」

 ぱさぱさ、と老人の一人がレジュメを扇の様に煽ぎ、テーブルを軽く叩く。

 その態度は明らかに“アーベント”を見下し馬鹿にしているものだったが、当の彼は感情に揺らぎの一つも見せない。

「皆さまの疑問は尤もだと思います。“アーベント”、この場の方々に一つ実物を御覧にいれろ」

「承知しました。では、僭越ながら実演を(つかまつ)りましょう」

 その瞬間、本来は無風の筈の室内で微風(そよかぜ)が巻き起こる。周囲に扇風機の類も見当たらないだけに逸れは異様であり、老人たちも周囲を見回して目を白黒させ始める。

「これは……」

「今御覧に入れているのは、魔法の一端。本当にほんの少しの部分だけでございます」

「ふん、天井に設置された空調を入切すればこの程度の風なら幾らでも起こせるだろう。そんな狼狽える事でもあるまい」

「はてはて、それはどうですかな?」

 その瞬間、烈風が室内を吹き荒れた。

 整髪料で撫でつけられていた老人たちの髪はぐしゃぐしゃに暴れ回り、当然のようにレジュメと、誰かの(かつら)が室内をひらひらと舞う。

 まるで室内を台風が訪れたような有様が一瞬にして出来あがり、強烈な風を顔面に受けては呼吸も(まま)ならくなるのだ。

「な、何なのだこれは!?」

「魔法です。皆さまがお求めになるようでしたら、このまま皆様の体を浮かせる事も出来ますが……いかがですか?」

「……わ、分かった! もう良いだろう! その力はもう十分に伝わった!」

「そうですか。なら良かった。“アーベント”、止めろ」

「はい」

 その瞬間、部屋を暴れ回っていた風は一気に勢いを失って、その残り(かす)がレジュメを天井でヒラヒラと乱舞させていた。

 やがてはその残り滓も力を失い、一部ずつホッチキスで止められたレジュメは元の机の上へと戻っていき、(かつら)も一人の禿頭の下へと着地を決めている。

「こ、こんな……!?」

「これが魔法、その力の一端です。銃を持たずともこれ程の力を持つ事が出来るとあれば、驚異的な事だとは思いませんか?」

 老人たちの下に、風の力で正確に配り直されるレジュメまで見せつけられては、疑う余地は一層なくなったらしい。

 半信半疑、もしくは疑心しかなかった老人は誰もが顔を青くし、何度も頷いて見せていた。

「そ、そこの男は魔法が使えるのだとすれば……そ奴は、何者なのだ?」

「彼は我々とは違う並行世界(パラレルワールド)、つまりは異なる世界からやって来た存在です。そしてつまり、魔法もまた本来は別の世界の技術であるという事でもあります」

並行世界(パラレルワールド)、だと?」

「ええ。この世界と向こう側の世界とを奇跡的に繋ぐ時空の乱れ……(ひずみ)と呼ばれるものを通ってこの世界へやって来たのが彼なのです」

 榮森からのその紹介に、老人たちの驚愕の視線が“アーベント”へ集中するのは必然だった。猜疑、警戒、恐怖、興味……多種多様な色を含んだその視線を可視化したら“アーベント”は針鼠の様になっている事だろう。

「その……“アーベント”君は、一体何の目的でこの世界へやって来たというのだ?」

「犯罪者の追跡です」

「犯罪者?」

「ええ、名をヴィオレット・オーバン。彼女は時空に関する実験を行い、失敗。その結果として不当にこの世界と向こう側の世界を繋げてしまう(ひずみ)を発生させ、その責任を取らずこの世界で逃亡生活を続けているのです」

 もっともらしい言葉を並べて立ててやれば、彼が睨んでいた通り老人たちからその主張を完全に疑う者は出ない。

 そもそも、この場においてアーベントの主張を疑ったところでどちらの証明もやりようは無かったのだが。

「なるほど……では、そのヴィオレット・オーバンとやらを確保したら君は元の世界に帰還する、という訳かね」

「当初はそのように考えておりました。しかし、彼女の逃亡は巧妙かつ強力で、私の力では捕えるのも難しく……榮森課長に相談してご助力いただいている訳でございます」

「状況が変わった、という訳か。して、その犯罪者の行方はつかめているのかね?」

「現状、松ヶ崎市の百鬼(なきり)組に(かくま)われている様です。おまけに、その構成員にも能力者が紛れ込んでおり……厄介な事この上ないのです」

「居場所が分かっていても駄目なのかね? 上手くでっち上げた罪状を作り乗り込み、現地では情報封鎖と流布を織り交ぜて上手く揉み消せれば良いのでは……」

 老人の一人が風圧で乱れた髪型を気にしながらそう言えば、“アーベント”に代わって榮森が口を開く。

「それについては私からご説明させていただきます。百鬼組は民間の自警組織でして、歴史がある上に規模がそれなりにあるのです。ここを無理矢理乗り込んだとしても衆目についてしまい、誤魔化すのはなかなか難しいのでございます。上手く周辺住民の印象操作なども施さねば……という訳なのです」

「ほう、たかだか民間団体如きがな」

 鬱陶しい蠅を見るかのようにレジュメに目を落とす老人。そんな彼から話題を引き継ぐように別の一人が口を開いた。

「しかし榮森くん、それを壊滅させる事が出来れば、魔法を研究する上で更なるサンプルの入手に成功するという事で間違いなのだね?」

「ええ、そういう事に御座います。ヴィオレット・オーバンについては協力の見返りとして”アーベント”に引き渡し、彼は元の世界へと帰還すると……このような協定で現在まで行動してまいりました」

「その協力の中で、“アーベント”君は我々に魔法に関する情報を渡してくれている訳か」

「ええ。現状、(ひずみ)を通して私達の世界から漏れ出した魔力がこの世界へと影響を及ぼしつつあります。それはつまり、私がこの世界を去った後も影響が残るという事。であれば、この世界にも魔法知識が必要である事は疑いようがありますまい」

 アーベントのその言葉を聞いて、老人の一人が拍手をする。

「何と有難い……その協力には感謝の言葉が尽きない。榮森くんも良く彼を味方につける事が出来たな。これで我々は、我が国は、他の先進国よりも更に先んじる事すら可能となるだろう」

「我が社も、国内だけでなく国外企業との差をつける事も夢ではない。素晴らしいではないか」

「私の会社も……いやあ、貴社と競合する分野でなくて幸いです。また日本企業が世界を席巻する日も近いという事ですかな」

「…………」

 捕らぬ狸の皮算用、との言葉がぴったりなその会話を、“アーベント”は人知れず冷め切った目で眺める。

 一方でそんな彼の態度を知る由もない榮森は、この和やかな室内の雰囲気を感知して上機嫌になったらしい。彼は胸を張って言う。

「私が先に確保した実験体たちは今も、皆様方の利益になっていくであろう事、誇らしく思います。苦労して捕えた甲斐があったと言うものですよ」

「ああ、榮森くんにも感謝の言葉尽きないな。政治家の彼は魔法について今日まで半信半疑であったが、私は実際にその数値を目の当たりにしている訳だからね」

「この魔法技術、仮に兵士が持つ事が出来たとしたら……これからの戦争が変わるぞ」

「もっとも、我が国は武器の輸出を禁じている。まずはそちらがどうにかならない事には、武器における利潤を得るのは難しいかと」

「それは政治家の貴方の仕事でしょう。期待していますよ」

「良いでしょう。ですがその分、成功した際の見返りも……期待していますよ」

 和気藹々とした会話は進む。

 それを笑顔で見守っていた榮森は、不意にポケットの中に入っていた携帯端末が着信を知らせている事に気付いた。

 余程の内容でなければ応答拒否しようかと思っていた彼は、しかしその画面に表示された見慣れない電話番号を目にして顔を(しか)める。

 そうして逡巡して二秒、彼は判断を下していたのだ。

「誰からだか分からんが……“アーベント”、少し外す。何かあったら呼んでくれ」

「承知しました」

 もとよりこの場は今、老人たちが勝手に盛り上がっていて落ち着くまで榮森は手持無沙汰である。少し席を外しても問題あるまいと判断した彼は応答ボタンを押しながら退室していた。

「……もしもし、榮森ですが」

『あ、あの……松ヶ崎警察署の警部、榮森 晋太郎課長の番号で間違いはないでしょうか?』

 聞こえて来たのは、少女の声だ。しかも緊張しているのかどこか震えている様で、榮森は益々(ますます)怪訝な顔をして問い返していた。

「そうですが……貴女は一体どなたでしょうか?」

『あ、はい! すみません、実は三日、四日前に榮森さんから連絡先をいただいた美才治 綾音という者なのですが……』

「数日前……ああ、もしかしてあの時の」

 記憶の海から紐を手繰り、その時の出来事を思い出した榮森は一人の少女の顔を脳裏に浮かべた。

「私に連絡をくれるとは、何かありましたか?」

『はい……その、百鬼(なきり)組について私の知っている事は全部お話します。なので、榮森さんのご存じな事を私にも教えて頂けたら、と思って』

「そうですか……それはそれは、わざわざお電話ありがとうございます。私としては一向に構いませんとも」

 スピーカー越しに聞こえる少女の不安そうな声とは対照的に、榮森は満面の笑みに明るい声で応じていたのであった。


【幕間】

護「毛利さんって、最近の趣味は何?」


吉「儂か? そうだのう、アニメ鑑賞に関してはもう外せん。風呂と飯も良い。囲碁将棋も指せば、剣術槍術……ここ最近は馬術が疎かになっているのが気になるのう」


護「いや馬術て。流石にこの辺で馬飼ってる人いないし、場所無いし……」


吉「買ってくれんかのう?」


護「いやゲーム機を強請(ねだ)るみたいに言われても。つか趣味が多過ぎる。多才だなあ」


吉「それが出来るのなら、やって見なければ損であろう? やってみて詰まらなければやらなければ良いだけなのだから」


護「なるほどねえ。馬を飼うのは無理かもしれないけど、ゲームとかやってみたらどう?」


吉「ゲームは悪くないな。既にそちらも触ってみたが、余計に馬に乗りたくなる。護は馬に乗らんのか?」


護「この時代の人間は馬なんて無縁だからね。車とかあるし」


吉「甘えるな小童。ケツの皮が初めて一人前となるのだ! 男陰ばかり剥いてるでないぞ!」


護「何かいきなり下ネタになった!?」


プ「私の出番かしら?」


護「呼んでねえ引っ込め!」


吉「しかし、馬が一般的でないとは……ここまで色々なものが豊かになれば、それもまた無理のない話ではあるのだろうが」


護「俺に言わせれば、昔の方が趣味少なくて辛いと思うけど」


吉「辛くはなかったぞ。ま、趣味に没頭し過ぎたら死に繋がるのだから、気を抜く間は少ないに越したことはなかったのだが」


護「戦国の世を生きた人は違うよな……」


吉「そう言えば、幼子の間では石合戦というのが流行っていてな」


護「石合戦?」


吉「言ってしまえば投石だ。子供の多くは熱中しておっての、死人や怪我人は風物詩であった」


護「風物詩って何だっけ……」


吉「何をそんな苦い顔しておる? この時代にとて死人の風物詩があるだろうに」


護「いやいや、そこまで不謹慎なものがこの時代の日本にある訳……」


吉「餅は違うのか? テレビでも毎年報道されている様だが?」


護「も、餅かぁ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ